2章 王都立学園
1年生
1話 入学の儀
《ルビを入力…》
「リア歴、185年。今年も新たに62名の生徒を無事、モルリア王国フィールン都立学園に迎えることが出来ました」
2月の初め。通称[王都立学園]の入学の儀。
アストロエス塔の2階にある講堂で、王都立学園の学園長、という人がよく通る声で話し始めた。62名の生徒がならぶ正面の5段ほど高い場所から、全生徒の顔を確かめるように右へ左へと何度も顔を動かしながら。
「慣れ親しんだ場所を出て、君たちにとっては初めての学園生活、寮生活となります。学ぶことは沢山あるでしょう。その中で分からないことや不安なことがあれば、いつでも先生がたに聞いてください」
灰色の髪と口髭の大柄なその男性は、温かい雰囲気をまとった声音に変えてつづける。
「私たちは、いつでも君たちに応えるつもりでいます。どうか、これからの5年間を1人ひとりが実り多いものにしてください」
そう言って口を閉じ、学園長は目の前の小さな机に置かれている分厚い本に、右手を載せた。
《1年生諸君、入学おめでとう!》
学園長は意外なほどに力強く、大きく叫んだ。
すると、その声に反応するように本が光ったかと思うと、講堂の天井に大きな金色の円が現れた。
その円は2重で、あいだに見たこともない文字のようなものが書かれている。
「ふおお……」
俺が茫然とその円を眺めていると、横から変な声が聞こえた。
少し目を下に向けた先に、
もう1度、俺も上を見る。
途端、天井に映しだされた2重の円の内側が、右にまわり出した。
少し遅れて周りを囲む円が左にまわる。
その違う方向に勢いよくまわる円から、金色の、まるで光のような粒がたくさん降りそそぎはじめた。
驚いて見ていると、その粒は、そこにいた生徒たち全員の身体に付き、染み込むようにして消えていく。
それは学園長の大声から一瞬のことで。
まわっていたそれぞれの円がギュッと止まり消えたかと思うと。
身体が、発光していた。
ボウッと光る全身を見つめていると、『なにこれ』『光ってる!』という声が周りでざわざわと大きくなっていく。
自分の光る両手を目を大きくして見ながら、俺はこのあと始まる[魔術1限目]とはどんなものなんだろうか、と考えていた。
*****
「やあ初めまして、だね」
目の前の金髪が、手を差し出して言ってきた。
俺はおずおずと同じように手を差し出しながら、少し頭を下げてみた。
「ディラン・モーズレーだよ。海の首都グラーシから来たんだ」
そう言って俺の手をギュッと握り、ぶんぶんと上下に大きくふる。
「ウィル・ヒュー、ズで、す」
あまりのぶんぶんに、やっとのことで名を告げるとようやく手を離してくれた。
「僕たち2人だけで4人部屋を使えるなんて、幸運だね」
海の首都から来た金髪は、自分の場所らしい窓際のベッドへと歩いて行きながら、嬉しそうに言った。
そして窓にかかる、緑と黄色のチェックのカーテンを開けたり閉めたりしている。
入学の儀とやらが終わると、生徒は全員それぞれの寮の部屋へと戻った。
礼装の黒の燕尾服から、1限目の授業の服に着替えるために。
俺と海の金髪は今、ブルームズという名の寮の5階の部屋にいる。
部屋には壁に長い机が付いていて、それをカーテンと同じ柄のカバーで覆われたベッドが区切っている。
扉からすぐ右の壁側は部屋の奥に2人分。
扉の正面の壁側には左の窓際に寄せられて2人分、机とベッドが配置している。
俺は1番右奥にあるベッドの向かいにある服入れから土のような色の運動服と、魔術の授業用の黒いローブを出す。このローブは裏地が桃色だ。……ももいろ……。
1月末、ヒューズ士爵が寮へと俺の荷物を運んでくれたとき、衣服には全て[防寒術]をかけたと言ってくれた。
アナスタシア夫人とは、学園で使うペンやノートの備品と、学園から支給される制服をそろえたけれど、制服以外の着るものは、俺が思っている以上にたくさんあった。
それら全部を士爵は買ってくれて、[保護術]も新たにかけた。
アナスタシア独立院にいる女の人たちは、院で栽培している綿花を使ってみんなの衣服を作ってくれてた。
そのとき[保護術]をかけるのを見たけれど、士爵のはなんだか違う。
不思議で聞くと、院だけじゃなく街で売られているような服にかけられている[保護術]は、初級のものらしい。
これは、王都立学園だけではなく王立学園でも教えている初級の術で、埃や汚れから守るもの。
士爵がかけた[保護術]は中級で、内側の汗や擦れからも守ってくれるものらしい。
王都立学園では、この初級と中級の魔術を習うのだとも教えてもらった。
ひざ下までのローブを着終えた俺に、海の金髪が同じ服で扉の近くに立っていて、一緒に行こうよ、と言う。
俺は頷き、海の金髪の少しうしろから[剣魔場]へと向かった。
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