3話 ……親友……
────なんでこいつは、俺の手を握って泣いているんだろう。
握られた手から、顔を思いきり離して立つ。
「うっうっうっ……。俺、ちゃんとねーちゃんとアビゲイル院長……さま、と話しつけて戻って来るから! えぐっえぐっ、だからお前、俺のこと忘れんなよ?」
いやお前、戻ってくんの?! 驚いてエイダンを見る。
「グスッ、そうだな。悪ぃ、忘れたりしないよな。……怒んなよ。俺たち親友なんだからさ!」と、いろんなモノで光る顔をニカッとさせてくる。
……ええー…………親友、だったの? 俺とお前が一緒にいたのは1週間かそこらなのに?
眉をひそめて見るのに、エイダンが大きな期待を込めた眼差しを向けてくる。
しかも涙で濡れてる目をパチパチさせるから、足をズリっとうしろへ引いてしまう。
ちょ、鼻! 鼻水垂れてきてるからっ!!
なんとかスッとエイダンの手を離し、ついでに目もそらして、一応、頷いておく。
「ウィル〜! やはりお前は俺が見込んだ無二の友だあ」
やめろ気持ち悪いっ。抱きついてくんなよ! 鼻水つくだろ! 離れ……うわっ! …………ゔーーーー。
……お前、俺の肩で鼻水を拭いてるよな? グリグリ鼻を押しつけるのを今すぐやめろ、っよ!
………………ヒーー冷える! 肩がぬれてる気がする……ぅああああ、気持ちワルゥ〜。
エイダンは、姉のエイブリンに
俺は、院長さまとアナスタシア夫人と、念のため馬車が見えなくなるまで見送った。
*****
エイダン達が行ってしまって5日くらい経って、院長さまがわざわざ俺を探して伝えに来てくれた。
「ウィル、先ほどエイダンのお姉さんのエイブリンから手紙が届きましてね。まず院に迷惑をかけたことを謝っていたよ。そして君には特に謝っておいてくれと書いてありました」
院の床を掃いていたホウキを手に持ったまま、俺はわかったと頷いた。それを見てにこっと笑った院長はつづける。
「彼女は12月に学園を卒業するので、来年1年は11歳の見習い期間に入るんですよ。そのときに、ここを選びたいと書いてありましてね。ただ1月にある魔力量検査は、王都のアビゲイル独立院のほうの手伝いをしたいそうなので、それが終わったら、エイダンと2人でこちらに来る予定にしたいとのことでした」
そう言ったあと、院長さまが突然フフフフフと込み上げるように笑った。
「……ウィル。同時にエイダンからも別便で手紙が来てね。し、親友が俺を待ってるから、フフッ。俺が1人でもアナスタシアに戻れるように、私からアビゲイル院長さまに手紙を出してくれって。プフフフフッ……親友がどんなに俺を待っているかを長々と訴える内容が、それはそれはオモ……胸に迫ってね」
いつもは気品ある院長さまが──わざとらしく大げさにウンウンと頷きながら悲しそうな顔を作って、出てもいない涙を拭く──というふざけた姿を見せて、俺に聞いた。
「それで親友のウィルくんに尋ねておこうと思ってね。やはりエイダンには早く来て欲しいよね?」
俺は顔がカアッと赤くなるのを感じながら、「……2人で! が、いいっ」と叫んで、ホウキを持ったまま綿畑へと走った。
『初めて感情を見せたね』
院長さまは、俺の背中を感慨深く見つめながら、そう呟いていた──。
と知らされたのは、食堂の後片付けのときに近よってきた、おしゃべりな茶色の髪の女の人からだった。
────聞き耳ばっか立ててないで仕事しろよ!────
*****
あれから4ヶ月。
今日は、魔力量検査が始まる日だ。
今日も晴れ。でも雪が大量にある。
心配になって朝の早いうちに院を出て、小教会を見に行った。
すると院長さまとよく一緒にいる2人の男の人たちが、小教会の庭から雪を消した。
……驚いた。あんなに大きな魔術を使っているのは初めて見た。
モルリア王国は、農
魔力量検査は、その1月の休みの2週目に、独立院の隣にあるアナスタシア小教会で行なう。
4歳になる年の子どもが、魔力量測定球に手を置く。それだけだ。
俺は昨年やった。そして来年からは学園に通う。
今年は入学の準備らしい。院長さまにアナスタシア夫人と一緒にやりなさいと言われた……。
そう思い出しながら、小教会の椅子を出してきて1つ1つ丁寧に拭いて行く。
ここでは歳に関係なく、出来ることをやれるぶんだけ働く。
そしてお金をもらって月に1度、みんなでリル取扱所に預けに行く。
将来、自分のために使いなさいだってさ。
……学園は国営だから、授業にかかるお金は出さなくても良いって言われたけど、その他に買わなくてはいけないものがいろいろあるらしい。
お金がたくさんかかるのは嫌だな。まあ、午前中しか行かないそうだから……でも働くほうがいいな。ああ、エイダンが来たら学園に行かなくても良い方法を知ってるか聞いてみよう。
いつのまにか無心になって、小教会の中にいた人たちと黙々と検査のための家具を配置していった。
しばらくして、小教会の庭に机や椅子を運び終わった男性陣が入ってきた。
そして、普段は小教会の隅に置いてある白いティーラ像を、その人たちが丁寧に中央へと移動させる。
ティーラさまは、モルリア王国の全ての人の心の拠り所だ。
だから小教会主催の行事には、1番美しく見えるよう設計された場所に置かれる。
でも、普段のティーラ像の位置は小教会の端だ。
なぜなら、あまりの美しさに毎日何時間も見に来る者が後を絶たなかったから、だとか。
本当かは知らない。
「フゥイッ! いくら保護魔術がかかっとっても緊張するな。…………ハァーしかしやっぱエエな。光の中のティーラさまは」
小教会で行事があるときは駆け付けてくれる、近くの麦畑おじいさんが汗を拭き拭き言う。近くにいた人達がうんうんと頷きながら何か話している。
それらを背景に、俺や他の子どもたちはお茶やお菓子、パンや干し肉などの食べものや果物、カトラリーやコップなどを外の大きなテーブルにどんどん運んで行く。
その隣のテーブル目がけて、女の人たちが大きなスープ鍋を持って庭のほうからやって来る。
そこへ、アナスタシア院長夫妻が正装姿で、いつも付いている2人の男性も連れて現れ、爽やかに告げた。
「みなさん、ありがとう。そろそろ人が集まってきたようですよ。さあ、これから6日間。頑張りましょう! 」
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