4話 魔力量検査、週間
アナスタシア院長さまは、いつもは小教会の小賢者さまとして働いている。
“教会“は、領地の土地や川などに関わる全ての整備を中心にして動いているそうだ。独立院以外の人たちは、[アナスタシア小賢者さま]とか[小賢者さま]と呼ぶ。
院長さまのところにはいつも人が入れ替わり立ち替わりしているし、院長さまも何かあればすぐに出て行って、ぐちゃぐちゃに汚れて帰って来ることもよくある。
俺は遠くからそれを見るだけだし、よくは知らない。
おしゃべりな茶髪の女の人が[小教会]のことをダラダラと話すのをやめれば、興味も湧くかも知れない。
そんな忙しい院長さまだから、独立院は院長さまの奥さま、アナスタシア夫人が切り盛りしている。
彼女は大抵ほほ笑んでいるし、たぶん優しいが、なにか用事があるときにしか話さない。
気付くとそばにいたり、やって欲しいことをぼそっと耳元でつぶやいたり。
エイダンがいたずらしたときなんか、顔を近づけて1言なにかを告げるだけでやめさせられた。
この1言が怖すぎたのか、エイダンは翌日おねしょした。「屈辱だ」と目に涙を浮かべてた。
……俺も夫人の行動にはまだ慣れない。
ちなみにご夫妻の名前は、アナスタシアではなく別にあるそうだ。
茶髪がなにか言ってたけど、あんまり聞いてないから覚えてない。
それにしても。なぜ茶髪は、すぐに隣にやって来ていつまでも俺になにかを話しつづけるのだろう?
しかも話している内容はわけが分からない。
全然違う話が飛び出してきて、聞いてると疲れるんだ。
たまに黙るから見ると、急いでまた話し始める。
そういえばエイダンがいるときは、姿も見なかったな。
まさかあいつに[いて欲しいかも]なんて気持ちが湧くとは、思わなかった……。
*****
そんなアナスタシア小教会に、今日はアナスタシア区の人たちが押し寄せて来る。それぞれに食べ物を持って。
そして小教会の庭に用意された食事にそれらが加えられて、ワイワイと全員でお昼ご飯を食べる。にぎやかで長い食事の時間が終わりに差しかかった頃、[海の領地]を治めているご領主さま一家がやって来る。
アナスタシア区の人たちに囲まれたご領主さまが新年のご挨拶をすると、一斉に持っていた飲みものを飲んで拍手。解散。
そして今年4歳になる子ども達が親とともに並んで、小教会内で魔力量検査を行なう。
ご領主さまは院長さま達と一緒に検査に立ち会い、残されたご領主夫人とその家族は、まだ家に帰りそうもない領民たちとおしゃべりしたり、奏でられ始める音楽に合わせて踊ったりしている。
これを残り3つの区から訪れる人たちのために、3日間、同じことをする。
そのためご領主さま一家は、数日前には[海の領地]の首都グラーシを出て、アナスタシア区にある屋敷に滞在しているらしい。
だんだんと小教会から遠い領民が来ることになって行くので、馬車が増えていく。最も遠いシュル区の人々が来る3日目は、1番大きな馬車が現れる。
毎年のことなので、馬車には税金とかいうのが使われ、街道の途中に点々とある休憩所は1年で最も忙しくなるらしい。
アナスタシア街には宿があるが、休憩所ほどの繁盛にはならない。
小教会の周りをうろついているアナスタシアの人々に、連れ去られて行くからだ。1年ぶりに会う親戚や友人達との旧交を温めるために。
残りの2日は、この4日の間に来れなかった人たちのためにある。
この期間ずっと、食事を運んだり、食器を片付けたり、飲み物を持ってきたり。庭での雑用が独立院の子ども達の仕事だ。
俺より小さい子がほとんどだから、そのうち領地の人たちと一緒に食べてたり、踊ったりもしている。
どちらかというと、お祭りみたいだ。
そして、最後の日には必ず全ての領民が自宅に帰りつけるように、馬車の調整が行われる。
ただし各区を最低限の本数で運行できるように、微妙に何かをずらしている、らしい。
時間に余裕をもって帰りなさい、という意味がある、らしい。
馬車の停車場で小さな物書き机に座り、ガリガリと頭を掻きむしっては、ゴリゴリとペンで数字を書き連ねている教会の男性に聞いたと、茶色が言ってた。
大変なお仕事みたいね! とも言ってた。なぜか腰に手を当てて。
本当なのかは分からない。
と言うか、そんな忙しい人に話しかけられる心をもつ人物のほうが怖くて、しばらく隠れていたから見ていない。
けれど毎年何人かが、自腹で馬車に乗るのはイヤだと小教会の前で泣いているのを、見たことはある。
そんな人たちを、なだめながら馬車に乗せていく大人も含めて見せ、小さい子たちに[赤い鼻をした酔っ払いには近づかないように]と伝えるのが俺の最後の仕事だ。
そういった全てが終わると、小教会と独立院の全員がグッタリとし、6日間のふり替え休みに入る。
今年は何ごともなく、穏やかに休暇の日々は過ぎ、やっともとの生活に戻ったな、と思い始めた1月末に、とうとうあの姉弟がやって来た。
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