第15話 カイトとリンゴと俺

 あれからも、探索するたびに和菓子屋へと通っていたため、数人のポーターと他のギルド所属に所属している人と知り合った。

 2ヶ月ほど経ったころ、ギルドから依頼がきた。

 新人教育の依頼だ。

 俺は、高橋さんに話をして、しばらくはそちらに行くことになると伝えた。

 高橋さんからは、もうですか? 早いですね! と笑顔で送り出してくれた。

 飲みに行くときは連絡することを約束して、俺は教育へと向かった。


 指定された日にギルドの受付にいくと、リンゴさんが待っていた。


「あれ? ケイタさんお久しぶりです!」


「リンゴさん! お久しぶりです!」


「まだ午前中なのに、今日はどうしたんですか?」


「あぁ、俺はギルドから教育の依頼を受けたんですよ」


「え!? じゃあ……」


 そう言って受付をみるリンゴさん。

 受付の人は、微笑みながら頷いた。


「わぁ! ケイタさんだったんですね!」


「ということは、教育のリーダーはリンゴさんなんですね! 奇遇ですね!」


「そうですね! はぁー良かった。朝から緊張してたんですよ」


「あはは、相変わらず緊張しやすいんですね」


「か、揶揄わないでくださいよ! さ、さぁ行きますよ!」


「すみません。了解です」


 俺は、リンゴさんについて個室へと入っていった。

 そこには、オレンジ髪の癖っ毛ロング、胸元を大きく開いた白いシャツをきた20歳くらいの男性がいた。


「カイトさん、こちらの方が今日から一緒に行動してもらうケイタさんです」


「初めまして、田場湖ケイタです。よろしくお願いします」


「おー初めましてー! ボクはカイト。アリーナを制する者さっ! ケイタ先生、言葉は崩してもらって構わんよー」


 無駄に髪をかきあげながら、真っ白な歯をキラキラさせているカイトさん。


「は、はぁ。ん、先生?」


「あ、はは……カイトさん何回いっても先生って呼ぶんですよ」


「ハハハ! アリーナを制した時に、ボクを導いた人となるんだから先生でいいのさっ!」


 凄い自信だな。

 ま、マーセナリーになるくらいだから、少し変わっている人もいるよな。


「カイトさんの未来に期待しているよ。残りの期間よろしく」


「あぁ! こちらこそさッ!」


「はぁ……では、これからのことを打ち合わせます!」


 こうして俺達は4階層に向けての打ち合わせを行った。


 カイトさんは、自分も戦うと言い出して、俺達を悩ませた。

 もう俺達ではどうしようもないので、どうしたものかギルドへ相談すると、死ななければ参加させてもいいと言われてしまった。


 そう言われてしまってはもうどうしようもないので、カイトさんも戦闘に参加することになった。

 ス○ープドックにハンドガン2丁持ちという戦闘スタイルになった。なってしまった。


 3階層で試してみたが酷いものだった……。

 サーチアンドデストロイで、ドンドン前に進み、敵機を撃ちまくり、ボロボロに壊してしまう。


「アリーナの覇者となるには、これくらい容易いのさッ!」


 違う、そうじゃない。

 これは大変だ。よく今までリンゴさん頑張ったよ。

 リンゴさんを慰めると、目がウルウルしていた。

 

 しょうがないので、4階層は、俺もリンゴさんもシールド、ライフルを装備して、カイトさんが前に出るまでに安全確保することにした。


 だが、完全に守ることは出来ず、カイトさんは被弾した。

 しかしそれでも止まらず、ガンガン前進し撃ちまくるカイトさん。


 5階層でこれだと、間違いなく死ぬ。

 教育中のポーターの機体にはブーストがついていないので、ブーストによるクイックステップが出来ないことを説明して、宥めてみたが……ならばブーストをつける! と言い出し、4階層で作業用ロボット回収し、それを自分の専用機として登録し、ブーストまでつけてしまった。


 ギルドでは、たまにこういった人もいるらしく、死なないように気をつけてくださいと言われただけに終わった。


 いよいよ、5階層となり、俺とリンゴさんは気を引き締めたが、カイトはやる気満々だった。


 そして、俺達は荒野へと降り立った。


『カイト、まずは私とケイタが先行するからね!』


『了解さッ!』


『……ケイタいくよ!』


「了解!」


 発見した敵機に向かい、俺とリンゴはブーストを使用し接近した。

 俺もリンゴもシールドを片手に持ち、アサルトライフルを構えていた。


 敵機はまだこちらに気づいていない……いやいなかった。

 後方から、カイトがハンドガンを発砲し、カスダメを与えたからだ。


 内心舌打ちし、脚を止め、シールドを構え、撃ち合いとなった。


 敵をこちらに引きつけている間に、カイトは回り込み、2丁のハンドガンで1機を撃破し、ライフルを奪うと、もう1機も蜂の巣にした。


 俺達は囮じゃねぇんだけど。


『はーっはっはー! これぞアリーナの覇者になる男の戦いさぁーッ!』


「勘弁してくれ……」


『カイトォォォ!! このお馬鹿っ!』


 こんなやりとりを何度もしながら、ようやく帰還した。


 その後も、囮となったり、カイトが被弾し、ロボットが行動不能になったりと、散々な目にあいながらも、ようやく依頼の期間終了となった。


「まじで、カイト死ぬんじゃねーぞ! お前無茶し過ぎなんだよ」


「はっはっは! ケイタ先生は心配性だなーッ! アリーナの覇者になるまで、ボクが死ぬわけないっさッ」


 髪をかきあげ、キラキラ歯を輝かすカイト。


「いやホント、ケイタの言う通り死なないでね!」


「おや、リンゴ先生もかい? 困ったなぁ、はっはっは〜!」


「リンゴ、俺達はよくやったと思う。あとは祈るしかないさ。やるべきことと教えるべきことは教えたはずだ!」


「だよね! もういいよね! ケイタお酒つきあって!」


「あぁ! もちろん!」


「おー! 最後の打ち上げだねッ! ボクを育てた先生たちにご馳走する、よッ!」


 俺とリンゴはため息を吐いて、3人でギルド内商業区で、しこたま飲んでやった。


 カイトは、俺たちに奢り終わると、


「ハーッハッハー! ではアデューッ!」


 といって、ピンクのネオンが輝く歓楽街のほうへ消えていった。


 俺とリンゴは、自販機で買った水を飲みながら、その背中を見送った。



 次の日、朝起きると、俺は床で寝ていて、ベッドにリンゴが寝ていた。

 一瞬、ヤってしまったのかと焦ったが、頭の鈍痛で思い出した。

 結局あのあと、俺の部屋でまた飲み直して、そのまま寝たんだったわ。


 はぁ、とため息を吐いて、傷む頭を押さえながら、シジミの味噌汁と水を2人分用意して、リンゴが起きるのを待つのだった。





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