第14話 高橋さんの行きつけの店

 俺達は、高橋さんの行きつけだという機甲都市の商業区にあるお店へとやってきた。


「ここですか?」


「えぇここですよ」


 ニコニコ顔の高橋さん。


「和菓子屋って看板がありますけど……」


「ふふふ、ここは知る人ぞ知る飲み屋なんですよ! 実はですね、ここの女将さんは昔、機甲都市でNo.1ホステスだったんですよ。それが和菓子屋の若大将に惚れ込んで、結婚を機にホステスをやめて家に入ったんです」


「凄い人をもらったんですね」


「えぇえぇ。でも女将さんお酒好きでね。旦那さんはそんなに飲めない人なんですよ。それで、旦那さんの計らいで夜は居酒屋やってるんですよ」


「へぇ。なんか面白いお店ですね」


「えぇ、酒もつまみも美味いし、値段も安いんで、良い場所なんですよ。ささ、入りましょうか」


 高橋さんの後について和菓子屋さんに入る。

 正面にはガラスケースに和菓子が並んでいる。

 高橋さんは、右奥にあるドアを開き中に入っていった。


「どうも女将さん、座敷いいかな?」


「客もいないんだし、カウンターにしな」


「へいへい。ケイタさんこっちこっち!」


「あ、はい。どうも初めまして田場湖ケイタって言います」


「礼儀正しい子だねぇ。あたしはキヨだよ」


 キヨさんは、60代くらい、紫髪ショートで少しパーマがかかっている。服装は、猫顔ドアップTシャツ、豹柄のズボンだった。スタイルは服でよくわからないが、昔は美人だっただろうと思える顔立ちだ。


「なんて呼べば良いんでしょう? ママ? 女将さん? おキヨさん?」


「あはは、おキヨさんなんて久しぶりに言われたよ! ケイタ、なかなか面白いね、あんたなら特別に、おキヨさんって呼んでいいよ!」


「は、はぁ。じゃあ、おキヨさん、とりあえず生中で」


「はいよ。高橋も同じでいいね」


「えぇえぇ、あと、もやし山もお願い」


「はいよ」


 そういって奥へ入っていった。


「ケイタさん、気に入られましたねぇ。自分は驚きですよ」


「え? そうなんですか?」


「えぇえぇ、女将さんってあんまり名前呼ばれたくないみたいで、ママか女将って呼ばせてるんですよ」


「へぇ……なんででしょうね?」


「さぁ? 自分も、それはわかりませんよ、ハハハ!」


「あ、もやし山ってなんです?」


「この辺だと、ここにしかないんですよ。500円とボッタクリ価格のもやし炒めですね! ハハハ」


「物凄い大皿で、お肉たっぷりとか?」


「うーん普通の皿に乗ってきますね。あっても2袋くらいじゃないですかね。キクラゲと豚肉が少し入ってますね!」


「おぉ……」


 良い商売してますねぇ。


「でもでも、味は本当美味しいんで! 楽しみにしててくださいよ!」


「そこまで言われると期待しちゃいますね」


 少し待っていると、山もりのもやし炒めをおキヨさんが持ってきた。


「はいよ。ビールは今から注いでやるから待ってな」


「あ、おキヨさんも飲みませんか?」


「ケイタは気がきくねぇ。いただくよ」


 おキヨさんは、ビールサーバーを使い、生中を3つ作ってくれた。


「ささ、ケイタさん乾杯しましょ!」


「ですね! では、無事の帰還を祝って乾杯!」


『乾杯』


 くぅーッよく冷えていやがるぜぇ。

 もやし山もつまんで……美味ッ! 味付けは塩コショウに出汁かな?

 シャキシャキしていて、たまにコリコリと、これは美味な。

 あっという間に、1杯目を飲み終わった。


「美味しいですね! おキヨさんもう1杯お願いします」


「はいよ」


「でしょう? あと焼き物もあるんですが、それは自分で焼くんですがね」


「へぇいいですね。それも頼みましょう!」


「えぇえぇ。女将さん、鳥と豚とししとうを2本ずつお願い」


「はいよ。高橋、いつもの出しときな」


「へいへい」


 高橋さんは、近くの棚から、卓上炉ばた焼器を持ってきた。

 カセットガスをセットして使うタイプのようだ。

 串を10本並べる溝がついている。


 高橋さんがセットをしていると、おキヨさんが、竹串を刺した具材とタレと塩を持ってきてくれた。

 

「味付けは好みでやりな。あ、あたしにも鳥一本焼いとくれ」


「へいへーい。お任せあれぇ」


「ケイタ、こう見えて高橋は焼くのが上手いんだよ」


「あ、女将さん日本酒も頂戴」


「そうだったね……はいよ」


 高橋さんは、徳利でもらった酒を具材に少し垂らし、くるくると器用に串を回しながら、馴染ませた。


「高橋さん器用ですね」


「ハハハ、まぁ、ここで焼いてるうちに出来るようになったんですよ」


「あたしに見る目があったってことじゃないか」


「言うねぇ女将さん。ただ面倒くさがってただけでしょ」


「うるさよ高橋。はやく焼きな」


「客使いの荒い女将さんだこと」


 やいのやいの言い合いながらも楽しそうに話している2人。

 長い付き合いなんだろうなぁ。

 俺は、2人の会話にちょいちょい入りながら、もやしと立ちのぼる美味そうな匂いをつまみに、ちびちび飲んで焼き上がりを待った。

 

 焼き上がった鳥と豚の串焼き、まずは鳥からいただいた。

 皮がパリっとしていて、肉は柔らかくジューシーだ。

 塩加減も丁度良い。

 これはビールが進む。


 美味しいです! と高橋さんに声をかけながら、2杯目も終わってしまった。

 飲み終わりと同時に、おキヨさんが、ビールを持ってきてくれた。

 さすがNo.1。

 お礼を言って、豚も食べる。

 いつのまにか胡椒も振ってあった。

 う〜ん! こっちも美味い!

 ビールビールッ!


 こうして、俺達は、楽しく美味しくお酒を飲んだ。


 高橋さんもだいぶ出来上がってきたので、今日は解散とした。

 会計を済ませ、また来ますとおキヨさんに声をかけ、俺達は解散し、それぞれ帰宅した。



 

 





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