第5話 事故とターニングポイント

 今日は、昨日外したボックス内の制御系を手に入れた物と入れ替えて、動力系がちゃんと始動するか確認した。


「なんとか動きましたね」


「うん。でも動力部の熱が凄い」


「そうですね。すぐ熱くなりましたね。ボックスの取り付ける位置を変えるか、ラジエーターをつけるかですかね」


「でも、ラジエーターつけたらバランスが取れなくなるかも」


「うーん……あ、昨日見つけた逆関節の脚部パーツにすれば、安定するんじゃないですか?」


「それならいけそう。じゃあ班長にラジエーターお願いしよ」


 俺達は、その説明を班長にすると、はいはーいっと言って出て行った。


 しばらくすると、班長が戻ってきた。

 昨日ゴミ捨て場にそれっぽいのがあったようで確認して手続きしてきたらしい。


 午後になり、ラジエーターが届いたので、動作確認と整備をして使えるようにした。


 15時の休憩時間になり俺達は休憩小屋で話をしていた。


「ところで、脚部パーツを交換したいんですが、どうやって作業すればいいですか?」


「うーん、機体整備用のハンガー貸してもらうか、作業車手配するかかなぁ」


「そういえば、なんでハンガーないんですか?」


「骨董品の脚部パーツなんて誰が交換するのよ」


「あぁ……でもこの際ですし、中古のハンガーとかでいいので設置しませんか?」


「そうねぇ……ちょっと相談が必要だと思うから、待っててもらえる?」


「わかりました。班長お願いします」


 班長はスマホを手に作業場から出ていった。


「やっぱ値段が高いと上の人に相談が必要なんですね」


「たぶんちが……そうかもしれない」


 えっと、どう言うことだ?

 俺が首を傾げていると、班長が戻ってきた。


「お待たせぇ。許可取れたよ。申請しとくから明日には来ると思うよ」


「ありがと班長」


「ま、このくらいはね」


 何か2人にしか分からないことがあるっぽい?

 ま、なにはともあれ、これで脚部も交換できるか。


 次の日には、新品の機体整備用ハンガーと作業道具一式が届いた。


 俺とメイ先輩は協力して作業を行い、骨董品をハンガーに固定し、今日届いた交換作業用の道具を使って、脚部を交換し、ラジエーター等も取り付けることが出来た。


「ようやくここまで来ましたね」


「……2年が数日で追い越された」


「……メイ先輩、今日チーズケーキ買ってきたので、休憩の時食べません?」


「うん、食べる」


 危ない危ない、目のハイライトが戻ってよかった。


「これ動かすとしたら、誰が操縦するんです?」


「……ケイタ?」


「え、俺なんですか? 俺、動かし方知らないですよ」


「なら誰だろう?」


「班長に聞いてみましょうか」


 俺達は班長のもとに行き、操縦者の話をした。

 最初、俺を指差したが、できないと分かり、スマホを持って出て行った。


 しばらくすると難しい顔をした班長が戻ってきた。


「うーん、操縦者は難しいって。でも、ケイタ君が操縦資格を取ってくれば動かしてもいいってさ」


「俺ですか?」


「まぁ作業用ロボットの操縦だから、数日講習受ければ良いんだって。だから、明日から講習受けてきてくれる?」


「えっと、そういうことなら分かりました」


「場所と受講票は、スマホに送っておくからね」


「ケイタ、頑張って」


「はい! 頑張ります!」


 こうして、次の日から俺は講習を受けに行った。

 実際作業用ロボットに乗り、重量物の持ち上げ、運搬などの実技や座学を数日間受けた。

 講習用の作業用ロボットは、揺れや振動がほとんどなく、操作もシンプルだった。


 休日を挟み、出社した。

 これでようやく動かせると、メイ先輩はワクワクしていた。


 実際に操縦席に乗り込むと、シートが硬く、お尻が痛い。骨董品だからしょうがないけど。

 周囲の安全を確認して、シートベルト、ヘルメットを装着し、エンジンをスタートさせた。


 ここまでは、順調だな。

 俺は、前進します! と声をかけて、シャッターに向かって前進させた。

 1歩前進しただけで、振動と揺れが物凄い。

 停めようとペダルとレバーの操作をしようとしたが、振動や揺れで、うまく操縦できなくなってしまった。


 俺が乗る作業用ロボットは、加速し、そのままシャッターを突き破り、土でバランスを崩して転倒した。


 遠くで悲鳴と俺を呼ぶ声が聴こえた気がした。



 目を覚ますと、ベッドに寝ていた。


「ここは……」


「あ! ケイタ君起きた? 一応検査してどこも異常はないみたいだけど、どう?」


「あ、はい……大丈夫みたいです」


「そっか、良かったよホント」


「すみません。シャッターとか壊してしまって……」


「ケイタ君が無事なら、そんなことはどうでもいいよ。メイちゃんなんて、自分のせいでって顔真っ青になっちゃってたんだから……今、無事に起きたって連絡しといたからね」


「俺のせいなのに……すみません班長。ありがとうございます」


「いえいえ。あ、ここ病院の個室だから、明日まで一応ここに泊まってね。明日、問題なければ、遅くなってもいいから出社してね」


「はい、ありがとうございます。あとメイ先輩に、心配かけてすみませんってことと、メイ先輩のせいじゃないですよって伝えてもらえますか?」


「ん、了解。じゃあ、私はこれで帰るね。ゆっくり休んで」


「はい、ありがとうございます」


 班長が部屋を出ていくのを確認すると、やっちまったなぁと気分が重くなった。

 会社の物を壊したのもそうだが、メイ先輩に私のせいって思わせてしまった事が気持ちを落ち込ませた。


 翌日、無事に退院出来たので、迷惑をかけたお詫びに、フルーツタルトをホールで購入して出社し、作業場へ向かった。


 シャッターは壊れたままだが、ロボットは作業場に戻っていた。


 休憩小屋に2人がいるのが分かったので、そこへ向かった。

 

「おはようございます。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


「おはよう、無事で何よりだよぉ」


「ケイタ、ごめんね」


「いえいえ、俺が操縦を誤ったんですからメイ先輩が気に病む必要はないですよ。ほんとすみませんでした。あの、これ、みなさんで食べてください」


「そんな気を使わなくて良かったのに、でも、ありがとうケイタ君。休憩の時、みんなで食べましょう」


「ケイタありがと」


 2人が微笑んでくれたことで、ようやく胸のつかえが取れた。


 それからは、作業することはなく、雑談などをして就業時間まで過ごした。

 2人の優しさに触れいるうちに、もっと操縦を上手くなろうと決意した。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る