第3話 高所作業と地味な就職祝い

 俺はメイ先輩と動力部の選定をしていた。

 あ、班長もいた。


「……何か、ついで扱いされた気がするから減給しとくね」


「えぇ!? 研修期間なんてほとんどお金貰えないじゃないですか!?」


「ついで扱いしたのは否定しないと」


「し、してませんよ! 班長なんですよっ? 俺達のトップじゃないですか! 居ないと困る人を、ついで扱いなんてしませんよ!?」


「ふーん、そっか。なら良し!」


「ケイタ。早く選ぶ」


「すみませんメイ先輩。あ、コレなんてどうですか? 値段も安いですし汎用性高そうですよ?」


「……うん。コレならいいかも」


「だそうですよ? 班長、購入の認可お願いします!」


「はいはーい。どれどれ……うん値段も10万以下だし、コレなら通るね! 了解だよ! 申請しとくね!」


「良かったですね! メイ先輩!」


「うん!」


 メイ先輩の笑顔……可愛すぎるッ。


「わぁ! メイちゃんが笑ったの久しぶりに見たぁ! やっぱ可愛いぃぃぃ!」


 メイ先輩に抱きつく班長。

 露骨に嫌そうな顔になるメイ先輩。

 そっとしておこう……。


 その後、作業用ロボットの現状を知りたくて、ロボットの背部にあるボックスを見せてもらうことになった。


「この骨董品は、背部のボックスの下に動力部が付いていたらしい。その上のにあるボックスが制御系が入ってる」


「……熱暴走しそうですね」


「そう、炎上したらしい。1年でリコール対象になった」


「初期ロットヤバいですね。とりあえず動けばいいみたいな感じを受けますね」


「実際そうだったらしい。大型二足歩行作業ロボットの開発競争で、名を残すチャンスだと思ってたらしいし」


「へぇ……実際歴史の教科書にも載ってますし、名を残すことはできてますね」


「そういうこと」


「……ところで、あの高さのボックスはどうやって作業するんですか?」


「ん? 脚立に決まっているでしょ?」


「え……安全帯とかは?」


「あんぜんたい? なにそれ?」


「……はんちょーーーーーーー!!」


「はいはーい! 班長ですっ! どったの?」


「班長、安全作業を監督しているんですよね?」


「もっちろん!」


「あのボックスの高さは3メートルくらいですよね?」


「うんうん。たぶんそのくらいだね!」


「安全帯も、ヘルメットも無しでメイ先輩を作業させていたんですか?」


「そんなの必要ないよー。メイちゃんバランス感覚良いし、もう2年も何事もないじゃん?」


「……班長。2メートルと超えると、高所作業になるって知ってますか?」


「え……」


「監督者は作業環境を整え、作業員を指導しなければならないって知ってます?」


「ど、どこにそんなこと」


「労働安全衛生法です」


「ほ、法律ッ!?」


「なんでそんな驚愕した顔してるんですか。さっき休憩小屋に安全マニュアル置いてありましたよ?」


「そんなのあったっけ?」


「ありましたよ! とりあえず、高所作業車、高所用足場とか、安全帯やハーネスの準備した方がいいと思いますよ?」


「えぇー」


「いや俺は別に良いですけど、労基署に訴えられたら知りませんよ?」


「そ、そんなことしないよね? ね? メイちゃん!」


「……2年」


「ぐッ!? わ、わかったわよ! 申請すればいいでしょ!? 申請すれば!」


「メイ先輩。今まで安全に気をつけて作業していたんですね。さすがですね!」


「むふふ、ケイタもっと褒めていい」


「こんな班長のもと、怪我をせずに作業できて尊敬します先輩!」


「ケイタはいい後輩。えへへ」


 この笑顔のためなら、いくらでも褒めちゃうッ。


 班長は、『こんな』っと言って項垂れていた。


 そこでお昼のチャイムが鳴った。


「あ、お昼ですね。班長、この会社ってお昼はどうなってるんです?」


「え、どうって? みんな持って来てるよ?」


「……食堂あるって入社の時に聞いたんですけど」


「あぁ、そこ利用するのは管理職と一部のエリートだけだよ。もしかしてケイタ君持って来てないの?」


「そりゃ持ってこい、なんて連絡来てないですからね」


「あちゃー、じゃあ今日はお昼ご飯無しだねっ!」


 満面の笑顔で言ってくる班長。

 意趣返しかな?


「ケイタ、私のご飯分けてあげる」


 天使がいました。


「い、いいんですか先輩!? 分けたらお腹空いちゃいませんか?」


「大丈夫。いざという時のために、ここに非常食も準備してるから」


 さすが夜遅くまで頑張る先輩。

 準備も万端とは。

 明日、メイ先輩のために甘いお菓子でも買ってこよう。


「ありがとうございます先輩。この御恩は明日お返ししますっ」


「大袈裟。でも恩に着るがいい」


 このドヤ顔天使よ。

 ありがたや、ありがたや。


「ははぁ! 恩に着ますぅ!」


 俺は恭しく、カップラーメンを受け取った。


 班長は、コンビニのサンドウィッチだったようで、カップラーメンの香りに何度もこっちを見ていた。

 

 午後は、作業をしても意味がなくなったので、仕様書やマニュアルを読んで、どうやってこの骨董品を弄っていくか話し合った。


 この日は、それで定時となり、帰宅することになった。

 久しぶりの定時っとウキウキしながらメイ先輩が言っていたのが心にグッときた。悪い意味で。


 タイムカードをピッとやって、着替えて会社の出入り口へ。

 そこには1台のリムジンが停まっていた。

 リムジンの出迎えって誰だろう? っと思っていると、メイ先輩が乗り込んで行くのが見えた。


 あれぇ? 先輩ってお嬢様なの?

 何が何やら分からないまま、リムジンは走り出した。


 ま、考えても分からないことは考えないでおこう。

 今日は、スーパーの半額品でも買って、発泡酒で晩酌しよ。


 幕の内弁当と発泡酒で、ひっそりと就職祝いをした。


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