第2話 世界設定とメイ先輩の受難

 ようやく就職した会社は、思ってたのと違った。

 先輩は夜遅くまでいるらしいし、敷地内の外れにある作業場で100年以上前の骨董品を動くようにしろという作業内容。


 今の時代は、サポートA Iありきのロボット運用が通常となっている。

 機甲都市とよばれる複数の大企業が協力して作り上げた都市には、機体同士を闘わせるアリーナと、AIによる地下ダンジョンがあり、ダンジョンの中にはAIが創り出した機体がモンスターのごとく彷徨いている。


 高額な入場料を支払うことで、そのダンジョンに入場出来、彷徨いている機体を倒してパーツを持ち帰ることが出来る。


 またダンジョンに挑むもの達は、主にマーセナリーと呼ばれている。

 なぜマーセナリーと呼ばれているのか、それは企業やアリーナに挑む者達やアリーナ上位のランカー達から依頼を受けて、ダンジョンに入りパーツを持ち帰ってくる命知らずだからだ。

 

 企業では、そのパーツを研究し、新たなパーツを作り出したり、そのまま所属するアリーナ出場者の機体で運用している。

 

 俺は、パーツ開発をメインとする中小企業に就職したわけだが、初期ロットの骨董品は、大企業やAIによる試行錯誤が行われる前の代物だ。

 当時では作業用ロボットを使うより、クレーンやフォークリフトを使った方が効率的だと言われていた。


 そんな骨董品を動かせるようにしろとは……第5サポート班は閑職ではないだろうか。


「あのメイ先輩、作業用のVRゴーグルとか無いんですか?」


「何それ?」


「え……じゃ、じゃあどうやって整備してるんですか?」


「あの休憩小屋の中にある仕様書とかマニュアルをみて」


「マジですか……」


「うん、マジ」


「現状はどこまで作業が進んでいるんです?」


「さぁ?」


「さぁ? ってどうしてですか?」


「そりゃ、エンジンないもん」


「えぇ……」


「班長に言っても買ってくれないし」


「……はんちょーーー! なんで購入しないんですか?」


「はいはい班長ですっ。それはね、売ってないからだよっテヘペロッ」


 ギリギリの年齢かもしれないが可愛いからヨシ!


「ッじゃない。売ってないなら動かせないじゃないですか」


「そうだねぇ」


「そうだねぇって……じゃあ、動力部を最近の物に換えればいいのでは?」


「そうすると相互性が問題でねぇ……もうそうなると全部換装しなきゃなんだよね」


「駆動系はそのままに、制御系で何とかすれば動きませんか?」


「ふむふむ、やってみても良いかもね」


「……班長、なんで、今まで、教えて、くれなかったんです、か?」


 メイちゃんが俯きながら尋ねた。


「それはメイちゃんが頑張っていたからよ!」


「からよ! じゃないッ! 2年ッ! 2年もッ!!」


「え、当時のエンジンに拘ってたんじゃないの?」


「1年で動かないって分かってました! でも、どうにかエンジン手に入れてくれるのかと思って……」


「無い物は、どうしようもないしぃ」


 メイ先輩は項垂れた。


「せ、先輩。技術が身に付いたはずですよ!」


「……骨董品の技術ってなに?」


 返す言葉が見当たらない。


「うわぁあああんッ私の2年んんんんんんッ!」


 ついに泣き出してしまうメイ先輩。


「は、班長っどうにかしてくださいよっ」


「え、わ、私のせいなのっ?」


「当たり前じゃないですか!?」


「えぇ……」


「えぇっじゃないですよ! 泣かせたのは班長なんですからね!?」


「わ、わかったわよ……ほらほらメイちゃーん飴ちゃんあげるから泣き止んでぇ」


「ごどもじゃないもぉおおんっ!!」


 あーぁ、よく今までやってこれたな。

 班長オロオロするばかりで、全然泣き止まないじゃん。

 ま、2年も動かない骨董品をひたむきに頑張って弄ってたんだし、徒労に終わって泣きたい気持ちもよく分かるけどね。

 

 俺は気付くとメイ先輩の頭を撫でていた。


「先輩。これから一緒に頑張りましょ? 俺、機械弄ったことないんで、先輩が頼りなんです。これからたくさん教えてくださいね」


「……ん。私が、教えて、ヒクッ、あ、あげるっ」


 なんとか泣き止んでくれたか。

 良かった。


「でも、こども、ヒクッ、あつかい、しない、でッ」


「す、すみません。じゃあ、これから動力系の選定しましょ?」


「わがったっ」


 俺は、メイ先輩と手を繋いで休憩小屋に向かった。


「……班長の立場が危ういっ!? ま、待ってぇ、私も一緒に選ぶよぉ!」


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