91話 まさかの真相

「そう言えば、死因は突然死なのですか?」


 話も佳境に入った雰囲気になり、何処で切り上げようかと思っていた頃だった。ラキのさりげない一言は特段変ではなかった。


「ああ、聞いていないな」

「ないっすね。聞くアレもないっすけど」

「やはり持病の悪化ですか?」


 だから俺も聞いたのだ。


「え、ええ」

「…何です、その間は」

「は、いや別に。何も無い」

「何も無い間では無いでしょ」

「何も無い」


 目線が上下左右にブレている事を知らないのか、レオンは隠せる気だった。隣でリオが呆れた面持ちになっているにも関わらず、あやふやな受け答えを繰り返す。

 甥のサポートが何回か入るが、度不自然な展開にしてしまうせいで、見ていて居た堪れなくなってきた。


「隠し事はやめましょう。師範の死に何かあった訳ですね」

「ああ、いやその…」

「それは争い事に関係するのですか?ならば気にせず。こう見えても俺達、何回か揉め事に首を突っ込んでしまいました」

「今更面倒ごとは嫌がりません」

「関係ない話ではないしね」

「酒奢ってくれればいいっすよ〜」


 叔父と甥は顔を合わせ、囁き声で話し合っている。二人の視線は、俺ではなく別の人物を指す事が多かった。

 指される当人は初め気にしていなかったが、頻度の多さに飽き飽きして、多少の苛つきを隠せなくなる。


「私も旅をしてきた。不愉快な話を無理矢理聞く機会もあった。それに対して自分なりに咀嚼する知識も術も持ち合わせていると自負しているわ。

 私に何か負い目や気遣いを感じるなら、迷惑よ」


 レオンとリオは、やはり顔を見合わせた。


「…死因自体は隠す必要は無いか。断言できないが、心臓に起因すると医者は見た」

「心臓発作ですか。隠す必要ないでしょう、毒物でも使っていない限り」

「…使われた方が良かったかも分からん」

「ハィ?」

「…ナナリー嬢。その、気分を害さないで欲しい」

「一体何故私が狙われる訳?」

「恩師が、あ、死んだ場所はラバンという町でな」


 聞き慣れない名前に、俺はラキ達に助けを求める。不機嫌なナナリーは首を振るが、ラキとバトは腕を組んで首を捻った。


「ラバン?僕の記憶では片田舎の町だったと」

「俺っちも同じっすね。記憶では店も大して無かった筈っす」

「ふーん」

「つまらない町、だったすよ。安さだけが取り柄の酒場と」


 バトの口が止まった。


「発見者は女性じゃないすか」

「…ご察しの通りだ」

「ん?何で分かるんです」

「…安いのは、酒場ともう一つあるっす」

「もう一つ」

「お師範さん、好きだったすよね」

「…オイオイ」


 ラキが頭を抱える。俺もまさかとは思った。


「…恩師の驚異的な回復に、かつての教え子も喜んだ。各地に散った仲間が訪れ、手土産を片手に思い出を語ったものよ」

「ダーラ様の元に集まったのは酒が主でしたが、二番弟子の方が金貨を持ってきたんです」

「私の幼馴染だ。コンビを組んでいたが、下手でな。恩師からも諦めるように諭され、今は行商を束ねる親方を務めるまでになった。

 つまり、金があってな」

「金が集まったら、ダーラ様の悪い癖が出ました」


 頭が痛い。


「ああ、なるほど」

「ああ…」

「まぁ、素直っすねー」


 流れが読めた男性陣は、心底呆れる。


「馬鹿ね」


 女性は不愉快そうに鼻を鳴らした。


「妥当な答えだ」

「大方、一人当たりの金を少なくして、数を増やす気だったんだろうなぁ」

「馬鹿っすね」

「我等も流石に恥ずかしくてな。それとなく諭したらあの方は、我等の目を盗んで一人抜け出した。ラバンの町は近くにあったのだよ」


 レオンは深々も息を吐いた。


「近くにある夜遊びの場はラバンだ。すぐに探したら、現場では大騒ぎになっていてな。駆けつけたら女性が村の男達に何かを叫んでいた」

「…かぁ…」

「その、この後は口を控えさせてくれ。言うのはあまりに彼女に失礼だ」


 俺は想像した。溜まった金を抱き抱えて胸を躍らせている師範を。


「うーん」

「夜遊びは罪ないっすけどね」

「あの方らしいとは思う。思うが、他にも無かったかとも思うのだ」


全くもって嘆かわしい。我が師は女性を前にして、文字通りの憤死を遂げたようだった。



第91話の閲覧ありがとうございました。師範の死を予想できなかった方、評価とフォローお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る