第11話 生来の無気力

 草むらに寝そべっていると、上の方で小鳥が飛んでいる。ぼんやり眺めていたら、数羽が俺の顔近くに降りたってきた。小さく可愛らしい鳴き声が、小気味よく鼓膜を震わせてくれる。


「ふぁ…」


 眠気を誘う音色に、俺はそのまま意識を委ねた。ぼんやりしてくる視界の中で、降り注ぐ日光は程よい温かみを齎してくれる。

あれから何日が経っただろう。謎の力・ビヨットを習得し、傷を癒す力と物を砕く力、両極端な能力を得た俺だった。


「ふぁ…」


 が、少し小腹が減った。俺はむっくり起き上がると、鈍臭い足取りで洞窟の中央付近に出向く。

 出向いた先にいたのは、丸々太った鳩に似た鳥だ。低い音で鳴く彼等は、数羽単位で固まりながら、地面に生えている花や葉をむしり取っている。


「おいおい」


 俺が力無く手を叩くと、鳥達は一斉に逃げ出した。しかし灰色の翼があるにも関わらず、使おうとしない。太った身体を重そうに引きずりながら、俺の拍手から逃げていくのだ。


「はい」


 そして拵えておいた穴に、一羽入り込んだ。俺はバタバタ暴れる彼の口と鼻を閉じると、目を瞑って顔を背けた。

暫くそのままでいると、鳥は黄色の脚を地面に投げ出す。


「ありがとうございます」


 ちゃんと手を合わせて、今日の食事となってくれた鳥に感謝する。黒曜石を割って作った手製ナイフで、ざっくりと皮やらを剥いでいった。この鳥は素人の俺でも解体しやすく、肉もあまり皮にへばりつかない。


「はいはい」


 解体を済ませると、俺は楕円の石の前にきた。ずっと用意している薪の前で鶏肉に塩を振ると、俺は保管していた香草で肉を包み、火の中に放り込む。

暫く火の中で放置し、枝で突っついたりして良く火を通すと、洞窟内で食べられるご馳走の完成だ。


「頂きます」


 香草と一緒に、へばりついてしまう体毛や皮の残骸も取り除く。緑の下から覗く真っ黒な固まりに歯を通せば、意外と淡白な味わいが口に広がっていった。

誰とも話す事なく、夢中でしゃぶりつく俺は、軟骨の部分まで噛み砕いて食事をする。


 確かに力は得た。だがこの力をもってしても、洞窟は地上へと繋がってはいない。繋がっているかもしれないが、探すのに一苦労どころではない労力が必要だ。

数日かけて探索した結果、暫くはここで過ごすという結論に、俺は至っている。


「無理無理…」


 洞窟の内部は、落ちてきた穴と池のある空洞、そして今いる大きい洞窟の三箇所を確認した。大きい洞窟には未探索の穴があるにはあるが、行く気にはなれない。


(あそこ、多分危険な生物いるんだよな…)


 洞窟にいる小動物は、未探索の穴に行ける筈だ。しかし彼等全てが、穴を避けるように活動している。俺自身ビヨットを身につけて、一種の危機管理能力が上昇したのか、野生の勘が探索を拒否しているのだ。


(ここで十分飯とかは賄えるしな…)


 大きい洞窟は、本当には豊かな自然に恵まれている。

甘い果実がなる木や、香りのいい葉がある花。警戒心が極端に低く、簡単な罠で引っかかる鳥。時折姿を見せる川蟹や川魚。奥の石壁を削れば、何と岩塩まであった。


(ぶっちゃけ、居心地最高だわ)


 人口の池まで歩かなくては飲み物がないのが難点だが、まぁ気にしてもない。襲われる心配はないし、雨風を凌ぐ必要もないのだ。


(ビヨットのお陰で、風呂沸かさなくていいのは楽だ…)


 のんびり過ごして、気が向いたらビヨットで身体を温める。そのまま池に入って思う存分水浴びをした所で、何の悪影響もなかった。

つまり俺は、する事がない。


(こんな所、助けに来る奴そうはいねーよな…)


 こんなに過ごしやすいのに、今まで噂も知らなかった。聞いたのは隠された宝についてだけだ。


(誰も知らない…)


 俺が落ちた穴は、恐らく誰かが作った抜け穴だと思う。ピラミッドにもある、盗賊たちが拵えた穴みたいなものじゃないか、というのが俺の推測だ。

 あの穴も、随分と使われていない。周りにあったガラクタの山は、かなり年季が入っていて、ここ数年の代物は無さそうだった。


(気長に待つか…)


 焦っても始まらない。そう考えて、俺は今日も?のんびりと過ごしていた。



 まぁぶっちゃけ、やる気が起きないだけだ。色々理由を並べたけど、当面俺に出来ることなんか、生き延びる事しか無い。

 ビヨットとかいうけど、必要な場面は当分出てこないだろう。蛇の攻撃なんか論外だし、牛の回復だって、怪我をするシチュエーションに出くわさないように、静かに生きているんだ。


(ふぁ…)


 そもそもニートをしていたから、のんびり過ごす方が慣れている。酷い時は十二時間は睡眠に充てていて、尚寝足りないのもしばしばあった。今は起こす人もいなければ、喧しい鳴き声を響かせる輩もいない。


(最高…)


 何より努力なんか嫌いだ。いざ必要になった時ぐらい、多少やれる程度の技能はある。これ以上鍛えた所で、何が出来るってんだ。



 そう、誰も叱らない。落ちたのは事故だ、そう思っている。


 そんな甘い考えをしていた俺は、この後に起こる災難に、どうしようもなかったんだ。


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