第3話 山で見たモノ
これは私が田舎のばあちゃんから聞いた話。
私はこんな話は信じていない。いや、信じたくないというのが適切な言い草であろう。所々記憶は曖昧であるがその話を読んでくれている方に紹介したい。作り話と思って聞いてくれても構わない。真実は、ばあちゃんしか知らない。
ばあちゃんが私と同い年くらいの時、要するに二十歳ぐらいの時、上京する前に幼馴染みんなで山に遊びに行こうという話になった。普段から当たり前にばあちゃん達を見守っていた山だが、実際にばあちゃん達が山の中に入って遊んだかと言えば全くそのようなことはないらしい。だから上京する前にしばらく田舎を離れるので記念に思い出を作ろうと、山遊びを考えたそうだ。その山には、猟師が泊まる場所として活用されている山小屋があり、そこで2,3泊泊まろうという計画で、ばあちゃんは友達4人と山遊びに出かけた。
友達4人の名前を仮に、桃田、犬飼、猿渡、雉谷とする。
どの人も小学校からの幼馴染で、中学高校も同じで俗に言う仲良し5人組である。桃田、犬飼は女子、猿渡、雉谷は男子だったのでバランスもちょうど良かった。
山遊び当日、ばあちゃん達は山の入り口へ集まった。その日は雲ひとつない山遊びには最適な天気であった。まずは、荷物を置きに山小屋のある場所へと目指すことにした。久しぶりの山に全員苦戦した。男子組みも息切れが激しい。山小屋へ着いた時は、全員へとへとでこの後山を探索する予定がなくなってしまうのではと、ばあちゃんは懸念していたらしい。
「うそだろ?この山ってこんなにきつかったっけ?」
山小屋へ着いてから全員無言を貫いていたが最初に口をうごかしたのは雉谷だった。
「しんどかった〜。」
などのたわいもない会話をして、また再び沈黙してしまった。結局、昼飯をみんなで食べて体力を回復したのちに探索に行こうと決めた。
昼飯を済ませ、探索に行く時が来た。ひとまず、2人と3人に分けて適当に探索をして陽が沈む前、5時半には一旦小屋に戻ろうと言う話になった。ばあちゃんは、桃田、猿渡と組むことになり2グループは早速散らばっていった。
「とりあえずまず山道から歩こう。無闇に迷うと帰ってこれなくなるし。」
という猿渡の助言に従って山道を登っていった。この山は整備されていない道も多く、そこに入ると遭難してしまうかもしれない、という恐怖をばあちゃんは抱えていたそうだ。そして、猿渡が「まず山道から」と言ったのでいつかはそういったところに入らなくてはいけないのではと思っていた。その予感は的中し、ついに
「じゃあ、未開の道を探索してみるか?」
と猿渡が呪いの言葉を放った。
「えー!迷ったらどうするの?夕方までに小屋に戻ってこれなくなるよ!」
と、桃田が猛反対する。ばあちゃんもそれに合わせて猛反対したが、猿渡は聞く耳を持たず1人で山道から外れた道へ歩き出してしまった。仕方なく2人は猿渡を追わざるを得なくなった。
「大丈夫!通った道は覚えておくから!平気平気!」
と猿渡が言うものの、説得力は皆無であった。何故なら、猿渡はクラスで一二を争うほどのバカでありすぐに物事を忘れてしまうからだ。この世界一信用のできない言葉に対し、ばあちゃんは何がなんでも自分が記憶するしかないと心に誓ったと言う。
やはり整備されていない道は歩き辛く、尖った岩だの、無駄に伸びている枝などが進路を阻んだため、そう遠くへは3人はいけなかったが、開けた場所を発見した。そこは、山の他の場所と雰囲気がおかしいと気付くのに3人はさほど時間をかけなかった。とても湿っており、薄暗く、風が吹いていないのだ。そして、なによりも虫や鳥の鳴き声が聞こえなくなった。とても陰惨とした雰囲気にそこは包まれていた。そしてその奥には、未開の山小屋がぽつんと慄然さを出しながら立っていた。
「なんだここ?山小屋がもっとあったなんて知らなかったぞ!」
と、猿渡は興奮している。
「ねぇ、ちょっとここおかしくない?もう帰ろうよ!」
「そうだよ!勝手に入っちゃまずいよ!元の道に戻ろう?」
と、2人が止めるも、また猿渡は聞く耳を持たずずかずかと侵入していく。
「山小屋の中に入ってみようぜ!」
もう歯止めがきかない猿渡を見送るわけにはいかず、猿渡の後に2人は続いたが
「山小屋だけには入りたくない。」
と頑なに桃田が断っている。桃田は霊感持ちでいつもおかしなことを普段から言っていたため、霊感がないばあちゃんでも危険を感じたと言う。
「はいはい、またいつもの霊感ですか。じゃあ小屋の前で待っててよ。なんもなかったらすぐに出て行くから」
と猿渡は笑い飛ばし、小屋の中に入っていく。桃田はガタガタと震えだし、明らかに名状しがたい雰囲気であることはばあちゃんからみても分かった。ばあちゃんは桃田の背中をさすることしかできなかったという。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」
小屋の中で叫び声が響いた。ばあちゃんは急いで一人震える桃田を残して小屋の中へ突入した。中には、猿渡が一人倒れていた。小屋を見渡すも内装は机といすがあるだけでそれ以外には何もない普通の山小屋であったそうだ。そして、猿渡はむくりと起き上がり
「ぎゃはははははははははははは!!」
と笑い出した。
「びびったか?冗談だっての!小屋の中には何もなかったぞ!いやー、びっくりしただろ!」
と、ゲラゲラ笑っている。ばあちゃんは怒りがこみあげてきて、泣きながら猿渡を平手打ちしたらしい。ばあちゃんはありとあらゆる罵詈雑言を浴びせたといっていた。本気で驚いたのも当然である。そして猿渡と小屋を出ると、うずくまっている桃田に何もなかったことを告げてもう帰ろうという話になった。桃田は心底安心したようで
「よかった...本当に良かった..」
と繰り返していた。そして小屋を後にし、帰路についた。しかし、未開の道であるため一行は迷ってしまった。
「ほら!やっぱり迷った!こうなると思った...」
とばあちゃんたちは愚痴りあっている。そして、山小屋が見えてきた。そう、先ほどの山小屋が。気付いたら元の場所に戻ってきてしまったらしい。
「バカ!元のところに戻ってどうすんのよ!」
と猿渡を責めたが
「わかんねえよ!俺本当に今回は道を覚えていたんだって!」
埒が明かないのでもう一度もと来た道をたどることにした。この時点でもう夕方の5時。あと30分で元の小屋に戻らなければいけない時間である。急いで道を戻るも、またもやあの小屋へ戻ってきてしまった。
「うそでしょ?なんで...?」
三人は驚きを隠せない。桃田のいやな予感は的中した。そしてもう時刻は5時30分を切っていた。
「ねえどうすんの?あの二人だって絶対心配してるよ...」
ばあちゃんの時代は携帯電話がないため連絡を取ることができなかった。仕方なく、その小屋で一夜を過ごし、夜が明けたら再出発することにした。この決定に最後まで嫌がっていたのは、やはり桃田だった。しかし、野宿するわけにもいかずしぶしぶ桃田は小屋に入った。この小屋は明かりがないため、月明かりだけが頼りだった。
「まあそう落ち込むなよ!小屋があっただけいいじゃないか!机といすしかないんだしヤバいものなんてないし!」
と一人だけ楽観的なのは猿渡だった。ばあちゃんは震える桃田を落ち着かせようとし、気を紛らわせるために三人で何か遊んで暇をつぶそうと提案したそうだ。かといって、何か遊びを思いつくに至らず上京後どうしたいかなどたわいもない話を続け、気づけば三人とも眠ってしまった。
そして、ばあちゃんは猿渡に突然起こされた。夜中の2時を過ぎたあたりの時であった。
「なんか聞こえる...起きろ!」
ばあちゃんは起こそうとする猿渡を無視しもう一度寝ようと思ったが、
コン、コン....
と小屋の扉をノックする音で意識が完全に目覚めたそうだ。ばあちゃんは飛び起き、桃田を確認したが桃田はまだ寝ており、猿渡と二人で起こさないことに決めた。二人でドアを見つめること、しばらくの沈黙が続く。ばあちゃんが気を緩めかけたその時
「おーい」
とドアの向こうで声が聞こえた。その声は、雉谷の声だった。
「入れてくれー」
「私よ!いれて!」
犬飼の声もする。
ドンドンドン!
ノック音が激しくなっていく。
「探しに来てくれたんだ!早くドアをあけよ!」
とばあちゃんがドアのほうへ進むが猿渡がすかさずばあちゃんをつかみとめる。
「いや、絶対におかしい。あいつらじゃない。もし本当にあいつらがさがしに来ているのであればいきなりこのドアを開けて探すはずだ。そして、自分たちがこの小屋にいることも知らないはず。なのに、自分たちがこの小屋にいることをあたかも知っているように開けてくれ、開けてくれって叫ぶだけ。絶対あの声はあいつらじゃない!」
ばあちゃんは猿渡の言葉に戦慄した。
「入れて!入れて!入れて!入れて!入れて!!!」
ノック音がさらに激しくなる。ドアが突き破れそうな勢いだ。二人は叫んでいるものの、ばあちゃんは二人の言葉に微妙な違和感を覚えた。同じフレーズを再生しているような正しい規則で繰り返されることに、ばあちゃんは人ならざるものを感じ取ったという。ばあちゃんは声にならない悲鳴をあげ、猿渡のほうを見ると、猿渡は失禁していた。そして、ついに一切の音が消えた。しばらくまた沈黙が続く。もう行ったか、と思ったとき、
野太い男性の声で、「開けろおおおおおおおおおおおおおお!!!」
と轟いた。そこでばあちゃんは失神してしまったそうだ。
ばあちゃんが目覚めるとそこは、木材が大量に転がった場所だった。そこに猿渡と桃田も寝ている。腕時計を見ると、朝の6時前をさしていた。どうやらそこは山小屋の跡地だった場所らしい。ばあちゃんは二人をおこし、無事を確認しあった。猿渡とはこのことは桃田には内緒にすることに決めた。あの開けた場所はなくなっており、ひたすら整備されていない荒んだ傾斜を下りながらなんとかして三人は山道へとたどり着いた。ばあちゃんたちはひたすらあの山小屋へと足を進ませてついにたどり着いた。山小屋には雉谷と犬飼の姿が確認でき、まだ彼らは寝ていたため彼らを起こした。
「え?お前らどこ行ってたんだよ??心配したんだぞ!起きたら下山して助けを求めにに行くとこだった。」
と当然二人はいうので、猿渡がうまく言いくるめた。
「いやー、実は山道から抜けて未開の地を探検してたら迷っちゃって、そしたら良い岩があってそこを寝床にして野宿してたんだよねえ。クマとかに襲われなくてよかったわ。」
2人はこれで納得したようだが本当のことを知っているのは猿渡とばあちゃんと桃田しかいない。そして、あのような名状しがたい体験をしたのは、猿渡とばあちゃんだけだ。ばあちゃんはそのことを家族以外の人には話していないそうだ。もしかしたら子供だった私を怖がらせるために作ったのかもしれない。それに越したことはないが、妙に具体性のある話なので幽霊や化け物を信じていない私も何か引っかかる部分はある。やはり山の神様というか化け物のようなものはいるのだろうか。神様の通り道に迷い込んで神様の怒りに触れたのではないかというのがばあちゃんの見解だ。ばあちゃんはこれをばあちゃんの母親や祖母にも話していないそうでこれの正体は不明だと言っていた。
もしかしたら、この世には触れていはいけないもの、行ってはいけない場所というものが存在するのかもしれない。そして、ばあちゃんはもう一つ重大なことを言っていた。下山した後、猿渡が失踪したそうだ。猿渡を近所中で探したそうだが見つからず失踪したということになった。猿渡はあの神様に連れていかれてしまったのだろうか。もしかしたら、猿渡は初めて一人であの小屋に入ったとき、見てはいけないものを何か見てしまったのではないか?ばあちゃんはあの時、猿渡は倒れていたが、顔がものすごくひきつっており笑い方も作り笑いのようだったと言っていた。
ばあちゃんが小屋に入る前に猿渡が見たものとは...一体...
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