第2話 ひとりかくれんぼ

ひとりかくれんぼって知ってますか?巷の陰キャがするような遊びと思った方、正直に挙手してください。でもこれ、ひとりでかくれんぼするという意味ではないのです。本当にひとりでかくれんぼするとか虚しいですよね。普通のかくれんぼは人間相手にかくれんぼしますよね?しかしこの、ひとりかくれんぼは人形やぬいぐるみとかくれんぼをします。


人形とかくれんぼとはどういうことでしょうか?

ひとりかくれんぼは降霊術の一種で幽霊を呼び出し人形やぬいぐるみに憑依させ、その幽霊とかくれんぼするという危険極まりない遊びです。ひとりかくれんぼをやると高確率で怪現象が起こるらしいです。例えば、だれもいない部屋で足音が聞こえたり、人の声が聞こえたり、手や足を何者かに触られたり...などです。簡単にルールを紹介しましょう。


非常に危険なため絶対にやらないでください。そのため詳細なルールは省きます。


<事前準備>

まず、自分がこの家に1人でいることを確認すること。同居人がいたら絶対にやらないでください。命に関わります。ぬいぐるみの綿をすべて抜き、かわりに米を詰めたあと、自分の爪や髪の毛などをぬいぐるみに入れて赤い糸で縫い直す。(米は内臓、赤い糸は血管を意味するらしいです。)そのあと風呂場に行き、風呂桶に水を溜めておく。そして自分の隠れる場所を事前に決め、その場所にコップ一杯分の塩水を用意する。



<実行手順>

ぬいぐるみに自分の名前以外の名前をつける

例 森の妖精 など...

午前3時になったらぬいぐるみを風呂桶に投げる。そして、「最初は〇〇(自分の名前)が鬼だから。」と3回言う。


その後部屋に戻り、部屋のすべての明かりを消してテレビだけをつける。(テレビは砂嵐限定です。砂嵐がなかった時は...申し訳ありませんが分かりません。)


目を瞑り、10秒数えたら刃物を用意して風呂桶に行き、「〇〇(ぬいぐるみの名前)、みぃつけた。」と言ってぬいぐるみを刺す。「次は〇〇(ぬいぐるみの名前)が鬼だから。」と言い、刃物を置いて事前に決めた場所に隠れる。



<隠れる時の注意点>

・途中で家の外に出ない

・電気(明かり)は必ず消す

・隠れているときは静かに

・1~2時間でやめること

・万一のときのため、出入り口の鍵は開けておき、すぐに駆けつけてきてくれる友人を用意しておくのがベスト!

携帯電話も用意しておくといい。



<終わり方>

コップの塩水を半分口に含み、隠れている場所からでて、ぬいぐるみを探す。(風呂場にいるとは限らないので途中で何か起きても塩水を吐かないよう注意してください。)


ぬいぐるみを見つけたら、残りの塩水をぬいぐるみにかけて、口の中の塩水も吹き掛ける。


「私の勝ち」と三回言う。そしてぬいぐるみは焼却処分にすること。(最終的に燃える形であればなんでも良いです。)


ざっとこのような感じです。絶対にやらないでください。しかし、私は出来心でやってしまいました。中2の時です。親が夜勤のため、私が朝まで家に1人という状況だったので「今ならできる!」と好奇心が沸いてしまったのだと思います。(親はいなくても、飼ってる犬はいましたが。)その時の体験談を書こうと思います。


まず使ったぬいぐるみを紹介しましょう。そこそこ大きい魚のぬいぐるみを使いました。ぬいぐるみが大きいのですぐに見つかりそうであるという考え、そして魚は足がないしエラ呼吸する生き物なので風呂桶から脱出することは到底できないだろうという考えから選びました。なんの魚かは覚えていません。おそらくゲーセンで取ったやつだと思います。


1時ごろでしょうか。私はすべての下準備を済ませました。ちなみにぬいぐるみに入れたのは爪だけです。全ての指の爪を入れました。ぬいぐるみの名前は...申し訳ありません。覚えていません。ここでは仮に「ハリー」にしておきましょう。実は、私はせっかちなので3時になる前からひとりかくれんぼを始めてしまいました。具体的な時間は覚えていません。1時30分くらいに始めたと思います。


ひとりかくれんぼはやり方を間違えてはいけないそうですが、テレビの砂嵐がなかったため自分は適当な番組に設定してやりました。すべての電気を消して風呂に向かい、風呂桶のぬいぐるみに小さいハサミをそっと突き刺しました。腹を突き刺すのは怖かったので手の部分に突き刺したことを今でも覚えています。本当なら包丁などの刃物のほうが良いのですが、自分の命がかかっているため筆箱に入っていた小さなハサミを利用しました。


「次は、ハリーが鬼だから。」 「次は、ハリーが鬼だから。」 「ツギハ、ハリーガオニダカラ。」


と言った後、そそくさとテレビがある部屋の隣の押し入れの上段に逃げ込みました。ありきたりな場所ですが、亡くなった祖父の仏壇がある部屋なので祖父が助けてくれるかもしれないと期待してその部屋の押し入れに隠れました。押し入れの中には、スマホ、ゲーム機、パソコン、イヤホンなどを入れていたのでしばらくそれで遊んでいました。


何分経ったかは覚えていませんが、唐突に上の階で眠っていた犬が何度も吠え出しました。


「ワン!ワンワン!!グルルルルルルルル....」と、唸り始めたのです。うちの犬は、めったに夜間は吠えることもないですし、散歩中に他所の犬に出くわした時のみ唸るので、家の中でいきなり唸りだすことは絶対にありませんでした。しかし、この時はまるで犬が何かを追い出そうとしているような剣幕で鳴いていたのを覚えています。私はそこで震えが止まらず、押し入れの中から出れなくなってしまいました。


しかしながら、テレビ番組が消えるようなこともなければ、ヒタヒタと足音が聞こえるようなこともありません。犬がずっと深夜に鳴いていては近所迷惑になるだろうと考えたのでしょうか。その時の私の心情は全く覚えていませんが、塩水を口に含み風呂場へと向かいました。幸いにも風呂桶にハリーは虚しく浮かんでおり、ハリーを取り出して


「私の勝ち」 「私の勝ち」 「私の勝ち」


と3回言ってかくれんぼを終わらせました。かくれんぼ終わらせた後すぐに風呂場の電気をつけ、自分の階のすべての部屋の電気をつけるため家中を走り回りました。その時もまだ犬が鳴いており、うるさかったことを覚えています。しかし、もうグルルと唸ってはいませんでした。そしてハサミを回収しようと風呂場へ向かったものの、


ないんです。ハサミが。


その時私は全身の鳥肌が立ったのを覚えています。無我夢中でハサミを探し回りましたが、見当たりませんでした。「まさか」と思い上の階の犬のゲージを見に行こうと階段を上りかけた時、足底に冷たいものの感触を感じました。ふと階段を見ると、階段が濡れていたのです。犬がぴょんぴょこ跳ねていたので犬の無事は分かっていたので我に返り、犬のゲージに向かいました。


犬が、ハサミの持ち手を起用にくわえて尻尾を振っていました。それを見た後の記憶は申し訳ないですがありません。おそらくハリーは焼却ゴミにしたと思います。あの時は犬が、得体のしれない何かと戦ってくれたと確信しました。私は、勘違いしていました。隠れているときは、魚のハリーがどうやって魚の分際で風呂から脱出して水中ではない地上を動いてどのように探しに行くのだろうかと想像していましたが、ひとりかくれんぼは、ぬいぐるみを目印にして幽霊を呼び出す儀式なのであの時出てきたのはハリーではなかったのではないかと思います。


ちなみに、犬はいまでも元気です。しかし、あの日を境に時々犬が家の中でも唸るようになりました。家族が一緒にいる中でも時々誰もいない方向を向いて唸り始めるのです。頻度は減りましたが、今でも犬が時々唸っています。犬が唸るたびに私は怖い思いをしています。ひとりかくれんぼなんて絶対にしてはいけません。いいですか、絶対にしてはいけませんよ。どうしてもやりたいという人がいたら、私に連絡してください。やるとしても一人ではやってはいけません。


恐らく、まだひとりかくれんぼは続いています。

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