第4話 思い出したくもない記憶

また友達から怖い話を仕入れた。怖い話好きの友達から不定期ながら友達の知り合いが体験したような話を聞かせてもらっているのだがこれは睡眠の安らぎを奪うほどの衝撃をぼくに与えた。今から書くのはその話を元に書いたストーリーだ。会話文や描写は全て自分の想像だ。内容は友達から聞いたことをそのまま再現するので覚悟して読んで欲しい。


俺は、幽霊が昔から見える。幽霊の中にはいい奴もいるし悪い奴もいる。自分が死んだことにまだ気付いていないドジな奴もいる。幽霊と会話することはできないが大体どのような思いを抱いているかは分かる。脳内に直接響いてくる。念が強いと落雷のように轟いてくる。幽霊を見ることに慣れたかと聞かれたら、

「慣れたも何も、もう二度と見たくない」

これが俺の答えだ。こう思った経緯をこれから記す。俺がした心霊体験は四方山あるがこれは、俺が経験した中で思い出すのも憚られる話だ。


具体的な年齢は避けるが俺がまだガキの頃、よく従弟と遊んだ。従弟は何をするにも無邪気であり、彼の純粋な笑顔は今でも俺の脳裏に焼き付いている。次に彼の笑顔が見れるのはいつだろうか。従弟は、都会とは言えないが利便な土地に住んでいた。そのせいか、従弟は自然に憧れていた。よくある都会育ちの人間が田舎に行きたがるものと同様に従弟は相当な頻度で田舎へ遊びに行きその都度俺は従弟に誘われ田舎巡りに同行していた。親は俺が従弟についているからと基本的に放任しており特別な門限は設けていなかったため、従弟と秘密基地を作ってそこで1泊するということも珍しいことではなかった。余談ではあるがその秘密基地に幽霊が出没したこともある。特に害のある幽霊ではなかったので無関心を決め込んだが。そんな悠々とした日々は従弟と、あるトンネルに行った日から崩れることになる。


天気の良い某日、従弟の家に遊びに行った時、従弟は会って早々に


「ねーねー!今日はトンネルに行きたい!いいところないかな?」


と突拍子もないことを言い出した。いつもなら、

「秘密基地にいこーよ!」や「〇〇山にいこーよ!」などもっと具体的なことを言うのだが、特になんの変哲もないトンネルに行こうなどと頓珍漢なことを言い出したのである。


「トンネル?トンネルで何して遊ぶっての?なんもないぞあそこ。」


「今日はそういう気分なの!トンネル潜って遊びたいの!」

仕方なく俺は従弟の気まぐれに付き合ってやることにした。そこで俺は愚かな所業を生み出してしまった。


「トンネルなら心霊スポットを選んで肝試ししね?」

と考えてしまったのだ。当時の俺は悪い幽霊がいても無視を貫いて逃げればなんとかなると考えていたため、そう言った場所に入っても適切な行動を取れば問題ないと思っていた。俺は従弟に計画を話し、当然従弟は賛成した。そして俺はスマホで心霊スポットのトンネルを調べると、都合よく隣県にある某トンネルがヒットした。そこまで遠くなかったため、そこに行くことにした。従弟の家に着いたのが夕方で、夜に行くのは怖かったため翌日の朝に家を出ることに決め、その日は従弟と2階にある従弟の部屋でスマブラに熱中した。


翌日、朝7時過ぎに従弟と俺は肝試しに出かけた。そのトンネルの最寄り駅まで到着した後自転車を借りてそのトンネルに向かってペダルを踏んだ。40分ほど他愛もない話をしながら自転車を進め、10時ごろに某トンネルに到着した。


「ねーねー!幽霊はこの中にいるの?いる?いたら教えて!」


トンネル前で弟が興奮して騒ぐ中、俺は自転車から降りた瞬間ただならぬ空気を感じた。いると思っていた幽霊が、トンネル周辺にいないのだ。がらんとした雰囲気を醸し出してそのトンネルは佇んでいた。明らかに異常だ。高速道路のトンネルを通る時、少なくとも浮遊霊は周辺にいるのだ。なぜかこのトンネルの周りには誰もいなかった。


「ねーねー!どうしたの?ずっと黙っちゃって。ねぇ!」


その言葉で俺は我に帰った。従弟になんて伝えようか。従弟をげんなりさせるわけにはいかなかったので俺は適当にはぐらかした。


「あぁ、お前の後ろに今子供が立ってるぞ。」


「いやぁーー!!」


と叫びながら従弟は笑っている。


「やだーー!こわーーい!」


と言いながら従弟は勝手にトンネルの中へと走り出した。


「おい!待てよ!速いって!」


俺は慌てて従弟を追いかけた。トンネルに入った刹那また空気が変わった。今まで感じたこともないような悪い気がトンネルの中に蠢いているという雰囲気を感じた。従弟を止めようと思ったが従弟は足が速く、トンネルの奥へと吸い込まれるように走っていく。


「おい!一回止まれ!」


従弟に必死に呼びかけるも従弟の笑い声が共鳴して響くのみであった。


「頼むから止まれって!おい!」


堪忍袋の尾が切れた俺は従弟に怒鳴り、それに驚いた従弟が振り返った。従弟がこちらを向いた刹那、それはいた。従弟の真後ろに張り付いておりそれも従弟と共にこちらへ向かっていく。それの風貌は白いシャツを着た二十代くらいの男であり、憎悪に満ちた表情をしていた。俺はそれを見た瞬間悲鳴を上げてしまい従弟そっちのけで全速力で入口へと走った。そいつは俺の反応に気付いたのか、俺の脳内に話しかけて来た。


「タヒねぇぇぇ!!タヒねぇぇぇぇぇ!!!タヒねぇぇぇぇ!!」


俺の頭に轟いたのはその声のみ。鼓膜が破れそうなほどの甲高い声であったのを覚えている。従弟も俺の反応に驚いたのか悲鳴を上げながら俺に追いつこうと走ってくる。従弟と俺は同時にトンネルを抜けた。恐る恐る従弟の方を向いたら、そいつの姿は消えていた。俺は安心しながら


「すまん...お前を驚かそうと思って...声を上げた...」


と従弟に謝った。従弟は、真に受けたようで


「もう帰りたい!帰ってスマブラしよ!」


と同意したため、元来た道を自転車で帰り、雑談をしながら無事に家まで辿り着いた。飯を済ませて従弟の部屋でスマブラをしたが、従弟とのスマブラは全く集中できなかった。トンネルのやつのことが鼠取りの如く頭から離れないのだ。挙げ句の果てに俺は強い吐き気を感じ、1階のトイレへと駆け込んだ。トイレのドアを開けると


便器に奴が座っていた。


あの時と同じ顔をしたまま。叫びたくても叫べない。俺の身体は自然と硬直した。奴は俺の顔を見てニヤリと笑った。その瞬間、「ドスン」と大きな音が家の外から響いた。そして外から女性の悲鳴が聞こえた。それに我に帰り玄関のドアをこじ開け何があったか見に行った。


門の前には、従弟が倒れていた。頭から血を流した状態で。俺は状況を理解できなかった。家の方を見ると、2階の窓が開いていた。従弟は飛び降りたのだ。親と従弟の親が出て来て、パニック状態になった。従弟の母親の泣き叫ぶ声は今でも覚えている。


急いで救急車を呼び、従弟は病院に搬送された。従弟が家に帰って来た時、従弟のそばには奴が立っていた。今でも覚えている。奴は、笑みを浮かべていた。表情ひとつ変えることなく。奴は、従弟に取り憑いていたのだ。


奴と同じ末路を従弟は、味わったのだ。


俺もすぐそっちへ行くから。また、スマブラしような。待ってろよ。

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