第4話 フレアの過去3
そうして、離縁から半年後。のんびり実家で暮らしていた私に、なんと再婚の打診があったのです。
その相手はホールド・ホットスルー公爵様でした。現王の弟であり、若い頃から美男子として騒がれ、若くして妻に先立たれてからずっと独り身で、45歳を過ぎても尚その美貌は損なわれず精悍さが増して、後釜を狙う女性が後を絶たないと社交界では有名な方です。そんな雲の上のような方から、私宛てに再婚が持ちかけられようなんて、思ってもみませんでした。
再婚ではあるものの、ホットスルー公爵家の後継者は決まっているので、無理して夫婦としての営みをする必要も無く、また同じ理由で無理して子を産む必要も無いこと。あと数年もしたら嫡男に爵位を譲り隠居する為、ゆっくり供に過ごせる時間はたくさんあること。公爵家の持ち家には離れもあるので、供に過ごすことが嫌ならばそちらで自由に暮らしても良いこと…などなど、結婚に憧れも魅力も感じなくなっていた今の私にとっては、好条件ばかりが提示されました。まるで夢のようで信じられないようなお話でしたが、公爵家からの使者だけでなく、ホールド様自らも我が家に来られての正式な再婚の打診でしたから、お話を信じる以外ありませんでしたが。
私とホールド様とは歳が20以上離れていますが、ご本人の姿を見れば実年齢を知っても軽く10はお若く見えますし、話題も分野が広く多岐に渡って豊富で楽しく、歳の差など全く気になりません。
前妻との子である成人済みの息子がいるとのことでしたが、後継問題の心配がないことは逆に安心出来ることです。…以前の家では義理の両親からの月に二度届く手紙に孫への期待と催促が常にありましたから、余計に有り難く感じます。ただ問題としては、子が不要な後妻での嫁入りとなるので、立場的に公爵夫人としての権限はほぼない状態となるでしょう。けれど、以前は妻の立場も権限も無い扱いを元夫から受けていた私ですもの。私の信頼するメイドや従者達を連れていく許可もありますし、王家からの信頼が厚いホットスルー公爵家の一員となるだけでも、その恩恵はと言えます。
そもそも白い結婚での離縁とはいえど、出戻りとなった私は貴族の令嬢として大いに価値が下がっており、このまま一生独り身である可能性もありました。そんな中での公爵家からの打診は嬉しい気持ちよりも、こんな私で良いのだろうかと恐れ多い気持ちの方が先に浮かんできたものです。
両親とも姉夫婦とも良く話し合い、ありがたいこのお話を受ける前提で前向きに取り組む事が決まりました。すぐに返事をしないのはお相手が公爵家ともなれば、我が家としても慎重に対応しなければならないからです。公爵家と伯爵家では権威も資産も差がありすぎて全く異なりますもの。万が一でも不評を買ってしまうような事態は避けなければなりません。時間をかけ両親も公爵家との話し合いを何度も続け、私とホールド様との面会には必ず姉夫婦と供に行いました。
私の第一印象では、ホールド様は落ち着いた紳士でとても誠実な方です。と言いますのも、最初の面会の時に『公爵家にとって政治としての価値もない私に、なぜ再婚を打診したのでしょうか?』と同席していたお姉様が慌てるほどのそんな不躾な問いに怒ることもなく、笑いながら私にも知る権利が確かにあるとホールド様の事情を語ってくれたのです。
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