第3話 フレアの過去2
夫婦として暮らす事になっていたのは子爵家のセカンドハウスではなく、屋敷の広さ的に私の屋敷の方でしたが、まさかそのまま一度もコルド様が戻られることがないなんて、誰が予想できたことでしょう。私の存在をまるで無視するかのように、大事な初夜さえ、すっぽかされたのです。
念の為に後日、コルド様の安否を確認すれば、コルド様は王宮に用意されている部屋で寝泊まりされていて、毎日仕事に精を出しているそうでした。時折、荷物か何かを受取に子爵家のセカンドハウスを利用しているようですが、新婚であるはずのこちらに顔を見せる所か寄り付く気配さえありません。
婚約していた時もでしたが、結婚した後でも当然のように、夜会のエスコートなどあるはずもなく、プレゼントや手紙一つ届くことはありません。そうしますと、日ごとに家から連れてきたメイド達や、私の実家に仕える従者達の雰囲気がこう…私に対してはいつものように優しいのですが、コルド様の話題が出るだけで、どことなく怖い雰囲気を感じて来るようになりました。
そんな感じでこちら側の不満は大いにあれど、コルド様が私の夫であることは変わりありません。子爵家の妻としてお茶会を開き、友人達や夫人同士の付き合いの方から夫の為になりそうな情報を収集しては手紙に認めて送ってみたり、夫の誕生日に合わせて品物を贈ったりと、今の私に出来る限りのことをするしかないのです。それでもなお私の前にコルド様が現れることもなく、何の音沙汰もないまま時間だけが過ぎていきました。
夫婦の実感さえなく三年が経った頃。突然、王宮からの使者が私の屋敷に一つの知らせを届けてくれました。それは、夫婦としての営みをしていない…つまりは白い結婚を理由に夫であるコルド様から離縁の申請があり、その申請が通ったことの連絡でした。我が国では貴族間の結婚は余程の事が無い限り離縁は認められませんが、三年以上もの白い結婚を証明が出来るならば、片方だけの意思であっても速やかに離縁が認められます。つまりはこの連絡があった時点で、私とコルド様の離縁が確定したのと同意義でした。
コルド様からの初めての連絡が離縁申請とはと驚きましたが、私としてもこのたびの結婚に不満というか、疑問を感じていましたので、素直に離縁の同意をし、円満離縁をしたのです。
私の王都での暮らしは実家からの仕送り金があり特に大きな問題もなく過ごせていましたが、結婚式当日以外に会うことが無い夫婦とは何だろうかと思い悩む日々でもありました。例えばそれが相手が遠征に向かう騎士様ならば理解出来ますが、コルド様は騎士では無く文官で、同じ王都で暮らしていたのです。この結婚にどんな意味があるのかと、きっとコルド様の方でも同じ気持ちだったのでしょう。
コルド様と離縁した私は王都にいる理由も無くなり、速やかに実家に帰ることにしました。王都を離れ馬車に揺られて無事に実家に帰れば、私を心配していた両親と姉夫婦が出迎えてくれました。実家とは手紙で情報をやりとりしていましたので、私の事情は周知されています。両親はコルド様への怒りを隠さず、姉夫婦も同様でした。その怒りを無理にでも納めたのは、私が離縁に対して特に気にしておらず、また肝心のコルド様が大臣の庇護下にあることから政治的な制裁が難しい事からでした。
まぁそれでも、アットソンナ子爵家とは絶縁しておりますし、気晴らしと言わんばかりに、両親と姉夫婦が参加したお茶会や社交界にて、私に起きた夫婦生活の実態を率先して周囲に吹聴することで、コルド様自身の再婚が難しくなるよう手回ししていたようですが。姉夫婦曰く、仕事の評価がどんなに良くても、こういった素性の問題は後々になって響いてくるそうです。さすがお姉様ですわ。
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