第2話 フレアの過去
私はフレア。ドーモヨロシュ伯爵家の次女として生まれ育ちました。姉と私は二つ違いで、二人揃って両親から麦の稲穂のような金の髪とイチゴのような赤い目を受け継いでおり、昔からそっくり姉妹として家族や身内にそれはもう大変可愛がられてきました。家族の仲は他の貴族家と比べると、愛情深い仲良し家族だと自慢出来ますわね。
そっくり姉妹とは言えど外見はいくら似ていても、性格はそれぞれ違うのは当然の事です。ドーモヨロシュ伯爵家はしっかり者の姉が継ぐと決まっておりましたので、おっとりしているとよく言われていた私は嫁入りする事が薦められていました。そして私が13歳の時、昔から交流があった四つ上の男性と婚約をすることになりました。婚約者は家を継ぐ長男ではありませんでしたが、騎士として働くことが決まっており、その際に新たに家を興すことになるそうで、私が嫁ぐお相手としての条件がピッタリの方でした。友人のような関係から、順調に婚約者としての親愛を深めていたのですが、私が16歳、婚約者が20歳の時に…騎士としての務めを立派に果たされて、殉職。私達の婚約は自然解消となりました。後二年…私が18歳になったら結婚する予定でしたのに。
そして、私は喪に服したまま20歳になり、いつまでも前に進もうとしない私を心配した両親から新たな婚約を勧められました。その相手こそがコルド・アットソンナ様でした。コルド様については私としては王家主催のパーティーで見掛けたことがあるかも、くらいの認識でしたが、両親や友人達からの話では、王宮文官として働いており、仕事に真面目で出世が早く、将来性も確かな有望な青年だとのこと。この婚約はアットソンナ子爵家からの申し出であり、何よりコルド様はご長男なので嫁入り大歓迎なのだとか。私より五つ年上ですが、以前の婚約者と一つ違いなだけですし、送られて来た絵姿も見ましたが、真っすぐな眼差しが実直そうな人柄に見えました。この方となら行き遅れになりそうな私でも幸せになれるかもと期待感が湧き、両親の勧めもありますし、これ以上心配を掛けたくない気持ちもあって、この婚約の申し出を受けることにしたのです。…まぁ、その時の期待感は全くの大外れだったのですけどね。
私とコルド様の婚約は無事に成立しましたが、婚約期間は短く、半年後には結婚する事と決まりました。その理由は、アットソンナ子爵家から出来る限り早く結婚して欲しいと強く希望されたからです。半年しかないのであれば急いで結婚式の準備を進める必要がありますが、ほとんどの費用を子爵家が負担するとまで宣言されるくらい必死の様子でしたので、私も両親も何かあってからでは遅いので結婚は早めがいいだろうとそのまま応じる事になりました。…結婚前に死別するなんて悲しみは、私としてももう嫌でしたから。
お互いの家が乗り気で、慌ただしく結婚の準備が手早く進められていく中、私にはただ一つ、不安なことがありました。婚約自体はお互いの両親を通して成立しましたが、その新たに婚約者となったコルド様と実際に会っていなかったのです。そもそもコルド様は王都にお住いなので、馬車で片道七日掛かる伯爵領で過ごしていた私とは、コルド様の仕事の都合上、会いに行く時間の余裕がないとの事でした。責任ある職場での休みの取れにくさについては私も一定の理解があります。では私の方から会いに行こうと奮起し、王都に引っ越すことになったのは当然の流れ。元々結婚式は王都にある教会で行う手筈になっておりますし、結婚後もコルド様に合わせて王都に住むことになるでしょうから、時期が早まっただけと思えば特に問題も感じません。住む家に関しても、結婚祝いとして両親から贈られた庭付きの屋敷があり、私付きのメイド達も一緒に連れて行きますから不自由などないでしょう。これで不安はなくなるはずだと、私は王都に向かう馬車の中でのんびり考えておりました。
そうして、王都で暮らすようになってから、コルド様が住まう家に使者を通して申し入れた面会。残念ながら忙しく時間が取れないとの返答があり、一度目は諦めました。二度目、三度目と日付をずらして申し入れてみましたが、返答は同じ。別の方法でもと思って、お茶のお誘いの手紙を出しても見ましたが、こちらも返答は同じ。謝罪に来られるコルド様の従者の方とは面識を持つようになりましたが、肝心のコルド様ご自身とお会いする機会が作れずに、結婚式の日取りがどんどん迫って来る始末。婚約した時点では半年という短い期間と言えど、手紙や対面を繰り返せば親交を深める事が出来るだろうと思っていましたので、こんなに会う事さえ難しいとは思ってもおらず、不安は消える所か日に日に募ってゆくばかりでした。コルド様は去年から大臣の補佐官に任命されたと聞いており、立派に国を支えている方です。休む時間さえ取れないほど忙しい事は紛れもない事実なのでしょう。頭の中では理解はしております、けれど…それでも少しの時間でも、婚約者に会いたい、話しをしたいと願うのはダメな事だったのでしょうか。
結局、コルド様との対面が叶ったのは、まさにその結婚式当日でした。厳かな雰囲気ある教会の中、神父の前で私とコルド様が揃いの白い衣装に身を包み、誓いの言葉と指輪の交換を終える。式はそれだけの単純な挙式でした。アットソンナ子爵家が急いで確保しただろう教会自体が、歴史はあれど小さめの教会でしたので親族だけの出席で、席の確保が限界でした。そんな中でさすがに私個人の我儘で友人達を呼べるはずもなく、式後、場所を変えての親族が揃ったささやかな披露宴で、胸の内の寂しさを堪えるしかありません。会場となったのは、私が住んでいた屋敷の庭です。移動の際、コルド様とは一度別れたのですが、その披露宴が始まった時点でコルド様の御姿はどこにもなく、仕事に戻ったと聞かされたのは。夫となったコルド様の不在をどうにかごまかして何とか披露宴を終えた後の事でした。
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