第2話 幕間
「俺ぁ星野なゆたとクラスメイトだったんだ、ほんとだぜ、刑事さん」
地方都市と思えぬほどに密集したビル群。ネオンサインの消えた店から出てくる大量のゴミ袋と、それをつつくカラス。酔っ払いが路地裏で吐いたものに、ネズミが群がっている。
「なあ、俺ぁよぉ、星野なゆたと……」
「うるせえ」
タバコを咥えたまま、刑事は買ったばかりの新聞を広げた。一面に『星野なゆた 死亡』の文字が躍る。タワーマンションの窓が割れ、転落死した、とある。施工会社は「施工不良はなかった」と語るが、専門家による調査が進められ……。
「先輩、コーヒーは無糖で……星野なゆたの記事ですか?」
刑事は若い男から缶コーヒーを受け取り、小さく頷いた。
「連絡通り、事故死だ」
「そうですか……しかし、昨日も聞きましたけど、あり得ると思いますか」
「何があっても不思議じゃねえさ。この街ではな」
がやがやと、ビルの一つから男たちが出てくる。彼らの語る言葉は日本語ではなく、大陸の言葉のようであった。彼らの周囲には、妖精の鱗粉がきらきらと舞っていた。
「おい、なにする気だ」
若い男がそちらへ足を向けるのを、刑事は止める。
「なにって……妖精郷の物品は、政府を通してしか使用も売買も禁止じゃないですか」
「そんな当たり前のことを聞いてるんじゃねえよ」
「警察が目の前の犯罪を見逃すんですか?」
刑事は吸い終わったタバコを排水溝に落とし、白髪混じりの髪をかいた。
「谷戸浦市での行方不明者は、年間一万人と言われている。なぜかわかるか」
「それは、他の都市と比べても、訪れる人間が多いからでは?」
「それにしたって多すぎだ。あのな、マフィアで済めばましなんだよ。妖精郷の品を唯一、現地調達できるこの街には、あちこちの政府から、人が送り込まれてるんだ」
道路脇に、ハザードを焚いて停めていた車両がある。
刑事は運転席側を指さし、若い男に乗るように促した。
「互いに無数のパスポートを用意して、誘拐したり殺したり、全てを行方不明扱いで処理させている。俺たちみたいな真っ当な公務員は、関わるだけ損をする」
助手席に座った刑事に、若い男は納得いかぬげに運転席に座りながら言う。
「でも、じゃあ、誰が彼らを止めるんですか」
「うるせえなぁ」
「先輩っ」
「――月影の魔法少女だよ」
ビルの看板に止まったカラスが泣き声を上げる。朝の谷戸浦町に、新しく排気ガスが舞っていった。道路わきで酔っ払いが、ガードレールに掴まりながら、またつぶやいた。
「俺ぁ星野なゆたとクラスメイトだったんだ……」
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