第8話 たどり着いたら、いつも雨降り
「――どうして、なゆたさんを殺したんですか?
ソテツやシダが密生し、洞窟がいくつも見られ、亜熱帯のジャングルを思わせる島だった。累はこの島の地下を改造し、
「我々は、世界を守りたいんだ、
その伊衛門島の海岸沿いに、一基の灯台がある。
明治の頃に作られたのであろう、赤茶けたレンガ造りの灯台だった。周囲を木々に囲まれており、壁面にはツタ植物が絡まっている。内装も古びており、照明もない螺旋階段を登った先には、円形に開けた灯室があった。
「20年前の戦いで、我々は負けてしまった。なにがいけなかった。我々は戦って負けはしなかった。町を破壊するディザイアを倒し、幹部を倒し、それでも負けた」
その灯室に、累と由乃はいる。
夜だった。累はいつも通り白衣を着て、乾いた海風にボサボサの髪をなびかせて、月を見上げていた。由乃は辛うじて魔法少女の姿を保っているという程度で、服はボロボロであり、片膝をついていた。
「式典の日、ディザイアの幹部が、かのに殺される前に行った演説を覚えているか? 『我々は、好むと好まざるとに関わらず、世界を守る監視者となる宿命なのです』」
エクスマキナと戦いの後、太平洋に落ちた由乃は、一人で伊衛門島へと向かった。
「誰もが、自分が監視者だと思っている。自分は正義を守るものだと思っている。我々が戦ったのは悪ではない。この国も悪ではない。しかし、厳然として、悪はそこにある」
灯台に累がいることに気づき、注意して話しかけたものの――電撃を受けた。
「金持ちの子と間違って、少女を誘拐した男が言った。『だって、金が必要だったんだ』。男に金さえあれば、その少女は殺され解体され、犬に食われることはなかったんだろう」
照明はなく、月明かりだけが二人を照らす。
累はタバコを咥え、指先で電撃を放ち、火をつける。
「この世界は悪ではない。しかし、飢え、病んでいる」
由乃は歯を食いしばり、タクトを握りしめた。
「ロシアがそうしたように、国が資源を求めて、国を襲う。そうだ、飢えたもの、追い込まれたものは、そうせざるを得ない、それが正義であると語る。彼らを倒したところで、それは対症療法に過ぎない。根本的な原因を、我々は解決できない」
灯台の壁面に伸びていたツタが、一斉に灯室へと滑り込む。由乃の魔法で強化され、操られるツタは四方八方から累の身体を縛り上げようと襲い掛かった。
しかし、累がタバコを咥えながら指を鳴らすと、電撃が周囲に走り、一瞬で植物を灰にする。
「『
灰と電撃と暗闇とで視界がふさがれる中、立ち上がった由乃は累へと拳を放った。
「もっとも、その時は結果として都市が一つ消滅したようだがね」
その拳を受け流し、累は由乃の腹に膝蹴りを打ち込む。
嗚咽を漏らしながら倒れ込み、由乃は累を見上げる。
「それをわかっていて、どうして!」
「我々はこれを参考に、妖精郷の次元と、この世界の次元そのものを融合させることを試みた。魔力は電力に変わる新たな資源となり得る。魔法は新しい技術となり得る。この飢え、病んだ世界には、それが必要なんだよ、由乃」
「決めるのは、累ちゃんじゃないはずです!」
由乃は唇を噛む。唇から血がにじみ、床に点々と跡をつけた。
「この計画に、魔法少女は邪魔だった。なゆたは強力だが、実に素直だった。かつての仲間が、自分を殺すなんて露とも疑っていなかったのだろう。なゆたは変身もしなかったよ」
「なんて、なんてことを!」
「世界にはそれが必要だった。三人の魔法少女は、そのために排除……」
月明かりが雲に隠れて、累が手に持つタバコだけが、明かりを灯していた。
房総の乾いた風が、灯室に吹き付ける。その風音が止むと同時に、声が響いた。
「四人でしょう?」
雲が流れ、月明かりが私を照らし出す。白いドレスに白いブーツ、腰まである銀色の髪は、冴え冴えとした月光を受けて青く輝いていた。
「かのちゃん!」
「遅くなったわ。ずいぶんと、深く落ちてしまったものだから」
乱入した私を、累は見つめ、タバコの煙を吐いた。
「四人とは?」
「あなたが邪魔だと思ったのは、四人。私と、由乃と、なゆた。そして、累」
「累は、私だ。自分自身のことをなぜ含める」
「累の一人称は『累』だったわ。……五年前までは。そんなに、言いたくなかったの?」
風が吹き、波音が響く。
「ねえ、ライカン」
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