第29話 勝ち筋

何故やつは俺を全力で仕留めようとした?

何故眼の前で甚振っていた鎧の男性とローブの女性を置いて俺達の方へ突撃してきた?

数が多い方を危険視して狙った?それなら今3人を相手に遊んでいる意味がわからない。

そもそも、やつにとっては頭数が居ようが驚異ではないはずだ。


「……!!」

驚異!そうだ、やつにとって俺の何かが脅威になるのかもしれない!そしてその何かを敏感に察知して急に俺を狙ってきた。この6人の中で俺に固有のもの……恐らく冷気だ!刀身と俺自身から発せられる冷気を感知した。そして冷気を苦手とするドラゴンは真っ先に俺を仕留めようとした。


「どうした?なにか思いついたか?」


「俺がやつに渾身の一撃を叩き込んで隙を作る。攻撃後すぐに転移できるように今からドラゴンのもとへ俺達3人で向かう。もし戦えるのなら攻撃の準備をする間時間を稼いでほしい!本気のドラゴンを止めてくれ!10秒でいいんだ!!」


「おいおいおい!いきなりどうした?」


うっかり結論だけ述べてしまった。さっきクリストフに結論だけ述べるなと思っていたはずなのだが、興奮状態の人間というのは客観視が難しくなるらしい。


「すまない。やつの行動を思い返していたが、恐らく冷気が効く。だから雪の妖精の俺が攻撃すれば有叩打を与え、転移の隙を作れるかもしれない」


「あー。あのドラゴン貴方を目の敵にしてたわねぇ。その原因が貴方の冷気にあって、だから冷気が効くと考えたのね。でもそれって仮定に仮定を重ねているわよねぇ?」


「……そうだ。だがこのまま戦っていても勝ち目はないだろう?」


「だから、お前は憶測に命を懸けろと言うのか?命を懸けたらそれを背負う覚悟があるんだな?」


「……ああ。失敗したときは俺が囮になる。スクロールを使って5人で脱出してくれ」

俺は2人の目をじっと見据えて言った。


しばしの沈黙が流れた。そして、鎧の男性とローブの女性は顔を見合わせた。


「メリゴ」


「ええ、ヴァスコ」


「俺達の命、お前に預けた」


「いいのか?」


「二言は無ぇよ。それと、お前は失敗したら、なんて言ったが……」


「失敗なんかさせないわ。ねぇ?」


「…………ありがとう!」


「礼を言うのはこっちの方だ。お前らは命懸けでオレ達を助けに来てくれた。ならこの命を預けるのに迷いはねぇよ」


「なら何でさっきのような質問をしたんだ?」


「それは……オレの心持ちの問題だ。やっぱり預けるに値する人間性なら気分良く戦えるだろ?」

鎧の男性、ヴァスコはそう言って苦笑いした。


迷いあるじゃん……


「それじゃあ2人ともよろしく頼むぜ。行くぞ!!」


「おう!」

「ええ!」

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