第27話 巨大なドラゴン

その後も時折現れる敵を倒しながら進む。一度狭い場所での戦闘を経験したためか、要領をつかんだようで苦戦せずに進むことが出来た。


しばらくすると、エコーたちがトラップ部屋に飛ばされたという行き止まりが現れた。エコーの話では、行き止まりで会話しているといきなり部屋に飛ばされたという。恐らく魔法による転移だろう。


トラップ部屋は未だ先遣隊も辿り着いていないような遺跡の深部にあるかもしれない。だがスクロールで脱出できることは確認済みだ。いつでも転移のスクロールを使えるようにしておこう。


突入前に敵の情報をエコーに確認する。エコーから語られた敵の詳細は驚くべきものだった。敵は高さ10m、幅10m、全長25mのドラゴンだという。まず質量だけでも脅威だ。一撃一撃が俺を前世で仕留めたトラックに匹敵すると考えてもいいだろう。ヘルベラの話では、個体差はもちろんあるがゴールドランク6人でやっと安定して倒せるとのことだ。明らかに今の俺達が敵う相手ではない。よって救助対象と合流して転移のスクロールで帰還することを目標にした。ルーナエの透明化を使う案も考えたが、仲間同士も視認できなくなること、匂いや音によって発見される可能性から今回は使わないことにした。


準備を万全にし、行き止まりへと向かう。しばらくして辺りがまばゆい光に包まれたかと思うと、体が浮き上がるような感覚が訪れた。羽で飛んだときとは違う奇妙な感覚。重力が低減ていげんされたようだ。やがて体に重さが戻り、地に足が着いたと思うと、広く荘厳そうごんな部屋に立っていた。助けを待つ2人を探し、辺りを見渡す。部屋の隅には金貨や宝石が無造作に置かれている。部屋の左端に全身を赤い鱗に覆われた巨大なドラゴンを見つけた。ドラゴンは剣と大盾を構えた鎧の男性と戦っている。男性の後ろは通路になっており、ローブに身を包んだ女性が通路に隠れるようにして男性を魔法で支援している。


……2人は無事だ!だが、戦況は極めて苦しそうで、瞬きをしたら男が倒れていても可笑しくはない。救助に向かわなければ。



ヘルベラが大千本槍の準備をし、皆で2人のもとへ駆け出そうとしたときだった。先程まで鎧の男性を攻撃していたドラゴンが俺たちの方に向き直る。




「気づかれたか!」


ドラゴンはおもむろに羽を広げると、勢いよく俺たちの方へと突撃してきた。先程まで戦っていた相手そっちのけでこちらをターゲットしてくるのか!




「避けるぞ!」


俺が号令を出すと同時に散開し避ける。次の瞬間ドラゴンの巨体が壁に激突した。辺りが轟音ごうおんと地響きに満たされる。壁には大きなクレーターが出来ていた。前言撤回だ。真龍の攻撃は大型トラックに轢かれるどころではない。ドラゴンは一瞬よろめいたが、すぐに耐性を立て直した。反作用で尋常ではない衝撃を受けているはずだが無傷である。ドラゴンは俺の方を向くと前足を振り下ろした。




「なっ……!!疾い!!」


巨大な体からは考えられない速さで振り下ろされる爪を避けきることが出来ず、かすっただけにも関わらず勢いよく壁に叩きつけられる。




「がっ……」




「銀花!!」


壁に背中が打ち付けられると同時に肺の中の空気が叩き出される。苦しくて息を吸い込もうとするが激痛が走る。龍の攻撃と壁に叩きつけられた衝撃で前後の肋骨が折れているようだ。直撃を免れたおかげか、あるいはインナーのおかげか爪による裂傷はない。まだ動けるはずだ。




すぐに仲間と合流しなければ。手を付き壁にめり込んだ状態からの脱出を試みる。するとそのまま地面に落下した。羽がひしゃげて上手く飛ぶことが出来なかったようだ。力学的に飛べる構造には見えないが、やはり飛行に必要らしい。地面に頭をぶつけた衝撃で意識が遠のく。




「みんな……ごめん……」


仲間たちは植物の壁を作ったり、敵の気を引いて俺を守ってくれている。にも拘らず俺は……このまま、何も出来ず終わるのか……?

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