第26話 スライム
そういえば少年についてまだ何も知らない。そこで、色々話を聞いてみた。名前はエコーというらしい。ピンと立った犬耳、短パンの下に見える少し筋肉質で健康的な脚部が特徴である。手には水仙をあしらったメガホンを持っており、これで殴ったりするらしい。が、本来は彼の能力、山彦の秘術の効果を増幅させるためのものらしい。
山彦の秘術というのは、『唱えた魔法をもう一度発動させる能力』である。山彦出来る魔法は本人の技量次第だという。妖精が持つ能力とは違い、一族に代々受け継がれているもので、素養のある人間が後天的に身につける事ができるらしい。このときヘルベラが話していたが、能力、魔法の他に呪術というのもあるらしいが、これらの違いについてはよく知らないそうだ。
ルーナエが言っていたことだが、魔法は頭に思い浮かべた術式に魔力を注ぎ込められれば、誰でも使えるらしい。ただ、魔力というのは火、水、風、土、光、闇の6属性に分かれているらしく、魔法に対応した属性の魔力がないと使えないという。エコーは6属性すべての魔力が無いため、自分で唱えた魔法を山彦して攻撃、という戦い方ができない。そのため、メガホンで叩くという攻撃が主になっている。ここまで話したところで車輪の転がる音と馬車の揺れが止まった。
「着きましたよ。日没までにギルドに戻らなければまた迎えに来ますんでね」
御者に促されて馬車を降りると目の前には石で組まれた巨大な遺跡があった。見た目の雰囲気はインドネシアのジャワ島にあるボロブドゥール遺跡に似ているが、目の前の遺跡はそれよりも遥かに巨大だった。話を聞く限りこんなに大きな建物が地下にも深く続いているというからさらに驚きである。入り口から中を見ると、先遣隊が灯したのか明かりがついており
灯を頼りに奥へと進んでいく。薄暗い空間にカツカツという石の床を歩く音が響いており少し不気味だ。エコーの話によればドラゴンの現れたトラップ部屋は地下3階にあるという。先遣隊の活躍によるものか地上フロアでは魔物に出くわすことは無かった。長い階段を下り地下1階へと進む。周囲を警戒しながら地下2階を進んでいたその時だった。 通路の先に魔物の影が見えた。
俺を先頭にして魔物に近づく。魔物が通路の分岐点に姿を現す。ジェル状の不定形の体が蠢いている。スライムだ。
仲間にサインを送り駆け出し、刀の柄に手をかけ、走りながら抜刀する。刀身を抜き終わりスライムが刀の間合いに入った時だった。いざ刀をスライムに振り下ろさんとしたもののそれが出来ないことに気が付いた。天井の高さは2mと少し、加えてここは幅の狭い通路である。そんな場所で身の丈ほどもある太刀を振り回すことなど、誰がどう考えても不可能だ。
八方ふさがりに思えた一瞬、俺の脇を抜けて影が飛び出した。槍を持ったヘルベラがスライムを串刺しにしていた。しかし流動的なスライムはするりとヘルベラの槍から抜け出す。すかさず ルーナエが射撃するが、スライムは体を変形させ
「銀花!刀を!」
ヘルベラに言われて眺めている場合でないことを思い出す。スライムに狙いをつけ刀を突きだした。スライムは先程と同様に抜け出そうとするが刀の冷気によって凍りつつあり上手く抜け出せないようだった。それを見た俺はダメ押しに能力を使い、刀身に冷気を纏わせスライムを凍らせた。そして刀に刺さったまま凍結したスライムを地面に叩きつけるとパリンと音を立てて砕け散った。
「銀花の能力のおかげで助かりましたわ」
「いや、ヘルベラのおかげだ。ありがとう」
実際ヘルベラに倣わなければスライムを倒すことは出来なかっただろう。
「スライムは物理攻撃では倒せないのかい?」
スライムは槍で刺されても平気な様子をしていた。物理攻撃で倒せるのだろうか。
「倒せますわよ。スライムの体は粘性のある体液中にたくさんの細胞が溶け込んでいるような状態ですわ。この体液は各細胞を包んでいて、溶かし込んだものを消化して細胞を栄養したり酸素を供給したりしています。血液のように体に穴が開くとそこから漏れ出して各部で物質交換が出来ずに死ぬという事もありませんわ。ですがそんなスライムでも、何度も攻撃されると細胞が壊れることで死に至りますの。でもそんな事をしなくとも、急激に凍らせると細胞内の水分が膨張するのでまとめて細胞が壊れて効率よく倒すことができますわね。」
「ヘルベラの前世って辞典だったりするか?」
「昨日も言いましたけど人間ですわよ!」
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