第25話 人助け

「白々しいぞ、どうせ知っていたんだろ?あれが闇スクロールだって」


そんな少年の様子は意に介していないといった具合に、男は冷たいまなざしで少年を責め立てる。




「君は何でスクロールを使用しようとしたんだ?」


1つ気になることがあったので少年に訊いてみる。




「それは……クリストフさんをモンスターの攻撃から助けようとして使いました」


クリストフというのは傭兵の男の事だろう。しかし、だとしたら疑問が出てくる。




「クリストフさん、もし彼が闇スクロールと知っていて使ったと仮定しましょう。闇スクロールというのは、実際に売られている通りの魔法が封じられているとは限らないため不確定要素が多い代物です。そんな使うと何が起こるか分からないものを、あなたを助ける切り札といった使い方で用いるのは不自然じゃないでしょうか。」




「そ、それは……。」




「現にそんな使い方をしたせいであなたの仲間2人が遺跡に置き去りにされるという問題が発生したわけでしょう?俺には意図的に闇スクロールを使用したとは思えませんが。」




「だ、だとしてもこいつのせいで俺の仲間が置き去りになっていることは変わりねぇだろうが。俺はこいつ一人でも遺跡に探しに行ってもらうつもりだからな。」


それはあまりに酷な話ではないだろうか。闇スクロールに手を出さざるを得ないことを考えると恐らく貧困傭兵であろう。身につけているプレートもブロンズである。にもかかわらず遺跡を1人で探索し、モンスターのもとから取り残されている2人を救助して戻ってこいというのはいくら何でも無理というものだ。




「それなら、ワタクシたちが彼と一緒に捜索に向かいますわ。」


色々と考えている間にヘルベラが捜索に名乗りを上げた。俺としても望むところだ。強敵に遭遇したとはいえ、もともとブロンズの貧困傭兵パーティーに対する依頼だ。いざとなればこちらには転移のスクロールもある。相手が何のモンスターであれ、救出作戦の成功率は高いだろう。ルーナエに目を合わせると無言で頷いた。合意が取れたと見ていいだろう。




「ワタクシたち雪月花は彼から遺跡に取り残された2名の救出に同行する依頼を受ける。報酬は後払いで。これに何か異論はありまして?」


ヘルベラはそう言って少年に視線を送った。




「……!!ありがとうございます!!」


少年は深々と頭を下げお礼を言った。




「依頼成立ですわね!」




「ではギルドの方でも依頼として処理しておきますね。」


受付嬢はプレートを改めると書類を作成し始めた。




「よろしくお願い致しますわ。では行きますわよ。」


ヘルベラは少年の手を取るとギルドの戸を開け出ていった。




「私たちも行こうか。」


ルーナエの言葉に頷き俺達もギルドを後にする。出る直前に見たクリストフの顔は先ほどの興奮した様子とは打って変わって茫然ぼうぜんとしていた。



ギルドが手配してくれた馬車に揺られ、件の遺跡へと少年から話を聞きながら向かう。遺跡は街を少し離れたところに数か月前と突然出現したという。遺跡は巨大であるにもかかわらず、出現した瞬間を目撃した者は誰一人としていない。皆一様みないちように気が付いたらあったと口を揃えて答えたらしい。どこかで聞いたような話だと思えば、自分がこの世界に転生してきたときと似ている。その遺跡も本来は別の世界に存在していたのかもしれない。



話が少しそれてしまった。少年たちのパーティーが辿った経緯についての話を整理しよう。少年たちは遺跡の表層の調査依頼を受けていた。前述の通り遺跡が出現したのは数か月昔の事であり、表層は先遣隊せんけんたいなどの活躍によってあらかた調査が進んでいて危険度が低いことが判明していた。少年たちのパーティーは遺跡のどこに何があるかを大まかに把握するための見取り図を作成する依頼を受けていたらしい。そのため遺跡内を注意深く観察しながら進んでいたところ、偶然にも隠し部屋を発見する。そこは宝物庫……に見せかけたトラップ部屋であり、ドラゴンが召喚されてしまった。驚いたクリストフは真っ先に逃げ出そうとするがドラゴンはクリストフの方に向き直り攻撃態勢をとった。そこに慌てて少年がドラゴンとクリストフの間に割って入った。これによって間にドラゴンを挟んで2人ずつに分断される形となる。あとは少年がスクロールを使用したところ帰還の魔法が発動し、クリストフと少年の2人がギルドに送還されたというわけだ。

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