邪龍討伐編

第24話 波乱の予感

帰宅後、俺達は荷物を下ろし蔵に向かった。蔵を物色しそれぞれ武器を選ぶ。俺は剣術の心得があったため、目を引かれた大太刀にした。大太刀は冷気を纏っており、鞘から抜くと刀身には霜が降りて文字通り白刃となる。ヘルベラに渡してみたところ、柄の部分でさえ冷たくて持てないらしい。あまりに長いため帯びる事は出来ないので背負っているが、打刀のように抜刀は出来ない。懸念点だった重さだが、妖精の筋力が解決してくれた。


ルーナエは大口径の拳銃を選んだ。両手で二丁持ちするらしい。大太刀を選んだ俺が言うのも何だが、二丁拳銃とは如何にもファンタジーだ。ヘルベラ曰く、魔銃という武器らしい。基本的には実弾ではなく魔力でできた光弾を打ち出すらしく、リロード不要で撃てるらしい。そう考えると二丁持ちも合理的だ。


防具に関してヘルベラにどうしているのか聞いてみた。俺達を助けに来てくれたときはセーラー服姿で防具らしい防具を身に着けていなかったので気になっていたからだ。すると、服の内側に防刃インナーを着ていると教えてくれた。防刃、防火、防魔法機能付きのアラミド繊維の上位互換のような素材でできているらしい。ただ、並の矢弾や魔法は通さないらしいが、衝撃は普通に通すらしいので鈍器で殴られたら意味を成さないという。妖精の強みである機動力を殺さないので俺とルーナエもこれにした。


夕食は3人で鍋を囲みながら互いを鼓舞し、就寝した。そして翌朝……


「よし、じゃあ行くか!」

靴紐をしっかりと締め、ギルドに向かって歩き出す。武器に防具に回復薬、そして転移のスクロール。準備に抜かりはない。初陣前の最終確認をしながら歩いていると、あっという間にギルドが見えてきた。ギルドの窓からは煌々とした光やガヤガヤとした騒ぐ声が漏れ出しており活気を感じる。いや、この音は活気ではない。昨日ギルドに立ち寄ったときはこんなギルドの外にまで響く騒音は聞こえなかったはずだ。それに声の内容も耳を澄ませば怒声であることが分かる。どうやら朝っぱらからただ事ではないらしい。


面倒事の予感がするが意を決してギルドの扉を開ける。


ギルドの中央では獣人の少年を、いかにも傭兵といった容貌の獣人の男性が大声でとがめている。それをギルドのスタッフが止めに入っている様子だ。ギルド内に散見される傭兵たちは中央の男に目を合わせないようにしながら、ひそひそと小声で話している。彼らはドアを開けて入ってきた俺たちの方を一度見るとまた話を再開した。トラブルには我関われかんせずといった感じだ。


傭兵の男はドアが開いたのに気づかずしばらく怒鳴り続けていたが、スタッフと少年が俺たちの方を向いたためついに気づいたらしい。事件の渦中かちゅうにいる人達の視線が集まると流石に無視するわけにもいかない。それに今にも泣きだしそうな様子の少年を見捨てるのも心苦しい。まずは話を聞き助けになれるなら助けになろう。自分だって一昨日助けられて今の生活があるのだから。


「おはようございます、何があったんですか?」


とりあえずは事情聴取からだ。事態と経緯が分からなければどうしようもない。




「何がったって、なあ、姉ちゃんよぉ!聞いてくれよ!」


問いかけに答えたのは傭兵の男だった。男は興奮冷めやらないといった様子で、依然として大声のままでこちらに喋っている。耳が痛い。物理的に。




「こいつがなぁ!遺跡に俺たちの仲間を置き去りにしたんだよ!」


どういうことか話が見えてこない。結論だけ言われても困る。経緯を端折はしょって現状だけ告げてくるという事は、話の内容から察するに置き去りにされた仲間が危うい状況にあり急いで助けに行きたいが、それが出来ないので焦っているという事だろうか。




「まずは落ち着いて、事の経緯いきさつを説明していただけますか?」


ヘルベラが男にもう一度状況を確認する。




「これが落ち着いていられるかっての!いいか、時間がないから一度しか言わないぞ。俺たちは遺跡調査の依頼を受けていた。探索は俺達フェルディ会のパーティー3人にそいつを加えた4人で行っていた。で、遺跡探査中にモンスターに襲われたときに分断されたんだが、こいつが戦闘中に帰還のスクロールを使ったせいで俺達2人だけがこうしてギルドに戻ってきちまったってわけだ。」




「なぜ、帰還のスクロールを使用したのか教えてくれるかい?」


ルーナエが少年に問いかけた。




「帰還のスクロールを使うつもりじゃなかったんです。本当は炎の魔法のスクロールを唱えたつもりだったんです……」


少年は弱弱しい声で答えた。随分気分が落ち込んでいるようだ。




「とするとそのスクロールはいわゆる闇スクロールか。悪徳業者が取り扱っている偽物の炎のスクロールだったというわけだね」




「そんな……」


少年は驚いた様子で頭を抱えている。

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