第21話 雪月花

「仲がよろしいのですね。パーティーも3人で組まれるのですか?」


受付嬢の言葉でヘルベラが思い出したという顔をする。




「そうでした、パーティー登録もしなければいけませんわね。」




「パーティー登録?そんなのが必要なのかい?」


ルーナエが首を傾げる。そんなものが必要という話は俺も初耳だ。




「ええ、普通依頼は複数人でこなすものですから個人宛に依頼が来ることはあまり一般的ではありませんが、パーティー登録をしておくと実績のあるパーティーには指名で依頼が来ますのよ。」


合理的なシステムだ。




「なるほどな。それで、どうすればいいんですか?」


受付嬢に尋ねながら昨日家でした三人での会話を思い出す。ヘルベラが語っていた俺達を傭兵仲間にするメリットも満更まんざら嘘でもないらしい。




「この紙に血入りのインクでパーティー名と皆様のサインを頂ければ登録完了となります。」


渡された紙にルーナエ、俺、ヘルベラと順々に紙にサインをする。


……さっきはナイフで指先を切った痛みに気を取られていたが、気づけばまた知らない文字で書いていた。




「パーティー名ってどうするよ?」




「全然考えていませんでしたわ。そうですわね……ワタクシたちの共通点を入れたいですわね。そうすればパーティー名を見たときに一目でワタクシたちのパーティーと分かるでしょうし。」




「共通点か。妖精であることくらいかな?」


確かに俺たちは出会って1日ちょっとしか経っていない。互いについてまだまだ知らないことが沢山ある状態だ。そんな中で分かっている共通点と言えば転生者であることと妖精であることくらいであろう。




「妖精……妖精……ねぇ……。……あ。」


暫く考え込んでいるとアイデアが頭に浮かんだ。




「何か思いついたかい?」


ルーナエが期待の眼差しをこちらに向けている。




「うん、まあ。」


そう期待されるとなんだか言い出しづらい。




「思いつきましたのね!」


ヘルベラが追い打ちをかけてきた。とは言え黙っているわけにもいかない。これ以上ハードルを上げられる前にサクッと答えてしまおう。




「『雪月花せつげつか』、というのはどうだ?俺が雪の精でルーナエが月の精、ヘルベラが花の精だから俺たちを象徴する名前だと思うんだが。」




「いいね。シンプルで分かりやすくてすごく気に入ったよ。」




「ワタクシもいいと思いますわ。語呂が良くて気に入りましてよ。」


ヘルベラはそう言って書類に雪月花と記入する。




「ではそれで受理いたしますね。」


一瞬で名前が決まってしまった。




「よろしくお願い致しますわね。」




「傭兵パーティー『雪月花』の誕生だね。」




「こんなあっさり決まってしまっていいのだろうか。」


まあいいか。何か問題が出たらその時にまた変更すればいいだろう。




「すみませーん。一つ聞きそびれていました!」


書類を持って奥に戻ろうとした受付嬢が戻ってくる。




「パーティーの代表者様ってヘルベラさんで良かったですか?」


3人で顔を見合わせる。しばらくの沈黙の後に2人が口を開いた。




「銀花だね。」


「銀花ですわね。」


予想外の発言内容に動揺を隠せない。




「ちょっと待て、俺はてっきりヘルベラかと思ったぞ。今のところチームを引っ張っているのはヘルベラだ。」




「あら?昨日自分で言っていたではありませんの?ワタクシの性格が危なっかしいと。」




「確かにそれはそうだが……。」




「それなら最終決定を下すリーダーはワタクシ以外であるべきではありませんこと?」


なるほど、チームを制御するブレーキになれということか。




「その理屈ならルーナエはどうなんだ?俺より頭の回転も早い。」


昨日の作戦立案だってルーナエによるものだ。




「君自身が気づいていないかもしれないが、君は物事の疑問点を見つけるのが上手だ。加えて私の感覚は一般的なものと比べてズレている。もし私の作戦に問題点があったときに見つけられるのはきっと君だろう。だから私は最終的な決断を君に任せたい。」




「2人ともえらく俺を買ってくれているようだが過大評価じゃないか?」




「全然。」


「妥当な評価ですわ。」


信頼が重い。まだ出会って2日だぞ?人懐っこすぎて2人が心配になる。




「分かった。任された。俺が雪月花のリーダーだ。」


2人が危ない目に合わないように可能な限りサポートをしよう。


……俺も大概2人に好意的すぎる。

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