第19話 デート?

広場には立派な噴水が立っていて、その周辺には昨夜とは違ってベンチに座って憩う人の姿が観察できる。




「ここは2人がこの街で初めて訪れた場所ですわね。」




「ああ、まるで昨日のことのように思い出せるね。」




「事実昨日のことだからな。」


ルーナエなりのジョークだろうか。いつもと同じテンションで何食わぬ顔をして言うのでつっこんでいいものか一瞬戸惑う。




「あそこにクレープを売っているお店がありますわよ。」




「ちょっと休憩するか。甘いもの食べたいし。」




「そうしようか。」


俺たちは各々クレープを買ってベンチに座る。二人掛けのベンチに3人で座ると少し狭く感じる。体は3人とも小さいため何とかなるが羽が邪魔だ。俺は真ん中に座っているが、体に沿って羽をたたんでも時折2人と羽同士が触れ合う状態だ。2人と羽が当たるとちらっと視線を向けてくるので気になる。別に嫌な思いをしている様ではないが何か話でもして気を逸らそうか。




「2人は何のクレープを買ったんだ?」




「ワタクシはフルーツミックスですわ。」




「私は苺だよ。」




「2人とも定番で美味しそうだな。」




「そういう銀花は何にしましたの?」




「俺か?照り焼きチキンマヨにしたぞ。」




「おかずクレープですわね。さっき甘いもの食べたいって言っていたのは何でしたの?」


そういえばそんなことを言っていたような気がする。




「いや、まあ甘いやつを頼むつもりだったんだけど直前に目に入ったおかずクレープにいきなり興味が湧いてな。つい注文しちゃった。」


どうやら俺の中の無意識が勝ったようだ。




「銀花、一口交換しないかい?」


ルーナエが提案を持ちかけてきた。なんやかんや甘いやつも食べたかったので交渉に応じる。




「いいぞ。はい、あーん。」


生前やり残したことの一つでもあるので何となくやってみたかった。いちゃつくような女の子もいなかったしいい機会だろう。ルーナエは性別不詳だけど。




「甘いクレープ生地に具が合うか気になっていたけど杞憂だったみたいだ。美味しいよ。」


ルーナエは『あーん』に関しては特に気にせず満足そうにクレープを味わっていた。




「それじゃあ、はい、あーん。」


ルーナエがクレープを差し出して言う。そういや交換って話だったな。差し出されたクレープにかじりつく。自分がやってみると途端に恥ずかしくなる。クレープは普通においしい。




「ワタクシとも交換いたしませんか?」




「いいぞ。はい。」


そういってクレープをヘルベラに手渡す。




「えっ。」




「食べないのか?」




「いや、食べますけど。ワタクシとはしないのですか?その、『あーん』は。」




「いや、やってみたら思いのほか恥ずかしかったし…しなくていいかなって…。」




「私とはしたのに?」




「……ワタクシとはしない?」


2人して詰問してくる。そう言われるとNOとは言えない。




「やります。やらせてください。」


恩赦を下さいとばかりに態度で示す。




「ふふ、ごめんなさい、ちょっとからかっただけですわ。」


ヘルベラは微笑みを浮かべて言った。




「でもまぁ、ワタクシともしてくれたらうれしいかな……なんて。」


ヘルベラは恥ずかしそうに目を伏せながら言った。




「……はい。」


ヘルベラにクレープを差し出し食べさせる。ヘルベラもちょっと恥ずかしそうにしている。人目があることを思い出して我に返ってしまったようだ。その後は2人とも無言でクレープを食べ切った。結果を整理するとルーナエの一人勝ちだった気がする。

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