第18話 性別不詳
ギルドを目指して大通りを歩く。ヘルベラによればギルドは昨日この街に来て初めに目にした広場の先らしい。行きつくまではそれなりに時間がかかりそうだ。退屈しのぎになる話題がないか考えているとアイリスから受け取ったスクロールに関する疑問が思い当たった。
「そういやこれって転移のスクロールなんだよな?確かこれって作れる人が少ない貴重な品じゃなかったか?アイリスさんは魔導士なのか?」
ヘルベラの話では昨日のスクロールは宮廷の魔術師に作ってもらったものだったはずだ。品質に差があるのかもしれないが一般人がそう易々と作れるものでもないだろう。
「確か騎士だったとおっしゃっていたはずですわ。ワタクシの使っている槍もアイリスさんのおさがりですわよ。」
「上級魔法を使える人は非常に少ないのだろう?騎士でありながらそれほどまでに魔法に精通しているとは一体何者なのだろうね?」
騎士という事はどこかで主君に仕えていた戦士だったという事だろうか。それも魔法を専門とする職業でもないのに上位魔法の教育を受けられる立場だったということになるから並みの騎士ではないだろう。ルーナエの言う通りただものでは無さそうだ。ヘルベラに騎士だったことを教えているのを鑑みても過去を隠しているわけではなさそうだし機会があれば聞いてみようか。
「そういえば2人は何で戦うつもりなのです?魔法ですか?それとも何か武器を使いますの?」
「俺は刀を使おうと思ってる。そもそも魔法なんて使えないし。」
現状未成熟な妖精の能力だけでは戦うには心許ない。せめて剣術の心得が活かせる刀が欲しいところだ。
「刀ですか。それなら蔵にあるかもしれませんね。ルーナエはどうですの?」
「そうだね。遠距離武器が欲しいな。弓なんかはいいかもしれないね。」
昨日光の矢の魔法を使っていたのを見ると弓矢が得意なのかもしれない。
「前世でも弓を使っていたのか?」
「いや、実戦で使ったのは昨日の魔法が初めてだね。妖精について調べているときに知って興味を持ったんだよ。」
あんな遠距離射撃をしておいて初めてだったのか!?
「初めての精度じゃありませんでしたわよ!?」
ヘルベラも驚いている。ごもっともな反応だろう。
「弓と矢の形があってこそのものだよ。前の体では直接光弾を撃っていたけどこんなに精度良くは当たらなかったからね。」
話を聞く限りルーナエの前の世界には弓矢がなかったらしい。俺がいた世界には古今東西普遍的に存在したのにも関わらずだ。異世界であるこの世界にも存在する。なのに存在しなかったというのは、今の体のような二足歩行の人型生物ではなかったということになる。
「この体の構造はルーナエの生前の体のものとは違うのか?」
「ああ、私の元々の体は今この世界で人と呼ばれるものとは形状が異なるものだった。」
俺たちが異形とよぶものだろうか。人型ではない何かが文明を築いて生活していたというのは興味深い。
「ルーナエの体について気になることがもう一つあるのですがルーナエって男性ですの?それとも女性ですの?」
俺もずっと気になっていた。一日一緒に居ても正直男性か女性か判別ができない。
「それなんだが私には分からなくてね。」
「分からない?」
「ああ、私の元々男女という区別のない生物だったからね。」
両性具有だろうか、それとも無性生殖をする生物だったのだろうか。そんなことを考えているとルーナエが何か閃いたようだ。
「そうだ、ここで君たちに私の体を見てもらえばいいのではないだろうか?」
そう口にしながら名案だと言わんばかりにルーナエは服のボタンを外し始めた。
「ちょっ、いいわけありませんわよ!?」
慌ててヘルベラが止めに入る。運のいいことにあたりに人は見当たらない。
「何故だい?今周りには人も居ないしさして問題にもならないだろう?」
不思議に思った様子で首をかしげる。知的でまともそうに見えるのに感覚が時折ずれているから困る。
「そういう問題じゃねぇからな!?とにかくこの話は終わり!!ほら、昨日の広場が見えてきたぞ。」
強引に話を打ち切り不服そうな表情を浮かべるルーナエの服のボタンを閉める。幸いにもこの人のいない路地を抜ければ広場につくので話題をすり替えることができた。
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