第17話 お守り

「は~いお待たせ♡」


3人の前にピザトーストとコーヒーが運ばれてくる。いただきます、と言ってトーストを一口かじるとサクッとパンがいい音を立てた。それと同時にチーズやベーコンの塩味やうまみ、玉ねぎとピーマンのさわやかな香り、トマトの酸味が口に広がる。特別ひねりが加えられているわけではないが非常においしい。




「とても美味しいです。」




「お口に合ったようで良かったわ~!」


アイリスに実直じっちょくに感想を伝えたところ喜んでくれたようだ。




「あ、そうだ。銀花ちゃん、ルーナエちゃん。」




「どうしました?アイリスさん。」


ルーナエがアイリスに視線を向ける。




「2人ともヘルベラちゃんと同じで傭兵になるのよね?」




「ええ、私も銀花もヘルベラと一緒に傭兵で生計せいけいを立てると決めましたので。」




「ギルドの登録はもう済ませているの?」




「これから行くところですわ。何分昨日決めたことですので。」


そういえば家を出るときにギルドに行くってヘルベラが言っていたような気がする。




「そういえば昨日この街に来たんだったわね。それじゃあ装備も何も無いわよね?」




「そうですわね。今日買いに行こうと思っていたところですわ。」




「それなら丁度良かったわ~。」


アイリスは腰に下げていた鍵のうちの一本を外して差し出した。




「これは?」




「あなた達の家の裏にある蔵のカギよ~。中から一式適当に見繕うといいわ。」




「何から何までいいんですか?」


流石に申し訳ない気がしてくる。




「いいのよ。あいつは集めることが趣味だから集めた物自体にはあんまり興味が無いのよ。道具だって使ってやったほうが喜ぶわ。」


あいつ、というのは例のあの家を建てた妖精のことだろうか。その人に無断であれこれ好き勝手するのは気が引けるが、とはいえ文無しなのでここはお言葉に甘えさせてもらおう。




「ありがとうございます。ではカギお借りします。」


そう言ってカギをアイリスから受け取ると入り口の方からベルが鳴る音がした。


どうやらお客さんが来たようだ。




「それじゃあ俺達お暇しますんで、ご馳走様でした!」


そう言ってコーヒー代を置いて帰ろうとするとアイリスに呼び止められる。




「あ、ちょっとだけ待って欲しいわ。」


アイリスはそう言うと羊皮紙を取り出しペンで何かを書き綴って渡してきた。




「これは一体?」


渡された羊皮紙には馴染みのない文字で『転移』と書かれているようだ。


……なんだその奇妙な感想は。




「転移のスクロールよ。お守りと思って初陣に持ってお行きなさいな。何事も無くてもスクロールの期限は3日だから帰りの足にでも使うといいわ。荷物が多い場合でも運べるわよ。」




「貴重なものをありがとうございます。それでは失礼します。」




「また来てね~♡」


俺たちは笑顔で見送るアイリスに一瞥し、大通りを歩きギルドへ向かった。

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