第16話 顔と人がいいマスター
「おはようございます、マスター!」
カランコロンと鳴るベルの付いた店の戸を開けヘルベラが挨拶をする。それに続いて俺とルーナエも挨拶をした。マスターと呼ばれた男はそれに気づいて返事をする。男の容姿は黒髪、赤目、褐色肌で男の俺でも息をのむほどの美形である。甘いマスクという言葉がピッタリだろう。年齢は20代後半だろうか。耳や尻尾が見当たらないことから獣人ではなさそうだ。妖精の身長が低いこともあってとても背が高いようにみえる。また、自然で引き締まった体型をしており、服の上からでも細身でありながら筋肉質であることが分かる。喫茶店のマスターというよりはまるでアスリートのようだ。店の中には開店時間の7時より少し早いこともあってこの男が一人いるだけだ。
「あ~ら!ヘルちゃんじゃないの~!!お友達もおはよう!今日はどうしたのかしら?」
容姿から予想していたのとは違った甘く高い声に驚く。
「今日はお話があって……」
ヘルベラが事情を説明する。
「なるほど、そっちのお友達と一緒に生活することになったのね~。このお店のマスターをやっているアイリスよ。2人ともよろしくね。」
「俺は銀花です。よろしくお願いします。」
「ルーナエです。よろしくお願いします。」
「銀花ちゃんにルーナエちゃんね、あの家に3人で住んでいるのよね?狭くない?」
「ちょっと狭いですが快適に暮らしていますよ。」
実際異世界とは思えないくらい快適だ。
「本当にあの家をタダでお借りしていてもいいのですの?」
ヘルベラが心苦しそうに問いかける。というかあの家タダで借りてたのか!?
「も~、いつも言っているけどタダじゃないわよ~?ちゃんと代価として家の維持をしてもらっているじゃない。アタシも住みもしない家を掃除に行くのが面倒くさかったし丁度良かったのよ。」
ヘルベラの心情を察しての発言だろうか。アイリスはこちらが気にしないでいいように気を遣ってくれているようだ。
「住みもしない家というのは?家を建てた妖精の方に管理を委託されていたという事ですか?」
ルーナエが疑問を投げかける。あの家の主が妖精であるという話は俺が風呂に入っている間にヘルベラから聞いたのだろうか。
「ご明察の通りよ~。アタシの友人の妖精がしばらく家空けるからって無理やり押し付けていった家なのよ~。中のものは好きにしていいから適当に管理しといて、てね。で、丁度ヘルちゃんが住むって言ったから貸しているわけなの。」
「さっき王都に不法入国した話はしましたわよね?その後は昨日話した通り行き倒れて、そこをマスターに拾ってもらったのですわ。ワタクシにとって返しきれないほどの恩義があるかたですの。」
「やぁだ、恩人だなんて水臭いわ~!同じオカマのよしみじゃないの~!」
「ワタクシはオカマではないのですけれど……。」
ヘルベラは戸惑いながら微笑んでいる。
「えっ、そうなの?でも構わないわ。ゆっくりしていって頂戴ね!」
「それじゃあコーヒーを3杯、豆はお任せでいただけますかしら?」
ヘルベラがコーヒーを注文する。
「は~い。朝食はもうとったかしら?」
「いえ、まだですが…。」
俺は答える。
「ちょっと待って頂戴ね~。」
「ええと、何を?」
「ピザトーストを作ろうかと思ってね。今後のご愛顧に期待を込めてのサービスよ。」
「よろしいのですか?」
ルーナエが困惑気味に答える。初対面であるにも関わらず非常に手厚いもてなしだ。ヘルベラを助けた話も踏まえて考えると物凄く人がいい。
「もちろんよ~。あ、もしかして今日急ぎだった?それともピザトーストはお好みじゃない?」
「いえ、有難くごちそうになります。」
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