第15話 街へ行こうよ

街にくり出すべく身支度をする。昨日着ていた浴衣は乾燥中なので代わりに着る服を探さなければならない。まぁ乾燥しても血痕を消さないと着られないが。ヘルベラには適当に着られそうな服を収納から見繕みつくろえと言われているので収納を漁る。収納には多様な女性ものの服が入っているが、ヘルベラのものではないだろうからここに住んでいた妖精のものだろうか。というかなんでこんなに服があるのに洗濯機がないんだ?




「ここにある女性ものの服って着てもいいのか?」




「構いませんわよ。管理人さんから家のものは好きに使ってくれていいと許可を貰っていますわ。」




「分かった。じゃあ有難く借りさせてもらうわ。」


服の利用許諾を確認したところで服探しを再開する。素材感、着丈、袖丈、身幅、柄、シルエット、カラーなどが異なる様々な服が収納されており、改めてその多様さに驚かされる。というか収納自体が部屋のサイズに似合わずとても広い。収納からもう一部屋続いているような感じだ。服以外にも様々なものが集められているため元の住人の収集癖が窺い知れる。とりあえず適当にニット、スラックス、コートを着る。配色は白と青に纏めた。髪色とも合うだろう。かなり爽やかなコーディネートになった。




支度したくを済ませて2人と合流する。




「それで、まず何処へ行くのかな?」




「最初に行くのは先ほど話していたコーヒーショップのマスターのところですわ。」




「例の管理人さんのとこか。」




「ええ、その後に行くギルドとの間に位置するのでまずはこちらに行きますわよ。」




ヘルベラの後ろをついて歩く。飛んでもいいのだが、道を覚える意味でもゆっくりと街並みを眺めたい。昨夜と同じ住宅街でも日が昇ってから見ると印象が違って見える。きっとこれからこの街で暮らすうちに様々な街の顔を目にするのだろう。




「朝の町も夜とは違った感じでまた別の良さがあるね。」


ルーナエも同じことを考えていたらしい。




「そうだな、街の違った趣を堪能しながら歩くのもいいもんだな。」




「ワタクシはちょっと見飽きてきたので退屈しのぎにお話でもしませんか?」




「見飽きた、ねぇ……そういやヘルベラはいつからこの世界に住んでるんだ?」




「ワタクシもあなた方とそう違いはありませんわ。2週間前くらいからですわね。」




「結構最近なんだね?転生直後から今まではどんな感じで過ごしていたんだい?」




「火葬場で焼け死んだと思ったら次の瞬間この街の近くの草原で立っていましたわ。とりあえず目の前に見える街を目指して向かっていく途中で飛べることに気が付いたので警備の薄い夜中に飛んで外壁を超えて侵入しましたの。」


途中で飛べることに気付いたのは俺と同じだ。ルーナエも普通に飛んでいたし妖精は前世の姿がどんなであれきっかけがあれば簡単に飛べるものなのかもしれない。




「ちょっと待って、火葬場で焼け死んだだって?」


ルーナエが珍しく驚嘆する。確かになかなかとんでもない発言だ。火葬場で焼け死んだという記憶があるという事は生きたまま焼かれたのだろうか。




「ええ、ワタクシ大きな会社の令嬢でしたの。でもある時会社が倒産して一家で心中いたしましたわ。ワタクシは反対したのですけれどね。」


とんでもない身の上話が続く。どうやら波乱万丈の人生を歩んできたらしい。




「それで死んだはずだったのですがどういうわけか火葬炉の中で棺桶に入った状態で目を覚ましてしまいましたの。」


想像すると思わず身がすくむ。




「火葬炉の扉を叩いてみましたが一酸化炭素中毒か何かですぐに力尽きてしまいましたわ。」


恐ろしい話をしているはずなのだが何故か当人は意外にも平気そうである。




「自分の身に起きていたらと思うと物凄く怖い話だな……。ヘルベラは何でそんなに平気そうなんだ?」




「んー……、平気というわけではありませんが……。本当に辛かったのは心中する前の父母を見ることでしたから。それに比べれば何てことありませんわ。」


ヘルベラの精神は地獄のような体験で強靭に鍛え上げられているようだ。それともこういうのは痛みに麻痺しているというのだろうか。




「なるほどね。という事はヘルベラって何の精なんだい?私はてっきり炎の精だと思っていたのだけれど思い入れはないのだろう?」


確かに何の妖精なのだろうか。俺も見た目的に炎の精かと思っていたが、よく考えればそれなら氷で拘束した時に溶かされて拘束を解かれていただろう。




「ワタクシですか?ワタクシは花の精ですわ。といっても操れるのはガーベラと他のキク科の植物が少しですけれどね。キク科でない植物でも操れるものが時折ありますわね。」




「ガーベラ?なんでガーベラなんだ?」


操れる植物にガーベラだけは名指しで挙げていることが気になったので聞いてみる。




「生前ワタクシが庭で育てていた花だからでしょうね。副葬品にも使われていましたし思い入れのある品としてみなされたのだと思いますわ。」


確かに思い入れがあって死の直前に意識していたものという条件を満たしている。




「それなら納得だな。花の精の能力も今度見せて欲しいな。」


ガーベラ以外の植物は操れたり操れなかったりするようだが、一体どういった法則性があって決まっているのか気になるところだ。実際に見せてもらえば何かわかるかもしれない。




「ふふ、よろこんでお見せいたしますわ。あっ、着きましたわよ。」


ヘルベラが大通りから見える路地にある店の看板を指さす。話し込んでいるうちに住宅街を抜けて大通りに出ていたようだ。朝方の大通りは人通りも多く活気に満ちている。ここに住む住人は早起きの人が多いようだ。辺りの人だかりを見ると、ミュージシャンが路上ライブを行っている。楽しげな雰囲気が街を包んでいるのが感じられた。

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