第9話 大勝利!
「では2人にはこのまま少々お待ちいただきますわ。拉致された方々を傭兵が連れて戻ってくるまでの辛抱ですわよ。」
「わかった、ところでヘルベラ、この後はどうやってその王都に戻るんだ?この数の馬車じゃ解放した人々を全員乗せることはできても重くて長距離は走れないと思うんだが。」
俺達が積まれていた馬車は5台、対して傭兵たちの馬車は3台だった。奴隷商が乗っていた馬車の分や俺たちがいた馬車の分は差し引いても過剰な人数だろう。解放された人々と傭兵がぎちぎちに乗り込めば乗れないことはないがそのまま走り続けるのは厳しいと考えられる。
「転移のスクロールを使いますわ。」
「スクロール?ルーナエは知ってるか?」
「確か奴隷商の奴らが魔法を封じ込めた巻物だと言っていた気がするね。」
そう言えば回復魔法のスクロールがどうだとか言っていた気がする。
「その通りですわ。スクロールは術者の魔法を封じ込めたもの。これがあれば一回きりですが封じ込められた魔法を誰でも使うことができますわ。転移のスクロールを使えば任意の場所に誰でも移動できますのよ。」
「へぇ、そんな便利なものがあるのか。でも何で奴隷商の奴らはそれを使って運搬してないんだ?」
途中で逃げ出されたり事故に遭ったりといったリスクもあって、手間もかかる馬車での運搬という方法をわざわざとる理由が気になって質問してしまう。
「転移などの上位魔法のスクロールはかなり貴重なものなのです。そもそも上位魔法を使える人は限られていますから入手は困難ですし、出来ても高くつきますわ。それにスクロールを作成すると、スクロールが消費されるまでの間そこに封じた魔法が使えなくなるので強力な魔法を売ろうという人は少ないですのよ。」
なるほど、スクロールも万能というわけではないのか。それならば転移の魔法を使える人が直接奴隷を運ぶのは儲けが良さそうだとおもったが、そもそも転移の魔法が使えるならもっと稼ぎのよい仕事がありそうな気がする。
「それじゃあ今回使う転移のスクロールはどうやって入手したんだい?」
ルーナエが質問を投げかける。
「今回のスクロールは宮廷魔術師の方に作ってもらった品ですわ。この依頼も王国からギルドに依頼されたものですから積極的にご協力いただけたのです。とは言え馬車3台を同時に運べる品質のスクロールを2枚用意するのは難儀したようですが。」
王国か…話を聞く限りでは帝国よりかなり人道的に思える。
同じ妖精のヘルベラも暮らせているようだし、物は試しと思って住んでみたいところだ。もっとも、市民権が得られるかどうかは分からないが。
ヘルベラと話しているうちに周りには随分と人が増えていた。あと少しで出発できそうな雰囲気である。
「あいつらが戻ってきたら出発するぞ。そろそろ乗り込んで準備を始めてくれ。」
傭兵の一人が声をかけていた。遠くを見るとこちらに向かってくる人影が見える。
……ってなんか多い気がするな。
「思ったより追ってきた人数が多いな、
「危ない!!」
突如大声で交戦中の傭兵が叫んだ。 声の方を見ると
またしても素晴らしき新生活の危機である。だが、そう
腹部を射抜かれたときのように背中を向けて逃げはしない。妖精の動体視力と、火球自体が光源であるお陰でしっかりと見えている。ならば!
「
冷気を手に集める。床を凍らせたときとは反対に、凝縮するように力を込めた。
そして俺は勢いよく地面を蹴り、火球めがけて飛翔しダンクシュートのように冷気を叩きつけた。すると一瞬にして上空で花火のように火球が爆ぜた。
隣を見るとルーナエが光の矢を放っていた。火球の軌道から発射位置を特定したのだろう。ルーナエが射抜いた男の手にはスクロールが握られていた。暗夜であるにも関わらず正確な射撃だ。そして相変わらず判断が速い。
「すごい身体能力ですわね!」
少し遅れて隣に来たヘルベラが驚いている。彼女も能力で戦えたりするのだろうか。というかそもそも何の妖精なのだろう。
「それが発揮できる環境があってこそだけどね。」
ルーナエが答える。この口ぶりからして拉致されたときは背後から奇襲でもされたのだろうか。
そうこうしているうちに最後の傭兵が戻ってきたので急いで馬車に駆け込む。
すし詰めになりながらなんとか乗り込むと辺りが光に包まれる。しばらくして光が止むと街中の広場にいた。
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