第5話 妖精の能力

確かにこのまま馬車で運ばれ続ければ帝都で奴隷にされてしまうだろう。何らかの手段を講じる必要があるのは確定的に明らかだ。




「俺もそうすべきだと思う。でも何かいい方法があるのか?」




「それが全然思いつかなくてね。まず状況が厳しいんだ。」




「さっき脱走者が出たくらいだからどこかに隙があってもよさそうだと思うんだがそんなに厳しい状況なのか?」


俺は獣人が脱走できたという話を思い出して疑問に思った。




「ああ、あの時のことについて順を追って話すよ。今この馬車は5台が1列になって走行しているんだ。あの時は先頭の馬車にトラブルが起きて一度停車した。その隙を狙って最後尾の馬車から1人が逃げ出したらしい。」




「俺たちが乗っている馬車は何台目なんだ?」




「3台目だよ。挟まれていて逃げ出しにくくなっている。良くないのはそれだけじゃないよ。事故が起きたときに奴隷商の奴らは逃げた人を追うよりも先にこの馬車の警備に来たんだ。」




「連中にとって俺たちはそんなに価値が高いのか?確かに身体能力は高いようだけど何でそんなに高値で取引されるんだ?」


俺はふと疑問に思ったのでルーナエに聞いてみた。




「妖精は総じて見た目が良いから悪趣味な金持ちのなぐさみ者として非常に需要があるらしい。他にも血や体の部位が貴重な素材として高値で取引されているらしいよ。」


存外不快な答えが返ってきた。




「マジで逃げ出さねぇとやべぇな……」




「難しいけどね。とりあえず逃げ出すとしたら山を抜けてからかな。山の中だと逃げ出しても野垂れ死ぬだけになりそうだ。可能性が高いとしたら山を抜けた後に奴隷商たちが休憩をとるタイミングかな。」




「馬車の様子見なんかに来るときにそいつをぶっ倒して飛んで逃げるか。」




「そうだね、その際に役立ちそうな妖精の能力は無いかい?」




「能力?何のことだ?」


妖精の能力という要領を得ない単語を耳にして疑問に思う。俺たちは奴隷商に妖精と呼ばれていたが、妖精というのは何らかの特殊能力があるものなのだろうか。




「これは妖精について調べていたときに知ったことなんだが妖精というのは自然を体現した存在らしいんだ。そのせいかモチーフになっている自然に由来した能力を使うことができるようだ。もっとも、自然と言ってもかなり広い意味での話らしい。珍しい例では人工物なんかもモチーフの対象らしいよ。」


ルーナエの話を聞いて湯水のように疑問が湧き上がってきた。妖精の種類的にはギリシャ神話のニンフのようなものだろうか。人工物も含むという事は剣の妖精なんかも居るのかもしれない。何だかちょっと強そうだ。逆にモチーフの対象から外れるものはどんなものなのだろうか。ルーナエのモチーフについても気になるところだ。




「へぇー、ちなみにルーナエは何がモチーフなんだ?」


居てもたってもいられず質問してみた。




「私は月がモチーフになっているよ。……今のところ使える能力は30秒の間透明化することだけかな。」




「そういえば何で自分のモチーフが月ってわかったんだ?」


俺は今のところ自分のモチーフが検討もつかないので不思議に思った。




「これも調べていた時に分かったことだけどモチーフは思い入れがあって死の直前に意識していたものになりやすいらしい。私は元々月にゆかりのある一族でね。亡くなったのも月夜の晩だった。銀花にもそういったものが何かあるかい?」


ルーナエに言われて死ぬ直前を振り返ってみる。




「俺が死ぬ直前に意識していてなおかつ思い入れがあったもの……雪か?」


雪には過去の思い出からくる思い入れもある。さらに死因が雪による交通事故であることから死の直前に意識していたという条件も満たす。……そういえば過去に何があったんだっけ?




「それじゃあ、雪についてイメージしながら力を込めてみて欲しい。」


ルーナエに言われた通りイメージしながら力を込める。


湧き上がってきたイメージは車にかれたことから地面を凍らせて滑らせることだった。次にこのイメージを出力するつもりで床に手を当ててみる。


するとたちまちに床に氷が張った。

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