第4話 もしかして異世界転生?

「おや、目が覚めたみたいだね……酷い怪我をしていたようだが具合は大丈夫かい?」


穏やかな口調で彼は話しかけてきた。




「ああなんとか……俺の名前はええっと……」


自分の名前を思い出そうと試みる。しかし思い浮かぶのは『銀花』という名前だけだ。


それが元の名前ではないという事は分かる。ただ不思議なことに自分の名前を思い出そうとすると、この『銀花』という言葉が思い起こされるのだ。怪訝な顔をしながら悩んでいると、




「もしかして、君も自分の名前を思い出せないのかい?」


と、彼が問いかけてきた。




「君も、ということは君もか?」




「ああ、実は私もなんだ。奇妙な話ではあるが、元々の名前を思い出そうとすると明らかにそれとは異なる文字列を思い浮かべてしまうんだ。」


彼は驚くべきことに自分と同じ症状を抱えていたのである。




「俺と一緒だ。どういうことなんだ?」




「私にもさっぱり分からない。何か手掛かりがないかと思って小さな町で調べていたんだがその後すぐにさらわれてしまってね。

とりあえず思い浮かんだ名前を名乗ることにしないかい?互いに呼び合うのに名前が無いのは不便だろう?」




確かにその通りだ、と俺は彼の提案に同意する。




「ふふ、それじゃあ私の名前はルーナエだ。」




「じゃあ、俺の名前は銀花だ。よろしくな、ルーナエ。」


ルーナエと自己紹介をしたところでさっきの話で引っかかった点を思い出す。




「そういえばルーナエ。」




「うん?どうしたんだい?」




「さっき話してたことについてなんだが、『ルーナエ』とは違う、本当の名前が存在するってなんで分かるんだ?」


この発言は別の人生がありでもしない限り、あり得ないはずだ。




「前世の記憶とでもいうのかな。自分が今とは違う姿で暮らしていた記憶があるんだ。そのときに亡くなったと思ったら、次の瞬間には突然この姿で草原に立っていた。」


俺はルーナエの境遇を聞き驚く。またしても自分と似通っていた為である。




「その違う姿で暮らしていた時にはルーナエとは別の名前で呼ばれていたはずなんだけど、それが分からないんだよ。というかその時の記憶を辿ろうとしても断片的にしか思い出せない。」


驚嘆の表情を浮かべた俺を見てルーナエが続ける。


「もしかして、君もそうなのかい?」




「……ああ!俺もそうだ!亡くなったと思ったら次の瞬間この姿で森の中にいた。見た目だってこんな姿じゃなかった。」


俺がそう答えると神妙な面持ちでルーナエは考え込む。




「これはあくまで仮説なんだが私たちは別の地域、時代、あるいは世界に転生してきたのかもしれない。調べ物をするときに立ち寄った町の景観が私のいた地域とは大きく異なっていたこと、元居た場所とは自身の見た目が異なることを考えるとありえない話ではないと思うんだ。」


信じられない話だがおかしなことが連続して起きている為か何となくそんな気がしてしまう。俺も記憶が曖昧ではあるが元居た場所に獣人や妖精なんてものがいた覚えはない。やはりルーナエの言う通り、新たに異なる姿と名前を得て異世界に生まれ変わったという事だろうか。




「まぁ、情報が少なすぎてただの憶測の域をでないけどね。」


真剣に考え込む俺を見て、ルーナエはあくまで可能性の一つだと苦笑いをした。そんなことより、とルーナエは続ける。




「この状況を打開する方法について考えないかい?」

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