第2話 邂逅!犯罪集団

思わず口をついて出た声は、変声期以後の男性である自分からは出るはずもない高い声だった。驚いて口に手を当てると水面に映る少女も口に手を当てていた。


信じられない話だがどうやら俺は羽の生えた少女になってしまったらしい。


湖のほとりに座り込んで俺は考え込んでいた。


とは言っても不可解なことが多すぎる上に情報が少なすぎるため答えの出る疑問はなさそうだった。このまま一人で考え込んでいても何一つ解決しそうにない。夜が明けて明るくなったら人が通る道を探してたどっていこうか。そうすればどこかの街に行きつくかもしれない。そうでなくても途中で誰かと会う可能性だってある。いずれにせよ危険な動物に出くわすかもしれない森の中に滞在し続けるよりはマシだろう。


そんなことを考えていた時だった。少し離れたところに一列に連なった明かりが見えた。耳を澄ますと草を踏み歩く音がする。人の集団だ。




接触を試みるべきだろうか。今行動を起こせば確実に人とコンタクトをとることができる。これには先程思案していた道を見つけてたどる方法では得られない確実性というメリットがある。彼らが善良な人間であればどこかの町まで同伴させてもらえるかもしれないし、いまの自分の状況を理解するために有用な情報も得られるかもしれない。


では彼らが善良な人間でなかった場合はどうだろうか。仮にここが日本でないとして山賊のような犯罪集団であれば無事では済まないだろう。


とは言えリスクは高いがリターンも大きい。とりあえず接近して様子を見ることにした。




周囲を警戒しながら慎重に火の列に向けて近づく。距離が縮まるにつれてだんだんと一団の様子が分かってきた。火に照らされて浮かび上がったのは人相と身なりの悪い男達だった。会話の内容に耳を傾けてみる。




「クソッ、あの獣人のガキどこに行きやがった!」


一人の男が言った。




「ガキがこんなところで逃げても野垂れ死ぬだけだってのによぉ。


手間かけさせやがって。」


と別の男がそれに続けて言った。




「面倒でも売り物だ!!


ちゃんと探せお前ら!!」


リーダー格とみられる男がそう叫んだ。




売り物という事は、彼らは奴隷商か何かなのだろうか。


それに獣人とはどういうことだろうか。


分からないことだらけではあるが、一つ明確に分かることは彼らの近くから一刻でも早く離れるべきだという事だ。


音をたてないように慎重に立ち去ろうとしたその時だった。




「見つけたぞ!」


後ろでけたたましい声が響いた。




クソ!見つかった!話を聞くのに集中しすぎていて警戒を怠ってしまっていたようだ。


どうする、どうやって逃げる?


正面には男の集団が、背後には自分を見つけた男が一人いる。


となればとりあえずは左右どちらかに走り距離をとって森に紛れるのがよさそうだ。


右に走ればさっきの湖にぶち当たって行き止まりだから左に向けて走ろう、


そう決めて駆け出した時だった。




「逃がすかよっ!」


背後にいた男が掴みかかってきた。




「うおっ!?」


俺は男に肩をつかまれ驚嘆の声をあげた。




「やっと捕まえたぜ…ってこいつ獣人じゃないな。妖精か?なんでこんなところにいるのかは知らねぇが嬉しい誤算だぜ。」


と男は長々と一人で喋っている。


幸いにも思いがけない出来事に油断しているようだし一か八かやるしかないか。


そう思った俺は肩をつかんでいる男の顔を、取り分け痛みにひるむように鼻を狙って思いっきり殴りつけた。




男の頬に命中したパンチは華奢な体から放たれたにもかかわらず男を吹っ飛ばした。


殴られた男を見ると気絶しているようだった。


どうやらこの少女の体の身体能力は見た目に反して高いらしい。


それは良いのだが今の騒ぎで前方にいた集団に存在を気付かれてしまった。


俺は急いで左方向へ駆け出したが男達に回り込まれてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る