塔登り楽しい:10

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 テクノロジーが一切使えない奇妙な島に立ち往生することになってしまった。『旅立ちの朝』になれば状況が改善する可能性が高い……が、島の時間が進まず、夕方が終わらない。

 うまい策を思いつかないので、素直に箱に聞くことにした。

 駅と看板をひとりで調べていた箱は、簡単なことのように答えた。


『そりゃあきまへんな。ほな、看板のとおりにしたらええんちゃう?』

「看板のとおり?」

『大自然を堪能する夕食、や。ほら書いてるやろ、ご満足いただくまでお楽しみいただけますって』

「つまり……看板のとおりに過ごさない限り、時間が経過しないってことか?」

『この看板が唯一の手がかりやからなあ』


 つまりこの別世界のような島は、『休日プラン』を強制的に堪能させる空間ということか? また遺跡の異常行動というやつか。朝までたどり着けば終わるのだろうか。

 箱は気にしていない様子だ。時間が経たないならそのぶん解析し放題だと喜んでいた。すごいなアイツ。


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 というわけで、釣りをすることにした。『大自然を堪能する夕食』という看板の言葉に従うことにしたのだ。

 大自然を堪能する、ということなのでこの島でとれた新鮮な食材を食べたほうがいいだろう。どのみち圧縮結晶が解凍できないので食料は現地調達する必要があった。


「こんな塩水に、魚は生きているのか……?」

「逆に川にいくと死んじゃうらしいぞ。川と海で住み分けてるんだってさ」

「面妖な……」


 俺は木の枝から作った竿を持ち、いいかんじの磯に釣り糸を垂らしている。

 魚影が見えたので、とりあえず魚を狙っている。森で弓や罠を作って狩るよりは楽だろうという考えだ。リンピアが発掘品ではない火薬式の拳銃を持っているが、弾が特別な貫通弾で高価らしいので使わないことにした。海が駄目だったらまた考えよう。


「そんな木片で本当に釣れるのか?」

「スレれてなければ、わりといけるぞ」

「スレる?」

「釣りスポットだと魚が賢くなって食いつかなくなったりするんだよ。逆に手つかずの場所だと針だけ落としてもかかったりな」

「ふーむ……」


 リンピアは訝しげに釣り糸を睨んだ。釣り餌は、適当に木工した毛虫ルアーだ。木を毛羽立つように削いで毛虫に見立てた疑似餌で、針の役目をするトゲも毛の中に隠れている。俺の田舎のガキは皆これで釣りまくっていたのでなんとかなるだろう。

 リンピアは火起こし担当。得意だと言うのでやってもらっている。海が嫌だっただけかもしれないが。

 はやくも小さな火が熾り、枯れ枝を足されている。とても手際が良い。

 ぼんやりしながらリンピアの頬が照らされるのを見ていると、彼女は突然口を開いた。


「ジェイ……今回のことについては、謝罪する。おまえを同行させるべきではなかった。すまない」

「え?」

「私は……焦っていたようだ。この塔は活性度が高く危険だと分かっていた。これほどの異様さとは予想できなかったが……。ディグアウターとして初心者のおまえを連れてくるべきではなかった。私の責任だ。そもそも、おまえがまだあの街に留まっているのも、私が原因だったな……」

「??」

「おまえは、私に使われるべきではない。おまえは自由になるべきだ……」


 なに言ってんだコイツ。

 自由になる? 俺との雇用契約を解消するべきだと言ってるのだろうか。


「なにを真面目くさったこと言ってんだよ。リンピアちゃんはカワイイですねえ~」

「むっ」


 むっとしたリンピアが俺をにらむが、遠慮なく言う。


「俺を舐めるなよ、この程度の遭難なんて屁でもねえよ。こちとら6年の大ベテランだぞ。それに遭難者救助の女神もいる。こんな塔あっという間にクリアして大金ゲットだ。金の使い道でも考えようぜ」

「だが……ここから出られるかも分からないし……」

「疲れてたとこだし丁度いいだろ?」

「それは……」

「案外すんなり朝になるかもしれないし、気にするなよ」

「だが……私は……違うのだ……そもそもおまえは、私に縛られるべきでは……」


 なんだなんだ? やけにしつこいな。

 もっと別のことに気にしているらしい。

 リンピアはこういうところがあるな。勝手に気にして勝手に落ち込んで、突っ走ってしまうところがある。頑固者というか。


「なあ……なんか悩みでも有るのか?」


 リンピアはぎくりとして、チラリとだけ俺を見た。


「……ある」


 そうか。そこは素直に言うんだな。

 うーん……


「そうか。じゃあ泳ぐか」

「は?」

「できないことをできるようにするって、メンタルに良いらしい」

「??」

「大丈夫、海ってのはな、身体が浮きやすくできてるんだ」

「いや、待て、どうしてそうなる?」

「前世で読んだんだよ、鬱病になる前にできる100のことっていう本で。効き目無かったけど」

「待て、やめろ!」


 リンピアは小動物のように逃げ出すが、逃さない。

 脇腹をズボッと掴み、持ち上げてしまえばどうしようもない。意外と重いな。脚をジタバタするが俺の身体はビクともしない。

 海へザブザブ。

 どんどん深くなっていくにつれて更に暴れるが、ひとりで引き返せない深さになったところで逆に俺の頭をカニバサミし始めた。


「いやっ! 帰せっ!」

「大丈夫大丈夫、俺がサポートするから」

「離すな! 離すな!」

「大丈夫、冗談でも離したりしない。溺れることは無い。安心して訓練しよう。次に陸へあがるとき、リンは泳げるようになっている」

「あーーーーー!!」


 ↵


 プカプカと浮かんでいる。

 ユラユラと揺れている。

 ラッコは水上で眠るとき、仲間とはぐれないように手を繋いで寝るらしい。

 俺とリンピアはふたり並んでチャプチャプと浮かんでいた。


「鬼……悪魔……」

「……」

「錆び汁撒き虫……割れ炉叩き爺……」

「……」


 数十分で、リンピアを泳げるように。もともとリンピアは運動神経が抜群に良い。コツを覚えればすぐだった。

 問題は恐怖心の克服だったが、それは少々強引にやった。長引かせるよりは良かったはずだ。

 精根尽き果ててしまったようなので、こうして仰向けに浮かびながら休んでいる。


「愚鈍帝オポロ……背逆ラルセス……」

「……」


 彼女の中では現在、俺をありとあらゆる言葉で罵ることがブームになっているようだ。


「馬鹿ジェイ……あほジェイ……」

「……でも気持ちいいだろ、泳ぐの?」

「……ふんっ」


 リンピアは俺の手を振り払って自由に泳ぎ始めた。

 美しい。イルカのように自在に身を翻し、空を踊るように水を切っている。

 かと思うと、大きめの波が来て怖くなったようで、また俺のそばに戻ってきた。

 また手を繋ぐ……のかと思ったが、恥ずかしくなったようだ。

 かわりに足で足を掴んできた。くすぐったい。足どうしで握手しているかのようだ。それで安定し、またプカプカを再開した。

 

「おまえは……優しいな」

「いきなりなんだよ」


 今日のリンピアは機嫌がコロコロ変わる。半分は俺のせいだが。


「私を救い、私の騎士たちを救い……街の皆からも慕われている。怖れられるばかりの私とは大違いだ」

「そりゃ盗賊団3つぶっ潰してたらなあ」

 

 ジャンク街で過ごすうちに耳に入ってきたことだが、リンピアたち3人のドワーフチームは、街にやってきてから相当派手に暴れたらしい。近辺で活動していた野盗団を壊滅させ、それらと関わりのあった街の中の不良集団も一掃。理由はディグアウト稼業の邪魔をされたから。とんでもない武闘派ディグアウターとして一躍有名になったようだ。どおりでたまに怖いお兄さんたちから熱い視線を送られるわけだ。ロックフェイスの慣らし運転がわりに討伐したはぐれ野盗たちも、その残党だったらしい。


「おまえは優しい。そして勇敢だ。現にここでも、危険を承知で塔の中へやってきた。私達を救うために」

「……本当に優しいわけじゃ、ない」


 今日のリンピアは本当に様子がおかしいな。なにを悩んでいるんだろうか。自信を無くしているように見える。その原因のひとつに、俺の存在があるように見える。

 だとしたら、とんだ見当違いだ。

 

「優しく見えるなら……余裕があるだけだ。この身体のおかげだよ。8コアの性能が良すぎるせいだ。危険が危険じゃない。躊躇も恐れもない。だから余裕ができて、優しく見えるだけだ」

「そうか?」 

「そうだよ。俺の前世なんて、全然違う人間だったぞ」

「じゃあ、どんな?」

「……フツーの、つまんないヤツだったよ。暗くて、消極的で、趣味も無くて。アーマー以外は」

「おまえが普通?」

「本当だって」


 俺は思い知っている──健全なる精神のために、いかに健全なる肉体が必要か。この身体は朝起きて調子の悪いところがひとつも無い。それだけでも、人生の何割かをとくしている。

 なにより、このアーマーの存在する世界を十全に楽しむことができているのは、強靭な身体に恵まれたからだ。前世の肉体のままこの世界に来ても、街の中にこもって最下級アーマーをいじる程度の人生しか送れなかっただろう。


「勇敢に見えるとしたら、それも……前世の裏返しだ。消極的だった結果、つまらない人生だったからな。何事も積極的に行こうと思ったんだよ」

「……死んだ記憶があるのか?」

「ぼんやりとだけどな」


 前世の最期は記憶が曖昧だ。おそらく鬱病の末の自殺か、治療放棄からの病死。そんなところ。今だからこそ言えるのだろうが、馬鹿だった。もっと他のことに関心を向けていれば、死なず、アセンブルコアに代わる生きがいを見つけることもできただろう。まあ今の俺も相変わらずアーマー馬鹿ではあるのだが。


「悩んでもさ、無駄なんだよ。選ぶしか無い。悩むってことは、どれも同じ程度に重要ってことだしさ、どっちを選んでもわりと同じだったりするんだよ。だからさ、自由にやろうぜ」

「……選んだ結果、他人を巻き込んだとしても、か?」

「だとしてもだ。巻き込まれるってのも、その他人自身が選んだ結果だろ。それもまた自由だ。嫌なら、逃げてるよ」

「……そうだろうか」

「そうなんじゃないか」


 真面目に話してしまった。苦手なんだよな、こういうガチのやりとり。背中がムズムズしてくる。

 でもリンピアが本当に悩んでいたようなので俺も本気で頭を捻って考えた。やめてくれよ俺普段からこんな難しいこと考えてねえよ、アーマーのこと以外はその場のノリで適当にしか生きてないよ。


「ところでリン、ちょっとそのまま浮いててくれよ」

「?」


 俺はリンピアを置いて水中へ潜った。さっきからチラチラと魚影が見えていたのだ。モフモフの髪が揺れているのに誘われたらしい。

 再浮上してきた俺の手には、なかなかの大きさの魚が鷲掴みにされていた。


「難しい話はいったん置いといて、飯にしようぜ」


 ↵


 魚の味は……それなりだった。

 ちゃんとした食用じゃなさそうだし、海水の塩味だけだし、こんなものか。毒が無いだけマシだろう。判定は俺の舌。

 食器も無いので串焼きにしてそのままかぶりつき、腹に収めた。毒反応がないのを確認して、リンピアも食べた。魚の姿を怖がるかと思ったが、平気そうだった。

 物足りなかったので、もりでもう3匹とってきて、それも食べた。運動神経抜群の身体が前提なら、直接捕まえるのが一番楽なんだな。


「夜だ……条件は満たしたようだな」


 いつのまにか空が夕方から夜に変わっていた。

 最高の休日を送るための島、というだけはある。降るような星空だ。


「星が……動いているようだな。時間は進んでいる。『満天を望む』とあったし、ここからは空を見てさえいれば大丈夫そうか」


 どうやら夜の進行条件は楽そうだ。というより、夕食を食べるという条件がちょっと厳しかったんじゃないか? 道具も設備も無しに飯を用意するのは難しいし、味も微妙になるぞ。そこは暴走遺跡のお粗末なところということか。

 ふたりして寝転んで空を見上げる。

 こういうとき、天文学の知識でもあれば地球との違いが分かったりしたんだろうな。俺はサッパリだ。北斗七星すらあやふや。ただキレイとしか思わない。

 我ながら良い出来のハンモックだ。腹が膨れたこともあって眠くなりそう。

 そのとき、リンピアが空を見上げたまま語り始めた。


「……ジェイ、おまえに隠していたことがある。言わなければならない」

「なんだ」

「ニールとヴィンティアの蘇生のために目指す隠れ里……それは、私の故郷のことなのだ」


 リンピアはもともと『護衛騎士』と3人組で活動していた。だが残りの二人が負傷し、コアだけの休眠状態に陥った。その肉体復元のために、格安で蘇生可能な隠れ里へむかうための旅費稼ぎ……それが俺達の目標だった。

 蘇生費用は高額だ。しかもディグアウターのように高度な回路を持つ人間の場合、更に費用がかかる。複雑な復元が必要になるらしい。

 隠れ里では蘇生費用が格安になるから、近場ではなくそこを目指すという話だった。それは地元のコネが使えるという意味だったのだろう。だが一方で、深刻な資金不足に陥っていて、発電設備すらままならないとも言っていた。これまで秘密にしていたのも納得できる。蘇生装置のような高価なものがあると知られれば、野盗を呼び寄せることになる。


「ドワーフの隠れ里ってわけか。なるほど。公言できないよな」

「そうだな。だが私が隠していたのは、それだけではない。ジェイ、おまえには私と一緒に、そこへ帰ってほしいと思っていた」

「うん、そのつもりだったけど」

「だが、そうするとおまえは、不幸になるだろう」

「うん?」


 どういうことだ。


「そもそも私達が里の外へ出稼ぎに出たのは、金のためだけではない。もうひとつ、目的があった。私たちドワーフの一族には、使命がある。だが長らく、その務めを果たすことはできなくなっていた。『鍵』を失っていたのだ。多くの者が鍵を探すために外界へ赴いた」


 なんか話が大きくなってきたな。鍵とやらを失った事が、ドワーフ里が貧乏になっている事とも関係しているのだろうか。


「我々は鍵を、ずっと探していた。そのために私すらも外へ出た。大岩の街に来たのもそのためだ。多くの苦労をした。だが、ついにその鍵は見つかった。それこそがおまえだ。ジェイ……『叩き砕く者』よ」

「おいおいおいおい」


 ちょっと待て。話が飛びすぎている。いきなり俺が登場してきた。ファンタジーRPGかな? 勇者を導いて旅立たせるときの流れに似ている。


「俺が砕く人? なんで俺なんだ? そもそも何なんだそれは?」

「『叩き砕く者』とは、ドワーフの古い言葉で、どんな鋼よりも固く丈夫な強者を意味する。だが同時に、すべての災と直面する運命にあることも指す。ドワーフの伝説においてその名で語られた神々は、皆、悲惨な末路を辿っている」


 ……語源が簡単に想像できてしまった。いろんな金属をぶつけ合わせて、最後に砕けずに残ったものを『叩き砕くモノ』って呼んだんだろうなあ。人間に転用するなよ、そんな言葉。


「叩き砕く者……砕き続けて叩かれ続けるモノね……俺はソレなのか? 不幸になるってのは、具体的には?」

「……言えない。私も多くを知っているわけではない。おまえが鍵だと確定しているわけでもない。だが私と共に帰れば、そう扱われる。そして試練が降りかかる。そういう意味だ」


 うーん。


「まあいいや、無事に里帰りしたら、そのとき考えよう」

「……話を聞いていたか? 私の国に来れば、おまえは万難に巻き込まれ……」

「分かってるって、俺もさっき言っただろ、悩んでも無駄だって」


 俺はかつて、リンピアのことを小さな族長の娘かなにかだと考えていた。小さな子供すら出稼ぎをしなくてはならない、貧乏な村からやってきた可哀想な女の子なのだろうと。姫や騎士という呼称も、慣習や見栄によるものだと思っていた。

 だが今は違う。姫、というのは正しい。彼女はいちいち惚れ惚れするほど品が良い。一般庶民は一生身に着けないで終わるであろう所作というものが、日常動作のひとつひとつからにじみ出ている。赤兎セキト機を見てもそうだ。ジャンク街では数年に一度目にするかどうかという高品質パーツで全身をされた高性能機。並大抵の労力で用意できるものではない。

 今、リンピアが語ったことも本当のなのだろう。彼女の故郷には大きな力をもつ曰く付きの何かがあり、それに近づけば災いに巻き込まれる。

 だがそれが何だというのか。

 そもそもだ。赤兎セキトを保有していたような場所のことを俺が諦めると本気で思っているのだろうか。


「悩みですらないな。リンピアに付き合うのは確定だったし。今から楽しみだよ」

「……おまえ……私はずっと悩んでいたのに……意を決して話したのに……」

「遠慮して溜め込むのが悪い。俺に気なんか使うなよ、自由に楽しくやっていこうぜ」


 そもそも、俺がそうだと決まったわけではないようだし。普通のつまらない人間だと話したのに、リンピアは完全に俺を鍵だと思い込んでいるようだ。まだ隠している事はあるらしいが……まあいい、なるようになれだ。

 リンピアと別れるというのは、俺の選択肢には無い。

 普通に寂しい。

 

「知ってるか? 傭兵ってのはな、雇い主がいないと傭兵じゃないんだよ。契約終了は勘弁だぜ」

「……もういい、寝る」


 リンピアはふて寝してしまった。

 その後、どちらかが空を見ていないと時間が進まないことに気づくなどのハプニングはあったが、交代で眠ることで解決。

 朝がやってきた。


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 朝日を浴びる駅に、どこからともなくピロンピロンと奇妙な音楽が響いた。

 電車の発着音のつもりだろうか。

 機械信号回路を受け付けなかったはずの武装トレーラーが振動し、また勝手に動き出した。

 しばらくすると、やってきた時と同じく唐突に──いつのまにか湖のような貯水階層に戻ってきていた。本物の海と空が消え去り、鏡のような水面と照明器による作り物の天井があるばかりだ。回路の感覚も戻り、トレーラーを運転できるようになっていた。


「なんだったんだ、あの島は」

「並外れて奇怪な空間だったな」


 こんなことが頻繁にあったら遺跡の攻略なんてできたものではないが、超レアケースらしいのでもう考えないようにしておく。気を取り直して塔登りを再開しよう。

 幸い、この階は水があるだけなので車両レールを走って通り過ぎるだけでいい──と解析がでていたはずだ。

 そう思ってルーマを見ると、ちょうど俺のほうを見ていた。


『ジェーやん、島で妙な気配を感じたりせんかったか?』

「妙って?」


 むしろ妙じゃないことのほうが珍しい空間だったが。


『たとえば……誰かに呼ばれたような気がしたりせんかったか?』

「んん? 別に?」

『さよか……ならええんや』


 妙な様子だ、箱が。ずっと解析していて疲れたんだろうか。

 俺達が『休日』を過ごしている間、箱はずっと駅で看板とにらめっこを続けていたが、気まぐれな遺跡の高レベルな誤作動に巻き込まれたということが確認できただけで、特に目立った成果は得られなかったようだ。


「次の階も頼りにしてるぞルーマちゃん。疲れたりしてないか?」

『おーきにおかまいなく』


 箱は普通に戻ったように見える。気の回しすぎだったか。リンピアを励ました名残で気を使い過ぎていたのかもしれない。 

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