塔登り楽しい:5

 ↵


 戦闘列車モドキが地下通路を爆走しながら強装ライフル砲弾を連射する。

 進路上にいたカニ型マーダーは撃ち抜かれて行動不能。そこへ戦闘列車が突っ込み、バラバラに吹き飛ばした。

 現在、戦闘列車は2両編成に改良されている。後方はコンテナを乗せて内部を搭乗スペースにした。敵から剥がした装甲をベタベタ貼り付けて多層にしているので防御力はかなりある。

 前方車両は攻撃担当だ。3機のライフル腕アーマーを砲台として配置。重心が高くなるためコンテナ部分を捨てて直接座らせた。先端には衝角バンパーを装着し、突撃も可能。

 動力はアーマーのジェネレーターから配線したナノメタルにより伝導。インホイールモーターだったのでそいつを動かしている。

 戦闘列車だと意気込んで作ってみたけど、後半がコンテナになっているのを見るとトレーラーに近いな。そもそも長さ足りてないし。それに列車砲のような大砲も無い。トラックに機関砲をのっけただけの武装トラックに近い。武装トレーラーだ。

   

「数が多いな。回収する暇もない。まあ回収する必要も無いけど」


 カニマーダーを撃破したのはこれで何十体目だろうか。

 後方からは別の群れが追ってきている。ここ半日はずっと戦闘続きだ。倒しても倒してもキリが無い。

 戦闘列車モドキを作ってからというもの、戦闘力は大幅に上昇したのだが、敵が多すぎるせいで苦労している。ろくに戦利品の剥ぎ取りもできない。一気に大部隊を殲滅して時間ができたときにまとめて弾薬等を回収しているので、収支はいまのところ黒字だが。

 武器腕ライフル砲は300発ほど撃ち続けると自己修復機能でも追いつかないほど砲身ダメージが蓄積してしまうことがわかった。普通なら拠点へ帰還して修復整備するところだがそんな時間はないので、腕ごと交換しつつ戦闘を継続している。もう5回は取り替えた。交換中に敵襲があるとピンチなので、砲台をしている3機の腕はローテーションを組んで交換することにした。いつでも4門以上は攻撃可能な状態を保っている。


 俺は後方コンテナから砲台アーマーのセンサー越しに周囲を知覚して車両を操作している。人型二足歩行のアーマーを操作するほど高度ではないので処理負荷は低いのだが、こうも長時間だとさすがに疲れを感じてきた。

 リンピアは一足先に休憩中だ。彼女のアーマーは後方コンテナ内に格納していて、その中に乗りながら休んでいる。

 マーダーから剥ぎ取ったばかりの胴体コクピットには人間用のシートが無いので、ナノメタルでフレームを形成し、タオルや予備の衣類をクッションとして貼り付けている。多少は快適になっていると良いのだが。


『ジェーやん、戦況はどないでっか?』

「起きたのか? おまえも休んでていいぞ」

『こんなガタゴトしてて休めるかいな』


 先ほどから静かになっていた箱がピカピカした。箱もクールダウンなどのために眠る必要があるのかと思ってそっとしておいたのだが。


『それより解析ができたで。やっこさんら、停止する直前に信号を送っとる。どこかに指揮官機がおって、そいつがウチらをしつこく追ってきとるんや』

「でかした。なるほどな」 


 ルーマちゃんはデキる箱だ。

 ストーカーが居たのか。どおりで追われ続けるわけだ。

 しかし指揮官機とは。ここの階層のマーダーはかなり本格的な戦闘行動をとるようだ。


「その指揮官機の場所はわかるか?」

『そこまでは。でもこんな地下通路で見かけてないってことは、地上やろね』

「ぽいなあ」

「……それでは、そろそろ反撃開始するとしようか」


 コンテナ内のアーマーが駆動音をあげた。

 リンピアが起きたようだ。


「こんなにしつこいマーダーは初めてだ。ケリをつけにいこう」

「オッケー」

『あっちに地上出入り口があるで』

「よし。車輪をスパイクタイヤに変更」 

 

 レールにナノメタルを仕込んで自発的に脱輪し、地上を目指す。

 ゴムなどの無い剥き出しの金属車輪なので、スリップしないようにナノメタルでスパイクを生やす。世紀末じみた見た目だ。

 ガタガタと揺れだした。地面は穴だらけになるが遺跡に配慮など必要ない。

 車輪ひとつひとつが駆動するインホイールモーターだから左右の回転差をつくれば方向転換もできるだろう。レール無しでもいけるはずだ。たぶん。

 

 ↵


 地上のビル街へ。

 ビルはうわべの形がそれっぽいだけで、中身はハリボテだ。デスクや装飾は無く、作り込みの甘い3Dゲームのように空っぽの中身。地下生活のときの居住区画に近い。建築機械が正常ではないのだろう。

 戦闘車両をそこらじゅうのビルの壁面にガリガリ擦りながら進む。ハンドルも無しに左右の回転差だけで操縦するのは難しすぎた。自由自在に動かしながらカーアクション戦闘したかったんだが、無理そうだ。普通に走行させるだけでも、もう少し慣れる時間が必要だ。

 そこにカニ型マーダーが集まってきた。

 ビルの隙間。交差点の中央。その物陰。明らかに俺達を待ち伏せした布陣だ。数は8体といったところ。

 箱に解析させる素材が欲しかったので、多めにやってきてくれるのはちょうどいい。一気に倒そう。


 コンテナを解放。リンピアのアーマーが出撃した。


「もううんざりだ。親玉の居場所を吐かせてやる」


 俺もアーマーで出る。


「砲台モードから機動形態へ。出撃します」  

 

 べつに変形機構があるわけではない。ペチャっと座った砲台状態から立ち上がっただけだ。でも大事なのは気分。


 タコアーマーの性能では苦戦したが、カニ型マーダーは強敵ではない。ただ数が多いだけだ。こちらも2機になった今では容易い相手だ。

 リンピアの丸い機体がやや強引に突撃しつつ砲撃し、手早く撃破していく。胴パーツの防御性能に頼った行動だ。自己修復性能も高いので多少の被弾を無視して大胆な戦法がとれる。軽量高速機体の赤兎セキトとは全く勝手が違うはずだが、器用に使いこなしている。

 俺の機体は正直、相手と互角の性能。被弾すると壊れる可能性が高いので、常に《全力稼働》させたブースターで動き回りつつ横を取る動きだ。伏兵をしばき、距離をとろうとする背中を撃ち抜く。リンピアが動きやすいように、彼女の裏をとるマーダーから排除していく。全力稼働させるとパーツの消耗が激しくなるが、同じ機体が3つあるのですぐ乗り換えできるし、予備パーツもコンテナに積んである。

 苦戦することはない。ここ半日倒し続けてきた相手だ。俺とリンピアの連携もピッタリ。まともな被弾もなく圧勝した。

 

 ↵


 一気に倒すと次のマーダーがやってくるまでは時間がかかる。

 その時間で箱に解析をさせて指揮官機の場所を洗わせる。


『うーん、この子達は損傷がひどくて無理やな。あっち連れてってーな』

『いいぞ』


 リンピアは車輪で自走して行けないとこへ、箱を運んでやっている。


『おっ、解析いけそうやで。ちょっと待っといてや』

『頼む』


 リンピアは箱の手伝いをしながらも警戒をつづけている。

 俺は倒したマーダーからパーツの回収作業だ。両腕が砲なのでちょっと難しい、引っ掛けるように作業しないといけない……片腕だけ工業用アームにしてしまおうか。

 まずナノメタルと燃料棒。圧縮弾薬。

 次に回収したいのは、消耗の激しいライフル腕。ブースターも欲しい。俺が全力で使うせいで焼けついて、自動修復が追いつかないからだ。

 蹴り攻撃のために損傷しがちな脚パーツも同じく。コンテナのスペースが許す限り回収していく。

 再利用できる確率が高い気がする。正常なパーツが多い──つまりマーダーコアによる侵食が進んでいない。生産されてからあまり時間が経っていないのだろうか。


『よっしゃ! 活きが良いのおったわ、いけるで!』

「お、どうだ?」

『直前タスクがこれで~、じゃあここのが命令信号っぽくて~、優先度の高くなったこれが臭いなぁ~、そんで、その発信ポイントは……ん?』


 箱がピカリと光った。


『そこや、あそこの屋上や』

 

 ひときわ高いビルの屋上。

 そこに人型の殺人機械マーダーが居た。

 アーマーに似ている。二足歩行で、腕があり、頭もある。レーダーアンテナのような突起が背中についている。指揮官機だ。

 長大な武器……狙撃砲らしきものを装備している。

 その銃口はこちらを向いていた。

 悪寒。

 狙撃砲が大きな光を放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る