生産施設破壊作戦:3
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到着した日はミーティングだけで終わり、休むことになった。
リンピアと同じ部屋になってしまったが、ぐっすり快眠だった。
俺の脳にはブレインエディタという回路があり、『考えないようにする』という程度までの自己催眠が実行できる。緊張やストレスを忘れてリラックスすることができるので非常に便利だ。
ベッドに寝転んだ瞬間に眠り、あっという間に朝になっていた。
リンピアのほうもあまり俺を意識している様子は無いようだ。俺が起きた時、彼女もすでに起きていて、バッチリ身だしなみを済ませていた。
あのすごい毛量の髪が寝グセも無くキレイに整っていたので、すぐに寝て早起きしたのだろう。
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早朝、タワー型遺跡への侵入が始まった。
リーダーチームの機体が箱を手にして壁へ近づく。
箱は壁にむかってピカピカと光る。何か回路を動かしているのを感じる。
『ひらけごまー』
ゴゴゴゴ……と重々しい音をたてて、アーマーがらくらく入るほどの通路が開いた。
エセ関西弁で気の抜けることを言うが、箱の性能は本物のようだ。
「なかなかできる奴だったんだな、あの箱」
『アイツは探知機やマスターキーと呼ばれる発掘品だな。遺跡の外壁と中枢はとくに固く閉ざされている。アレが有ると無いとでは手間が段違いだ。他にもいろいろと計算ができる』
リンピアが説明してくれる。すこし物欲しそうだ。以前遭難して帰還方向がわからなくなったときも、アレがあれば難なく帰ることができたのだろう。
『我々『第二』が上方、『マッスラー』チームは下方へ探索。残り2チームは出入り口周辺にとどまり警戒せよ』
タワー型遺跡は塔と地下のどちらに中枢機能があるか分からないため、上下両方を探索する必要がある。
塔上部へはマイクたちリーダーチームが向かう。彼らのアーマーはオーソドックスな中量2脚。アンテナやカメラなどのセンサー類が豊富で高品質なパーツだとわかる。武装は強化改造したロングソードライフルや肩部レーザーキャノンなど手堅く高性能な装備だ。
通信回路で顔が見えるが、気負った様子もなく余裕そうだ。この程度の作戦は難なくこなす自信があるのだろう。
『マッスラーズ、了解。派手に暴れるぜ』
男4人組のチームが地下方向へ向かう。昨日配った顔通信のおかげで名前と顔を覚えることができた。
マッスラーズのドライバは全員筋骨隆々の男たちだ。ステロイドでもやっていないと不自然な筋肉量で、筋力強化回路を持っていると思われる。そのパワーは操縦技術にも発揮されるだろう。
アーマーはタンク型2機を含める攻撃的な編成だ。ガトリング砲や連装榴弾砲など重火器を揃えている。遺跡の中で自爆しないか心配なほどの火力だ。たいていの敵は木っ端微塵だろう。
『カモメ、了解。後ろにいるよ』
運び屋カモメは大容量圧縮庫を内蔵した重量級アーマーのチームだ。今回の作戦の物資輸送係をつとめている。鈍重な機体で戦闘能力は高くないが、技術と経験は十分に持ち合わせている。弾薬を豊富に所持しているので、重装甲とあわせて弾幕射撃が可能。守備的な戦闘に秀でている。
『リン了解』
「ジェイ了解。カモメの巣は任せろ」
俺たち二人はカモメチームの機動力を補い、共に退路を確保する役だ。
実にアーマー十機以上が参加する作戦。
ほとんどのドライバがB級のディグアウター。
危険度が高いとはいえ、相応の装備を揃えてきた。目標達成は容易いと思われていた。
『侵入開始』
第二警備隊、マッスラーズが塔へ入った。
続いてリンピアが開口部へ侵入した時だった。
ズドン、とシャッターが降りた。
「は?」
最後尾にいた俺とカモメチームは、塔の外へ取り残された。
こうして未確認遺跡の生産施設破壊作戦は破綻した。
侵入からわずか数十秒の出来事だった。
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砂嵐が吹いている。
砂粒が装甲表面を叩く音がする。サラサラとザーザーの中間。昔のテレビの『砂嵐』音にそっくりの音だ。リラックス効果があると聞いたことが有るが、今の俺にとってはただのノイズだ。
『何時間たった?』
『まだ1時間たったかどうかだぞ』
『なんなの、この遺跡。トラップなんて……』
運び屋カモメは金髪と黒髪の男女二組からなるチームで、物資運搬と後衛の担当だった。彼らはB級ディグアウターではあるものの、輸送護衛などの任務につくことが多く、遺跡攻略を主導したことはない。
不測の事態に取り乱すことはしなかったが、打開策は打ち出せていなかった。
『通信は』
『無反応。やばいな、この遺跡』
応答が返らない。悲観的状況だ。内部の様子は完全に不明。
ほかに解錠できる扉がないか探したが、ぐるりと塔を一周してもとに戻ってきただけだった。
壁を砲撃してみたが、かすり傷がついただけ。びくともしない。
運び屋カモメが普及品の計算機で扉をハックしようとしたが、受け付けなかった。完全に沈黙しているらしい。
『仕方ない。ジェイくん、ここは撤退を考慮に入れて……』
「いや。ここで待ちます」
『そうは言っても、こんな絶望的な状況では……』
「いや、リンは生きているので」
通信先で金髪の優男が驚き、そして哀れみの表情を返す。悲しい人間を見るかのような目だ。
いや、勝手に殺してんじゃねえよ。まだ入った奴らが死んだと決まったわけじゃねえだろ。
自分でも不思議だが、俺は動揺していなかった。
俺はナノメタルに敏感だ。そして人間は血液とナノメタルで動く生命だ。俺はリンピアと出会ってからずっと彼女のナノメタルを感じてきた。それを、今も感じている。
春の小鳥のように温かく輝く、ナノメタルの鼓動。
なぜかわかるのだ、近くにリンピアは生きていると。致命傷を負ってコアガードに包まれているようにも感じない。彼女は無事だ。少なくとも今のところは。
「俺はここで待ってます」
『ジェイくん……』
「カモメさんたちは、拠点に戻っててもいいですよ。なんなら街に戻って応援を呼んできてもらっても……」
そのとき、ガコンと音がした。
全員が目を見開いてそちらを見た。
扉だ。開いている。
だがそこにはアーマーの1機も、人間のひとりもいなかった。
『えらいこっちゃやで』
ベコベコに傷ついた箱だけが、そこにいた。
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