019 閑話 解体屋

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 働くぞー。

 今日は鉄運びだ。

 ジャンク街低層の雑然とした解体場に、つぎつぎと殺人機械の残骸が運び込まれてくる。そいつを解体してできたパーツや鉄資材を運ぶのが俺の仕事だ。

 ゴツいフォークリフトが停止した殺人機械をもってきて、作業場の中心へ転がしていく。

 殺人機械はキメラ虫の機械版みたいなやつだ。地下遺跡の生産施設で発生し、地上にもよく出てくる。俺が地下で相手をしていた小型のものから、アーマーよりも大きなものまでいろいろいる。でたらめな部品がゴチャゴチャと合体した体をしていて、その中にアーマーパーツや発掘品として使えるものが混じっていることがある。


 無骨な四脚型の作業用アーマーが、巨大なハンマーをふりかぶる。

 ドゴン! 一振りで殺人機械はぶっ壊れた。

 破片がビュンと俺たち作業員のあいだを飛んでいく。あっぶねえ。ワイルドすぎる現場だ。

 野蛮に見えるが使えるパーツはちゃんと避けていたらしく、中心部からアーマー用の銃身やジェネレータが見える。もう2回ほどハンマーを振ると、かなりキレイに解体されてしまった。職人技だ。工具を持った技術屋がパーツを鑑定し、使えるものにマーキングをしていく。

 つぎは俺たちの番だ。

「動け動けーさっさと片付けんと次が始まらんぞー」

 現場監督が急かしているが、そこまでカリカリしているわけでもない。俺たち運び係が作業しているあいだ、ハンマーを振っていたアーマーのドライバや技術屋などは小休憩をとっている。リズムというものがあるのだろう。

 とはいえ怠けることもないので真面目にやる。

《錬銀術//表面装甲:鉤爪手袋》

 ナノメタルで手甲をつくり、指先には熊のような爪をつける。最近便利に使っている作業用手袋だ。これと俺の筋肉が合わされば、小型重機なみの作業力を発揮する。

 まずは大きな鉄資材だ。頑丈なシャフトや大きな装甲板などはそのまま建材などの素材になる。

 爪をひっかけ、そのままひとりで持ち上げる。

 こいつの回収トラックは……あっちか。よいしょ。

「おいおい張り切って怪我しないでよー?」

「大丈夫っすー」

「おお……本当に大丈夫そーね」

 ハンマーのアーマーに乗っていた解体職人オジサンが声をかけてきたが、これくらいは楽勝だ。

 鉄資材ぶんはすぐに終わってしまった。

 アーマーパーツのほうは……ちょっと細かそうな技術屋が「もっと丁寧に運べ」と他の作業員たちへ指示している。あっちはあいつらに任せるか。

 使えるものがすべて抜かれたあとの鉄屑は、ショベルローダーに魔改造された戦車型アーマーがまとめてさらっていき、溶鉱炉のベルトコンベアへ。

 作業場がキレイになったところに再び殺人機械が運ばれてきて、以下繰り返し。


 自然と、俺ひとりで重い鉄資材、他の作業員はパーツ運びを担当する流れになった。それでも俺のほうが先に終わって空き時間ができる。

 解体ハンマーの職人オジサンと話して時間をつぶすことにした。前世の俺は鬱コミュ障だったが、今は違う。この高スペック脳みそをもってすれば、世間話をこなすなど他愛もない。マイボディ最高だ。

「でかいハンマーだけで解体するのって、すごいっすね。コツとかあるんですか?」

「そーね、あるね。あいつら、いろんな機械が合体してるでしょ? その境目は強度が低くて、壊れやすかったりすんのよ。で、それに沿ってバラせば中身もキレイに残りやすいってワケ」

「はえー」

 本当に勉強になることを聞いてしまった。アーマーに乗って稼ぐには、こういったことも重要そうだ。せっかく敵を倒してもぜんぶスクラップで儲けゼロなんて悲しすぎる。

「キミ、ディグアウター志望でしょ?」

「えっ、なんでわかったんです?」

「そりゃ、オレの『スミス』を熱い目で見てたからね」

 おお、機体に名付ける同志がここにもいた。

「すいません、アーマー好きなもんで。いま貯金中なんですよ」

「いいね。オレもね、前はディグアウターだったんだよ。いろいろあって辞めちゃったけどね。あの頃は若くてね、楽しかったね」

「いいっすねえ」

「辞めるタイミングが良かったね。でかい龍震があってさ、新しい手つかずの遺跡が出てきたんだけど、これが超危険だったのね。オレはすぐ怪我して休んでたんだけど、そのあいだに仲間はいさんでアタックしちゃってさあ、みんな死んじまった。それを機にスッパリだね」

「厳しいっすねえ」

 オジサンの自分語りなんてつまらないと思っていたが、かなり楽しくおしゃべりした。


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 あっというまに日が暮れ、仕事が終わった。

「またよろしくね。はやくアーマー買えるといいね」

「お疲れ様っす。勉強になりました」

 仲良くなった職人オジサンと別れた。

「将来キミがキレイに倒してきてくれるようになったら、こっちも儲かるからね。期待してるよ」

「はい。稼がせてあげますよ」

「嬉しいね」

 オジサンは上機嫌で帰っていった。

 家には妻子が待っていて、最近5人目が生まれたらしい。結構なことだ。


 引退後か……まだそんなことぜんぜん考えられないな。体がボロボロ限界になるまで戦い続けて、ついに最終決戦を勝利したが精神崩壊、健気なヒロインに看病されつつ戦場から姿を消す……とかアホな妄想くらいしかできない。

 そもそもまだちゃんとしたアーマーすら持ってないし。そもそも俺の体、めちゃ頑丈だし治癒回路もあるし。今まで死にかけても寝れば元気になっているのでボロボロになるところが想像できない。


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 ガレージでボロボロの枯れ木のように気絶していた俺は、起きるなりリンピアに説教をくらった。

「ジェイ、最後に寝たのはいつだ?」

「夕方くらいです」

「時間帯のことじゃない。何日前だ?」

「……5日前くらいだと思います」

「どうしてこんなことを……」

「楽しかったので、つい」

 アーマー操縦回路の最適化作業に没頭していた俺は、気がつくと5徹していた。しかも飲まず食わず。

 リンピアは護衛仕事で外出していたため、発見が遅れたようだ。

「徹夜、禁止。破ったら二度とセキトに乗せないからな」

「まことにほんとに申し訳ございませんでした」

 健康には気をつけよう。

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