地底人

 頭の中の声はヘルプシステムと名乗った。


「助けて……」

『はい、助けてほしいのですね。どのようにお困りですか?』

「死にそう……助けて……」

『はい、死にそうなのですね。どのように死にそうなのですか?』

「体痛い……傷が……」

『はい、傷ついているのですね。どのような怪我がありますか?』


 なんだこいつ。ムカついて冷静になってきた。

 これは走馬灯みたいなものなのか? 変な幻聴だ。

 もうヤケクソだ。


「見て分からんか? 全身ボロボロなんだよ」

『ヘルプシステムは最低限の助言に設定されています。アシストレベルを上げますか?』

「とにかく助けてくれ」

『はい、アシストレベルをミドルに設定しました。全身打撲、全身裂傷、出血多量、重傷なのですね。治癒をしましょう』

「アホなのか? そんなに簡単に傷が治ったら苦労しねえよ」

『アシストレベルを上げてさらに助言をお求めになりますか?』

「上げろ、最大限に上げろ、このポンコツ幻聴」

『はい、アシストレベルをベイビーに設定しました。傷を治すには、治癒回路を実行しましょう。ナノメタルが不足していますね。ナノメタルを取得しましょう。近くに倒れたマシン系エネミーがいますね。エネミーの体内からナノメタルを摂取しましょう。治癒回路が構築されていません。メニューから回路構成を選び、インストールしましょう。メニュー機能が起動していません。メニュー機能を起動しますか?』

「してくれしてくれ、もう勝手にしてくれ」

『メニューを自動起動しました。治癒回路を実行します。体内ナノメタルを使用します。不足しています。20%で実行します』


 俺は助かった。

 頭の中でなにかが動いたような気がして、全身が熱くなり……そして出血が止まっていた。


 ↵


 ヘルプシステム様の言う通りにガラクタロボットから銀色の液体の入ったカプセルのようなものを取り出してから、俺はさっさと拠点のアパートに帰った。

 一息ついて、ヘルプシステムに根掘り葉掘り聞くことにした。


「ヘルプ様、回路ってなんですか? メニューってなんですか? この私にお教えください」

『はい、回路とメニュー機能について知りたいのですね』


 ヘルプシステムからの情報はどれも初耳で重要なものだった。

 メニュー機能とは、すべての人間が生まれながらに備える体内管理インターフェースであり、健康度可視化、回路管理などを行うことできる。まんまゲームの『メニュー』だ。


「人間ならできて当たり前なのか、コレ」

「はい。メニュー機能はデフォルトの機能です。すべての人間が使用可能です」


 ここはサイバーパンクな世界なのだろうか? 強化人間みたいなのがデフォのようだ。いまだに他の人間に出会えたことはないからなんとも言えないが。


「回路とは、ナノメタルをもとにして特殊な現象を引き起こす機構です」 

「ナノメタルとは?」

『すべての生物が体内に保有している、特殊なエネルギーを秘めた液体です。さきほどナノメタルを手に入れましたね。ナノメタルを摂取してみましょう』

「摂取?」

『飲んでみましょう』


 ガラクタロボットから引きちぎってきた、銀色のガチャポンみたいなカプセル。

 銀色の液体が入っている。カプセルからは管が伸びていて、折ればそこから飲めそうだ。


「飲むっていったって、こんな金属の、とてもじゃないけど……とても……とても美味しそうだな??」


 不思議なことに、俺はその液体を「美味しそう」と感じた。

 飲みたい。疲れているから、なおさら飲みたい。飲めば、癒やされて心地よくなる。そんな気がする。まるで腹が減っているときに旨い食べ物を目の前にしたかのようだ。

 我慢できない。飲んだ。


「おいしい??」


 金属臭い。だが美味しいと感じてしまう。甘みでも旨みでもない不思議な味覚だ。

 4つぜんぶ飲んでしまった。


『ナノメタルを600ml獲得しました。メモリ拡張まで400mlです』


 メモリ拡張とな。なんか楽しくなってきた。

 なんかゲームみたいなシステムだ。そういや転生というのはゲームみたいなヘンテコな世界に行くようなのもあった気がする。ここもそうなのか?

 最近はひたすら歩くだけで退屈だったから、楽しくなりそうだ。


 ↵


 それから半年が経った。


 ↵


「カサカサ」

「ウホホホ! ウキャー!」

 オレ、虫、ミツケタ。ラッキー。

 虫、マズイ。

 デモ、栄養、アル。


「チュー! チュー!」

「ウホウホ! ウガー!ウガー!」 

 デカネズミ、敵。

 オレ、タタカウ。

 オレ、勝ツ。

 ネズミ肉、オイシイ。


「ビービーガガガ」

「ウガガガガ! ウガァァーー!」

 ガラクタ、ヤバイ敵。キケン。

 スゴク硬イ。スゴク強イ。

 デモ、勝ツ、必要。

 銀ノ血、必要。


「ウララララララーー!」

 オレ、勝ッタ。

 銀ノ血、飲ム。

 マズイ、デモ、オイシイ!!


『ナノメタルを200ml獲得しました。予約中の回路製作にはあと300ml必要です。次のメモリ拡張にはあと46500ml必要です』   


 ヘルプシステムの報告音声で、ちょっと冷静になる。


「飽きたな、原始人ごっこ」


 俺は4足歩行をやめて人間に戻ったぜ。

 ホモ・サピエンスに戻った、とは言えないらしいというのが最近思い知らされているところだぜ。この体にはいろいろ不思議な機能があるから、ヒトと呼べるかは怪しいところだぜ。

 

「ナノメタルも貯まってきたなぜ。次の回路作成が見えてきたぜ」


 ナノメタルはここで目にする生物たちすべてが体内にごく少量含有している不思議な液体金属だぜ。これは非常に重要なもので、回路製作やメモリ拡張ができるぜ。

 ネズミや虫などはほとんどゼロだが、たまに遭遇する殺人ロボットはまとまった量を持っているぜ。強い個体ほどナノメタル量は多いぜ。

 ここにいる生物はたまに超能力としか考えられないような力を持っているのだが、その力の源はナノメタルなのではないかと考えているぜ。瞬間移動みたいに素早いネズミや、衝撃波みたいな鳴き声を放つネズミがいるぜ。ネズミより多量保有している殺人ロボットは、あとで解剖してもどこにもそんなパーツなんて存在しないのに、重力やビームを操ってくることがあるぜ。ナノメタルがあるとかなり非常識なことが起こせるようだぜ。

 そしてそれは俺も同じぜ。俺の体の場合、ナノメタルを一定量割り当てることで、特殊な現象を起こす「回路」を製作・使用できるようになるぜ。そして大量に貯まると「メモリ拡張」がおきて、回路の起動数・実行力が強化されたり、新陳代謝や脳機能が強くなったりするぜ。RPGでいうところのスキル習得やレベルアップみたいだなだぜ。


「もうひと狩りいくかぜ。そろそろ工場区画に新しいのが侵入してる頃だぜ。我が聖剣の錆にしてくれるぜ」


 俺は鉄パイプを握りしめ、金属制御回路『フルメタル錬金術師 ver.2』を実行して剣をつくるぜ。体内のナノメタルが指先から流れ出し、鉄パイプにまとわりついて剣の形状に固まるぜ。見た目だけなら立派にエクスカリバーだぜ。斬れるほどの鋭さに成型することはまだできないが、どうせ殴打でぶっ壊して倒すのでこれでいいぜ。

 この世界に来てもう長いぜ。武器が手に入ってからは狩りも安定しているぜ。

 最初の頃、ネズミにすら手こずっていたのと比べればかなりの進歩だぜ。


 ↵


 1ヶ月が経った。


 ↵


 虹色砂漠に来ましたわ。


「今日は宮殿を作っていきますわよ」


 いままで作ったお回路でいちばん素晴らしいのが、圧縮結晶解除お回路「急速解凍マッハくん」ですわ。

 これはカプセルクリスタルという空間圧縮結晶に封じられた物体を取り出すことのできるお回路ですの。

 カプセルクリスタルというのは数センチ大の虹色の結晶のことですわ。なんのこっちゃ何につかうモンやねんと思いましたけれど、そのクリスタルというのはすでに見知ったものだったのですわ。

 そう、虹色砂漠にぶちまけ遊ばされている結晶ですわ。あの膨大な数の結晶のひとつひとつがカプセルクリスタルだったのですわ。


「お解凍、ポチッ」


 カプセルクリスタルが輝き、膨張して、工業用アームのようなものがドスンと落ちてきましたわ。というかほぼそのまんま工業用アームですわ。これ自体に少量のエネルギーが充電されていて、数十分ほどだけ動かすことができますわ。ちなみに動かすには遠隔操作回路が必要でしたわ。

 これで何を作るかというと、宮殿ですわ。

 材料ならいくらでもありますわ。ここの砂漠のクリスタルすべて、この工業用アームが入っていますわ。アームまみれですわ。アームというひとつの素材だけで宮殿を作ってみますの。前衛おアートですの。

 最初のころはこのアームで別の区画に移動するための道をつくったり建設的なことのために使っていましたわ。横に移動するだけじゃなく天井にある亀裂から上方向に移動することもできるようになりましたわ。でも、どこまで行っても脱出できないのですわ。水平に500km、上方向に10kmまでは数えたところで、飽きましたわ。

 私は芸術の道に生きますわ。

 この虹色の砂漠にステキな宮殿をつくるんですの。

 …

 …

 …


「飽きましたわ」


 3日かけましたらね、飽きましたわ。途中までは楽しかったんやけどね。

 こんな工業用アームで宮殿なんか作れるわけないやろっちゅう話ですわ。なんやガラクタのこんがらがったチンケなモンが、砂漠区画のほとんど埋め尽くしとりますわ。

 誰が片付けるねんこれ。

 ……まあええか。どうせ移動すればええし。どんだけゴミ出してもウンチブリブリしても移動すればハイサヨナラやからな。

 

 ↵


 1ヶ月が経った。


 ↵


「ウィーッス、ドーモー!

 はいということでね、今日はね、ガラクタロボット100体を鉄球にしてみた、やっていきたいと思いまーす!


 ということでね、集めておきましたガラクタロボット100体!

 いや~、大変でしたねえ~、なんといってもここに持ってくるのが大変でしたねえ、まあ最近はなんか地震が多くてたくさんやってくるから数だけはなんとかなったんですけどもね、ここの区画に持ってくるのが大変でした! いやあワタシ自分を褒めてあげたい!


 ということでね、始めていきます鉄球づくり!

 ここで取り出しましたるはね、ドン!!

 金属操作回路、フルメタル錬金術師ver9.9!! 

 どど~ん! パフパフ!

 いやーすごい! ver9.9ですよ9.9!! 

 ここにいたるまでも物凄い苦労があったんですよお! そのナミダナミダの達成物語はね、こちらに投稿した、液体金属操作回路、限界まで強化しちゃったらどうなるの、耐久配信!で、見ることができますのでね、はい、よかったら視聴してみてくださーい、はい。最近動画制作回路が強くなってね、動画データ化した視覚情報を編集もできるようになったのでね、動画の方にも手を出してみました。よかったらそちらもね、お願いしますねー


 ということでね、さっそくやっていきましょう!

 鉄球づくり!

 ええ、鉄球づくりね。

 まずはね、芯になる部分を作っていきたいと思います、これがコツなんですね、さっそくね。


 お、よっと。

 よいしょ、よいしょ……。

 あれ、これでいけるかな。

 ……。

 ……。


 なんか……ちっさ……。

 ……。


 ……地味。

 ………………………………。 


 ↵


 1ヶ月が経った。


 ↵


 ボクの日常は毎日がエブリデイ。

 ナウのトレンドはこの緑豊かなジャングルでのティータイム。

 大地由来のイオンミネラルウォーター、無垢なる果実の皮ごとピューレ、そしてエネルギッシュな植物のエッセンスを加えて……

 めしあがれ、100%エコサスティナブルなグリーンスムージー。

 日課の30kmウォーキングのあとにこれを一杯。それがデキる男のモーニングルーティーン。


「チュー! チュー!」

「ギギギガガガ」


 おっとやんちゃなチャレンジャーたちのサプライズだ。

 デキる男は慌てない。慌てず騒がず鉄パイプをスイングスイング。ほおら大人しくなった。

 今日の食事はちょっとしたアクセントで日常を刺激しよう。

 マウスミートBBQ、これにナノメタルのタレを付けて焚き火にイン。仕上げはマシンオイルをたっぷり使用した油でじっくり20分低温調理。

 まだ……まだ……


 ──今ッ!!


 フゥ、完成。

 カリッと仕上がった香ばしさはまさに格別。

 小さな生命の素揚げ、都会の風仕立て。

 さあ、めしあがれ。


「う~んんん、…………テイスティ♡」


 ↵


 半年が経った。


 ↵


「ウィッスドモーはいということでね、今日はね、ガラクタロボット999体、鉄球にしてみた、やっていきたいと思いまーす!」


 ↵


 そして、5年が経った。


 ↵


 我は無。

 我は虚無。

 我は退屈。

 我の退屈の根底には孤独があるなり。

 咳をしてもひとり。寝てもひとり。食ってもひとり。糞してもひとり。

 我は新たなる生命を創造することにしたなり。


 ナノメタル操作回路「フルメタル錬金術師ver大総統」による鉄加工と鉄糸操作。

 圧縮結晶解凍回路「時空解凍クロノスくん」によるサイズ縮小解凍。 

 機械操作回路「デウスエクス牧野」による繊細なアーム運動。

 そして幾度ものメモリ拡張をはたした頭脳による複雑な回路操作。

 神の如き力を手にした我にとって、新たなる生命の創造などたやすいことなり。


「舞台は整った……」


 祭壇にはすべての材料が揃っているなり。

 矮小な機械から削り出した骨。

 鉄の肉。

 関節となる10センチ大の工業用アーム。

 葉を縫い合わせた皮膚。

 顔には表情筋として3センチサイズで解凍された工業用アームが整列。


「いでよ……和が忠実なる下僕よ……」

『……』

「いでよ……和が忠実なる下僕ヘルプシステムよ……」

『はい、ヘルプシステムです。なにかお困りですか?』


 ククク……成功なり。

 その瞬間、新たなる命は動き出したなり。

 横たわっていた状態から起き上がり……起き上がり……もうちょい……

 あ、転んだ、くそ。

 まずは手を地面につかせて、右脚、左脚……よっしゃ。

 で、お辞儀の姿勢……腿を付け根から曲げて……いや、腰も後ろに引いて重心バランスをとらないと。で逆に戻して、よし。そして笑顔の表情パターンを……うわ怖。無表情でいいや。

 我が下僕は完璧な礼で我に忠誠を示したのであった、なり。

 この肉体には、英知の使徒の魂を与えたなり。


「英知の使徒よ、気分はどうだ」

『……』

「英知の使徒ヘルプシステムよ、気分はどうだ」

『はい、ヘルプシステムです。なにかお困りですか?』

「おまえには肉体を与えたなり。これよりお主は我が相棒として生きるなり」

『……』

「ヘルプシステム、これから朝8時には『おはようごうざいます、ご主人様』という音声でアラームをかけるなり」

『いいえ、実行できません。ヘルプ機能の範囲外です』

「……ハァ。じゃあ回路作成、タイマーアラーム。回路作成、音声編集。条件で結びつけ……ヘルプシステムの音声を録音して編集してタイミングをはかって音声が出るようにして……いや、ヘルプシステムって脳内音声か? 聴覚神経じゃなくて脳内から認識を吸い出す? ……めんどくさ」


 その瞬間、冷めた。

 俺は何をやっている? 新たなる生命? 肉体に魂を与える?

 馬鹿じゃないのか。ガラクタを素材にして人形を作って、ヘルプの声にあわせて上辺だけ動いているようにみせて……こんなのはひとり遊びだ。

 すべてが虚しくなった。

 頭の中でなにかのバランスが崩れる。

 急に体から力が抜けた。

 気力がなくなっていく。なにもかもどうでもいい。

 俺は倒れ込んだ。


「答えろ、ヘルプシステム。ここはどこなんだ」

『広域ネットワークに接続失敗しました。情報を取得できません』

「俺はいつになったらここから脱出できる」

『情報を取得できません。質問にお答えすることができません』

「ここは本当に脱出できるのか。外はあるのか」

『情報を取得できません。質問にお答えすることができません』

「この世界に、ほか人間はいないのか」

『情報を取得できません。質問にお答えすることができません』

「俺は一生、ひとりなのか」

『ヘルプシステムは初心者用の介助機能です。高度な情報をお伝えすることはできません』

「教えろ、俺はこれから、どうすればいい」

『あなたは好きなことがなんでもできます。自分の力で行動し、望む場所に行き、自由な生活を送ってみましょう』


 視界が白く染まった。

 激怒。苛立ち。

 気がつくと、せっかく苦労して作った人形はぶっ壊れてバラバラに飛び散っていた。


「答えてくれヘルプシステム」

 転がった頭部に聞く。

「この世界に……アセンブルコアはあるか?」

『情報を取得できません。質問にお答えすることができません』


 俺は頭部を踏み潰した。

「消えろ、役立たずのクソシステム」 


 こうして自作自演の人形遊びは失敗に終わった。

 ヘルプシステムはこの日以降、何を聞いても答えを返さなくなった。

 消えたかのように。


 ↵


「潰す、潰す、潰す、潰す、潰す、潰す……」

 ただガラクタロボットを壊していく。

 10体、20体……途中から数えることもやめた。

 最近は地震が多く、ガラクタロボットの数も多い。


「潰す、潰す、潰す、潰す、潰す、潰す……」

 俺はいま、怒っているように見える。狂っているように見える。

 だがこれもただの暇つぶしだ。

 山のようにやってくるガラクタロボットを、壊して壊して……

 いちどに10体以上のガラクタに囲まれても、何も感じない。危険とも思わない。

 すべてスクラップにする。惰性でナノメタルを飲み干していく。


「潰す、潰す、潰す、潰す、潰す、潰す……」

 本当は、わかっていた。

 俺は孤独だから苦しんでいたわけではない。

 退屈なだけだ。

『本当にやりたいこと』ができないから、退屈なだけだ。


「潰す、潰す、潰す、潰す、潰す、潰す……」

 避けていた。

 考えないようにしていた。

 違う人生を送ろうと思った。

 もしかして、俺は『あれ』のせいで不幸な人生だったんじゃないか。

 あれにつぎ込む時間を別のなにかに使っていれば……もっと幸せな人生を送っているということも、有り得たんじゃないか。

 あれの代わりに……ほかに何か好きなことを見つけることも、有り得たんじゃないか。 


「つぶす、つぶ……」

 だが俺は同じだった。

 変わることなんてできなかった。

 2度めの人生でも、嫌になるほど同じだ。

 俺の魂は、ずっと、同じものを求めている。



「……アセンブルコアが、やりたい」



 セーブデータを消して最初からやりたい。ナンバリング最初から最新作まで一気にプレイしたい。機体構成を考えるのに半日使いたい。ブレードオンリーで全パイロット撃破したい。全身ミサイル装備にして撃ちまくりたい。ガトリングをずっと撃ちっぱなしの脳筋プレイがしたい。最軽量機体でブッ飛びたい。ジェネレータのかぎりブースタをふかしたい。ガチガチタンクで全く避けずに蹴散らしたい。構成を考え抜いて装備固定で全ステージをクリアしたい。負けイベントを無理やり勝利したい。初心者傭兵になりきって成り上がりロールプレイしたい。ボスを瞬殺して決め台詞をスキップして退場させたい。必ず一度は任務失敗して敗北演出をすべて回収したい。強敵をノーダメージクリアして特殊な台詞を聞きたい。好敵手と同じ機体タイプでぶつかり合いたい。ロマン武器でとどめを刺すために体力調整に苦労したい。高評価クリアしてオペレーターをデレさせたい。任務を失敗してオペレーターに叱られたい。すぐ突撃する雑魚僚機を死なせないようにクリアする介護後衛プレイがしたい。女パイロットはぜったいに殺さない騎士プレイがしたい。協力ミッションで味方を裏切って全員敵に回してクリアしたい。金をつぎこんで大砲だらけの要塞を建築したい。あらゆる敵を想定した対人向け要塞を編集したい。立派な要塞を散歩してすみずみまで眺めていたい。決闘ステージだけしか無いタイマン要塞で敵を待ち受けたい。4人部隊をひとりで迎撃する強者プレイがしたい。ボロボロに不利な戦いがしたい。負けて煽りメッセージをもらいたい。同じチームにリマッチして返り討ちにしたい。パーティー用の巨大兵器を独力で破壊したい。逃走前提の凶悪エネミーを実力で撃破したい。作り込まれたメカデザインを舐めるように観察するだけして敗退したい。無人機の戦闘プログラム構築で一週間すごしたい。無人機だけに戦闘を任せるオペレーターごっこがしたい。最強無人機と部隊を組んでトップランク部隊と対決したい。無人機を非戦闘ロボットのように振る舞わせて護衛プレイがしたい。無人機をストーリー進行度に合わせて強化してラスボスへのとどめの一撃を任せたい。世界一のパイロットの座を競いたい。強クランの所有領地を奇襲して奪いたい。無人だと思って奇襲装備で来るやつらを返り討ちにしたい。本気の決戦マッチをギリギリのところで勝利したい。初心者相手に接戦を演出して良い気分で帰らせたい。トップランカーと死戦を重ねて友情を育みたい。環境数値を超リアル仕様にして操縦して四苦八苦したい、制限無しにしてカッ飛びたい。あいつの調整した数値で新鮮な戦場を駆けたい。VR設定を現実値にして地獄を味わいたい。機体ペイントにこだわってカッコイイ機体をつくりたい。渋い機体に萌えキャラペイントを貼り付けたい。ステージに合わせて最適な迷彩ペイントを揃えたい。現実の私服と似た外見を作りたい。正義感の強いキャラの悪堕ち機体を考えたいし逆もしたい。ストーリー初見攻略時の機体を対人用にアレンジしたい。中二全開のビジュアル重視機体を作りたい。徹底的にリアル路線の機体を作りたい。神話の名前をテーマにして装備構成を考えたい。難しいことを考えず、ただ自由に戦いたい。


「もういちど、アーマーに乗りたい……」


 そのとき、また地震がおこった。

 いや、それはいままでの地震とは違った。

 轟音。激震。くらべものにならないほどの衝撃だ。

 傾いている。慣性を感じる。区画ごと移動している? あの、全方位すき間なくつづく区画が……移動できるほどの空間などないはずなのに?

 さらに天が割れるほどの衝撃。

 いや、文字通り天は裂けていた。

 そして、女神は現れた。


『そこのプレーン、何者だ? なにをしている? 所属と目的を言え』

 

 俺は見とれていた。

 割れた天井から見えたのは、鉄の巨人だった。

 鋭角的なフォルムのダークレッドカラー。スピード重視の印象を与える、細い体型のフレーム。鳥を思わせるブースタウィング。アームには巨大なライフルらしき兵器がある。頭部の複眼のようなカメラがこちらを刺すように向いている。

 それは明らかに戦闘用の人型兵器だった。

 それはアセンブルコアというゲームで登場するロボットによく似ていた。


 それはアーマーだった。


 俺の魂が最も愛するものだった。

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