「さすがは私の旦那様」

「源様、夕飯の支度が完了いたしました」

「……ありがとう」


 あの日から、数ヶ月が経った。具体的にどれだけの日数が経ったのかはよくわかっていないが……それなりに長い日数が経ったことは分かる。


 この数カ月間、俺は何もすることなく過ごした。目指していたハーレムの計画も、帝になる計画も、停滞している。

 ただ用意された飯を食い、寝る。空とは必要最低限の会話のみ。葵のところへはその間全く行っていない。


 頭の中にあるのは、彼女たちのことと、謎の声のこと。謎の声に関しては、あの日以来聞こえていない。声の主が誰なのか、何が目的なのかもわからない。


「ないないづくしじゃないか、はは」


 乾いた笑いがこぼれる。最近は、以前の俺はどうやって生きていたのか、なぜハーレムを目指していたのか。それすらわからなくなってきた。


 ぐぅぅ、という情けない腹の声が鳴いた。こんな状況に置かれてもなお、腹は減る。生きたい俺は、用意された飯を食う。


 ダンダンダン!


 急に、宮殿にそんな音が響いた。


「な、葵様、どうしてここに」

「どうだっていいじゃない。それに、私は正妻よ!」


 部屋の外から、そんな会話が聞こえた。……葵?

 バンッ!と力強く扉が開かれる。疑問の答え合わせはすぐになされた。


「迎えに来たわ、源!!」


 この時代の女性にあるまじき軽装をして、堂々と葵は言い放った。


「三ヶ月も私に会いに来ないなんて、どういう了見なのかしら!?」

「そんなに経ってたのか」

「えぇ、ついに私に愛想を尽かしたのかと思ったわ」

「そんなことは」

「えぇ、ないでしょうね」


 実際、そんなことはなかった。けれども、葵がここまで言い切れる子だとは正直思っていなかっただけに驚きを隠せない。


「だってアナタは私の旦那様で、私との約束は絶対に破らないから。短い間だけれども、アナタの中にあるその“愛”は確かに感じていたから」

「!」


 それはなかなかに恥ずかしいセリフではあったが、確かに俺に響いた。


「私を傷つけないよう丁重に扱うアナタが、私をここまで放置してくれちゃうなんて意外だけど……もしかしたら、傷つけないようにした結果放置してるんじゃないか、って可能性もあることに気がついたわ」


 確かに、そのとおりだ。俺と関わることで、葵が前世の記憶を取り戻し今の葵がいなくなるのを俺は恐れた。


「だからムカついたわ。アナタは私のことをわかっているようで、なんにもわかってないってことに気がついて」

「……え?」

「私は、何があろうと、アンタを愛しているし、アンタに付けられる傷も、私にとってはご褒美よ!!」

「えっ」


 とんでもないことを言い放つ葵。「私はドMです」と言い放っているのと同じじゃないか。


「っふ、ふふふ」


 堪えられなかったのか、隠れていた空が笑いをこぼした。


「だ、誰よアンタ!?」

「あら、はじめましてだったわね、ごめんなさい……貴女と同じ、源様の恋人の一人よ」

「なっ……源アナタ、私とは会わず、この女と一緒に暮らしてたってわけ!?」

「あぁ……そうなります」


 葵には伝えていなかったか。


「そんなの――」


 どんな罵詈雑言が飛んでくるのかと、正座になって身構える。


「ずるい! 私もここで暮らす!!」

「は?」


 予想の斜め上の発言に、そう言わずにはいられなかった。この世界の女性は、あまりそういうことを言わない人が多いのだ。


「何? 嫌?」

「そんなことは……」

「ないいじゃない。明日から私もここで暮らすわ」

「えぇ」


 有無を言わさない葵の様子に、頷くしか俺にはできなかった。


「というか、さっきは変な言葉になったけれど、要するに言いたいことは――私から逃げないでってこと」

「……っ」


 正直ちょっとばかり救われた。確かに俺は、葵を傷つけて、遠回しに殺してしまうことを恐れていた。それは葵のことを思っているようで、結局は自分のために逃げているだけだ。本当に葵のことを思うなら、するべきことなど決まっていたはずなのに。


「ごめん、葵」

「あら、ようやく自分の過ちに気がついた?」

「あぁ、ありがとう」

「さすがは私の旦那様よ」


 葵は少し照れくさそうに笑った。葵のお陰で、大事なことに気がついた。こっからは、もうくじけない。折れない。

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ハーレムを目指してヤンデレに刺された俺、二度目の人生で完璧なハーレムを目指す。 桜城カズマ @sakurakaz

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