残る衣服、されど届かず
偶然にも見つけることができた倉庫に隠れてやり過ごしていると、すぐに日が落ちて夜がやってきた。
これから俺がすることは唯一つ、空を俺のものにすること。
――のつもりだったのだが。
「すぅ……すぅ……あぁ、源様……」
俺の横で気持ちよさそうに裸で寝ている軒端荻を見て頭を抱える。
視界の端に映るのは、荻のものではない別の女性の衣服。なぜそう断定できるのか。それには見覚えがあったからだ。日が落ちる前――すなわち俺が空を覗き見た時――に見たときに空が着ていたそれとことごとく一致している。
「逃げられたのか」
日が落ちて、皆が寝静まったところを狙い空達が寝ている部屋に侵入することはできた。そこまでは完璧だったのだ。
しかし暗闇の中、俺のことを避けている女性を探すことは困難にあたり、時間をかけている間に俺が侵入したことがバレたのか、上着を一着置いて逃げたらしい。
そしてその上着をどうにか暗闇の中見つけた俺は、「空を見つけた」と信じ布団に飛び込んだ……結果がこれだった。
なんとも滑稽なお話だ。想いを寄せている女性の衣服だけで簡単に騙されてしまうなんて。というか衣服だけで空だと断定した俺マジでバカ。
「ん、んん……? どうされました、源様?」
「あぁ、悪い。起こしてしまったか」
「いえ……んぅ」
寝ぼけた眼をこすりながら、俺を抱きしめるようにして再び荻は寝息を立て始めた。
面倒なことになった。完全に落ちてしまっている。
前世、今世合わせていくつもの女性と関わりを持ってきた俺にはわかってしまった。
「へへ、
「……」
抱きついたまま、寝言を口にする。
俺には嫁である葵がいることはみんなの知るところだ。しかしながら、愛人はそうではない。噂にはなっているものの、その事実関係を知る者はほとんどいない。現に、愛人として娶ってほしいと言い寄る女性は数多く存在する。
しかしながら、俺はそのことごとくを断っている。
ハーレムを作りたい俺が、愛人としての求愛を断ることは矛盾している。それはわかっていることだ。しかしながらそれは、俺は俺が可愛い、愛したいと思った女性だけで構成されるハーレムであって。テキトーにこの世の美女を集めた状態を指すわけでは断じてない。
だからこそ、面倒なことになった。この女性を俺はハーレムの仲間として迎え入れたくない。こう、惹かれるものがない。にも関わらず荻は俺を求め、それに俺は応えてしまった。元はと言えば俺が悪いのはわかっているが、それでも面倒なことには変わりない。
どうしたものかと頭を抱える。正直今すぐにでもここから立ち去り、空を探しに行きたいところではあるが、荻は存外力が強く俺を離そうとしてくれない。
寝る気も起きず、手慰みに空の置いていった衣服を掴む。そっと口元にそれを寄せてみると、空の匂いがした気がした。
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