疑問
「……? 気のせいかしら」
柱の裏に隠れて様子を伺っていると、空が出てきた。彼女は俺が先程まで潜んでいたところをしきりに確認する。
「どうかしましたか、空様?」
「いえね、なにか人の気配がして」
空、結構勘が鋭い。そういえば前世でも俺がいろんな女の子と付き合っていることに誰よりも早く気づいていたからな。
前世とは全く変わらない整ったその顔に、思わず飛び出そうとする体をどうにか理性で押さえつける。
「もう、怖いことをおっしゃらないで。さ、碁の続きをしましょう」
「……いえ、今日はもうお開きにしましょう。日も落ちかけていますし」
「ちぇー。わかりましたわ」
ちらり、と空と目が合ったような。こちらを見たような気がしたのは、気のせいだろう。
「ふぅ……」
「こちらにおられましたか、源様」
「うぉっ!?」
「ちょ……!」
不意に話しかけられたことに驚いて、大きな声を出してしまった。それがよくなかった。
「やっぱり誰かいる!?」
声の主は空ではない。
「「!?」」
バン!と大きな音を立てて勢いよく戸が開かれる。次に、どんどんどんと激しい足音がこちらに近づいてくるのがわかった。
俺と陸は二人抱きしめるようにして、空たちがいた部屋からはぎりぎり見えない角度で柱の裏に隠れる。
「荻、品がないわ」
「こんな時に品なんて言っていられません! 不審者がいるかも知れないのですよ!?」
荻は酷く錯乱した様子で言う。それに対して空は、酷く落ち着いている。まるで不審者が侵入していることなど最初から気づいているように。
「きっと陸がなにかやらかしたのでしょう。ほら陸、出てらっしゃい」
「あ……」
一瞬の戸惑い。陸が出るか出まいかと判断を俺に尋ねるような視線を送る。
俺は即座に頷いて、陸に出ていくよう肯定の意を示す。
「ご、ごめんなさい姉様方」
陸も同様に頷くと、てへへと頭をかきながら出ていく。
「ほらみなさい」
「ほ、ホントだ……でもあんな声陸から……」
「ちょっとコケてしまって。ああでも怪我はありませんので! ほら、お部屋に戻りましょう」
「えぇ、そうね」
荻は少々引っかかる部分があったようだが、空はすぐに陸の言う通り部屋へと戻っていく。違和感を覚えていた荻も、二人のその様子には納得せざるを得なかったのか、「まぁ気の所為でしょう」と部屋へと戻っていった。
「はぁ……けどあれは気づいてるな……」
空のあの様子。あれは完全に俺がこの家に入っていることに気づいている様子だった。
しかしどうして空は俺に手を貸すような真似を……?
疑問は残るものの、ひとまずは助かったのだ。これは幸い。すぐに場所を変えて空と二人きりで話せるタイミングを伺おうじゃあないか。
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