作戦会議
「しかし源様、紀伊守邸へ赴くと言っても、入れてもらうことはできないのでは?」
陸は思いの外切り替えが早く、すぐにそんな意見を出してくれた。
確かに、なんか用もなく血縁関係でもなければ友という間柄ではない相手の家に押しかけるというのは、前世でも今でもよろしくない。
「もちろん。だから、忍び込む」
「しのっ……!? お言葉ですが源様、それは野党紛いのことをなされると」
「あぁ、そうなるな。しかし女に会うだけで、盗みやら殺生やらをするわけじゃない。許されるだろうよ」
「しかし……いえ、わかりました」
陸は少々迷いながらではあるがそれを了承する。
意外と扱い易くて助かる。
「そうなると時間帯は夕暮れ時がよろしいかもしれません。それと、近々紀伊守様は邸宅を開ける予定があったと記憶しています」
「へぇ、それはなかなか」
思っていたよりも陸は俺のことを助けてくれるつもりらしい。
「ではその通りに。あぁそれと、手紙はまた
期間を空けている間に愛が冷めたと思われたり、俺のことを忘れたりしてしまわれては困る。いつであっても俺のことを考えさせる。
「わかりました。ではそのように……」
陸はどこまでも従順で、面倒くさい手紙を届けるという仕事もしっかりとこなしてくれようとしているようだった。
「なぁ、陸はどうして俺に尽くしてくれるんだ?」
気になって聞いてみることにした。
「源様のように美しい方に仕えることほど幸せなことはありません。それに加えて、このような衣装もいただけた上に、ご飯だって良いものを下さりました。これで尽くさなければ、お家の恥というものです」
「やっぱり見立て通りだな」
「え? あ、ありがとうございます」
どうやら、俺が初見で感じた「育ちの良さ」は間違いじゃなかったらしい。
今でこそこのようにそれほどいいとはいえない身分にあるが、元々はもっと良い家柄だったのかもしれない。
それが何かの拍子にあのような……もしかしたら、これが梅雨の時に言っていた「中流」というやつかなのか。
「さぁ、作戦は決まった。紀伊守がおらぬ間に夕暮れに紛れ込み、空を口説き落とす。そして俺の物とする。協力してくれるな?」
「はい、わかりました!」
陸は俺を見上げて力強く頷いた。
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