空蝉
手紙を送って
「だめでした」
陸は戻ってくると開口一番にそう言った。
手には俺が渡した手紙が折り目をつけたものを握っている。
「そうかぁ、それは残念だ」
「その……ごめんなさい、こんな衣装まで頂いたのに」
言って、手紙を持って言っている間に用意した衣装を着ながら、申し訳無さそうに頭を下げる。
「それくらい大したことないよ。そのうちちゃんとしたものを用意しよう」
陸が着ている衣装は、俺のお下りだ。サイズが丁度合うようで良かったが、しっかりと陸用の衣装を用意してやろう。
というのも、陸は今帝から「俺の従者としてなら、作法見習いとしての出仕を認める」と言われており、日常の多くを陸と過ごすことになっている。
そんな陸がみすぼらしくては、あらぬ噂やらがたつかもしれない。それはゴメンだ。
ということで、別に気にしないでほしいのだが、陸はどうもそうは行かないらしい。
「そんな衣装いただかずとも……僕はこれで十分でございます。姉上にも、申し訳が……あぁいえ、失言でした。忘れてください」
「ほう……なるほど」
どうやら、姉である空への後ろめたさがあるらしい。道理で。
「なぁ、空は俺のことをなんと?」
「えと、源様のこと、というわけではないのですが……『あのように美しい文はは見るべき人がおりません』と」
「なるほどなぁ」
空も空で、かなり及び腰らしい。そう考えると陸と空はやはり似ている。
手紙送ったところで、読まれなければ意味がない。
現代で言うならLINE送ったけどブロックされてるみたいな。
しかし、それなら……手段は一つ。
「――わかった、手紙作戦はやめよう。直接会って話をする。いついかなる時代であっても、これにまさる手段はあるまい」
「な、大丈夫なのですか!? あのときは方違へということでいらしていたのでは……」
「なぁ、陸。大切なことを一つ教えてやる」
「はい?」
「ほんとにその女を自分のものにしたいのであれば、環境のせいにも他人のせいにしてもいけない。その女を自分のものにできないのは、自分の技量が、心意気が足りてねえんだ」
「はぁ」
なんて、陸はよくわからないといった様子の表情をしている。
俺は誓ったのだ。今度こそ完璧なハーレムを作ると。
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