変わらない気持ち
「コホン」
ひとしきり済んだ後、咳払いを一つして六条が話し始める。
「……あれくらいで
「だろうな」
「本当は今すぐにでも葵ちゃんも藤も殺してやりたい……けど、今のわたしには立場というものもあるので……先ほどのアレにも免じて、今は殺すのは我慢してあげます」
六条は着物の内側から小刀をするりと出したかと思えば、ちゃき、と一瞬だけ刃を見せてから再びしまう。
「ん? なんで藤が出てくるんだ?」
「知ってるわよ、関係を持ったんでしょう?噂にもなっていたし、貴方ならやりそうだと思ったもの」
「……」
さすがは前世の記憶を持っているだけある。
「言いたいことは、話したいことはそれだけ?」
「……ああいや、もう一つ言いたいことがあった」
「何かしら?」
「今度こそ六条も葵もみんな、幸せにしてやる」
「……」
俺が言うと、少し黙り込んで。
「できるといいわね」
鼻で笑うでもなく、蔑んだ目をするでもなく。
ただ淡々と、そう言うのみであった。
「それじゃあ、俺もここら辺で退場しようか。また会おう」
「えぇ、また……あぁ、そうそう」
去り際、六条は思い出したように話す。
「
「いや、まだだけど……」
「今夜は
方違へ。
それは要するに、「進む方角に神様がいるから避けて通ろう」というものだ。
しかし、今夜が方違へだなんて、よく知っていたな。
「えぇ、貴方のことならなんでもわかるし知ってるわ」
「お、おぉ……」
ふふふ、と少々不気味に笑う六条を背に、俺は部屋を後にする。
「む~~~~!!」
「おわっ?」
部屋を出ると、いきなり何かがぶつかった。
「いたっ!?」
その何かは俺の脛を容赦なく蹴り上げる。
「おぉぉぉ……」
凄まじい痛みに耐えかねて、俺は座り込んで脛を押さえてさする。
痛いいたい……。
「浮気ですか! さっそくうわきですかぁ!!?」
痛みに意識を持っていかれて気がつかなったが、俺の脛を蹴った犯人は俺の嫁だった。
「……もしかして聞かれてました?」
まずい、前世のことやらなにやら、聞かれてはいけないことをたくさん聞かれてしまったかもしれない。
「詳しくはあまり聞こえませんでしたけど……しっかりと接吻をしていたのは聞こえました!! 許せません!!」
「そ、それは申し訳な……」
「私が一番なんです! さぁ、私のお部屋へ! 速く! 迅速に! 上書きしなければ!!」
葵は俺の袖を引っ張り、部屋へと連れて行く。
後ろからした殺気のようなものには気がつくことなく。
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