アハッ、やっぱり素敵な関係ね

「――それで、話したいことって何かしら、

「……」


 六条は今、明確に俺のことを「ひかる」と呼んだ。

 光。それは俺の前世の名前。

 それを呼んだということは、ここからは前世の記憶を持つもの同士の会話となる、ということ。


「黙ってちゃなにもわからないわ」


 話したいことはいくらでもある。

 でも、まずは。


「何人だ」

「十六人。殺した人数でしょう? アハッ、述語がなくても通じ合える。やっぱり素敵な関係ね、わたしたち」

「……」


 先程までのクールな笑みとは一転、歪んだ、狂気的な笑みを浮かべる。

 十六……全員だ。俺が関係を持っていた女の子をみんな、殺したということか。


「どうして殺す必要があったっ!?」

「そんなのわかりきったことじゃない。貴方を後悔させるため。貴方に同じ過ちを犯させないため……」


 言いながら俺に歩み寄る。


「――貴方にわたしだけを、愛してもらうため」


 俺を後ろから抱きしめると、耳元で囁く。

 ふーっ、と俺の耳を吐息で撫でられ、ペースが完全にあちら側にあることを悟る。


「ねぇ。わたしからも一つ、聞いてもいい?」

「……なんだ」

「貴方が前世で殺された後。葵ちゃんたちがどんな反応をしたか、わかる?」


 言われてみれば。

 そんなこと、想像もしたことがなかった。

 俺の死を悲しみ、泣いたんだろうか。それとも、何人もの女の子と関係を持っていたことに怒りを抱いたのだろうか。


「みんな、まずまっ先にわたしを恨んでいたわ。愛されていたのね、妬ましいほどに」

「……そうか」

「でも、みーんな殺してあげた。まさか、葵ちゃんまでこっちにくるのは予想外だったけど……これが愛のチカラってやつ? すごいなぁ」

「……」

「ねぇ、どうして黙ってるの? さっきから口数も少ないし。そんなにわたしのことが嫌い? それとも怖い? また殺されちゃうかもって思ってる? ごめんね、痛かったよね、わたしもすごい痛かった。ねぇ、許して。ゆるしてよ。――……んぅっ!?」


 まくしたてた六条の口をふさぐ。

 俺が六条のことが嫌い? 怖い? 痛かった? あぁ、めちゃくちゃ痛かった。

 けど。


「――言いたいことは、それだけか」


 俺がどれだけ六条のことを愛しているか、殺されてもなお、想いが冷めることがなかったのか、それを俺の全霊を持って伝える。


「んっ、んんぁ、ん~!?」

「はーっ……なぁ、教えてくれ」

「はぁはぁはぁ……な、なにを」

「俺のことをまだ憎んでいるか」

「そっ、それは……」


 六条の温かい両手を、つつむように握りじっと瞳を見つめる。

 六条は頬を紅潮させながら目をそらす。


「教えられないか?」

「~~~~っ! も、もういっかい」


 六条は、最初のクールさも、さっきまでの棘も削れて。


「もういっかいキス、してください」


 ただの女の子になっていた。

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