俺、女性談義に加わる①
「成り上がりというのは、もともと高貴な貴族ではありません。だからこそ、世間の人からも違ったように見られるのです。それに、没落した貴族などは、世間からの評判は落ち、経済力もなく、都合の悪いことがたくさん出てくる。ですので、これら二つは中流とするべきでしょうね」
きっとこの手の質問は得意中の得意なのだろう。
左馬頭は続ける。
「地方の君主の中には、他人の国を治めながら、中流の地位を占めさらにその中に段階を作り、そこからそこそこの者が出てくる時世であります。並の権力者よりも、それより少し下の地位でありながら、世間の評判もよく、家柄も悪くなく、余裕を持って暮らしているのは、感じの良いものです」
もっともらしいことを並べ立て、最後には「そういう家には金を惜しみなく掛けて育てた娘などもおるでしょう」と締めくくる。
「結局は金ということだね」
「まさか、貴方らしくもない」
心の声が出てしまっていたらしい。将中がそれを拾った。
「元々の家柄も世間の評判も揃っていながら、作法や躾に至らないことがあることは論外であります。どうしてこんな娘に育ってしまったのか、がっかりする。そういったものが揃っているところに優れた女が育つというのは当然で、珍しいものではありません」
左馬頭はまだ続ける。自分の女性論を俺と将中、
「俺は大した身分ではないので、源様のような素晴らしい身分のことはさて置くとしましょう。さてさて、世間に知られることなく、寂しく茂った
確かに、きれいな女性の人なら、大層な暮らしをしていないとおかしい。特にこの時代は、それなりの身分でなければ身だしなみを整えるということが難しい時代だ。
身分の低さは女性の身だしなみに直結する。
「年老いた父親は太り、兄の顔もに暮らしげで、これといって別格のものもない深窓に、とても気品に満ち、それとなく見せる才芸にも風情があり、その芸がささやかなものであっても、意外なことに興味を惹かれる。全く欠点のない
なるほど、たしかに場所と雰囲気がマッチしない女性は、ミステリアスな雰囲気があって心惹かれる。
何かしらの秘密を抱えていそうな女性を嫌いな男性は、そうそういないだろう。
秘密は、女性を美しくする。というのは誰の言葉だったか。
「どうだろうね、上流と言ったって優れた女性は滅多にいないものだろう?」
俺は葵と藤以外にも、貴族――帝の子としてそれなりにこの時代の、身分のある女性と関わってきたが、今のところあの二人に並ぶような女性は見たことがない。
大抵は俺の容姿か、身分に気持ちが向いていて、俺自身には何一つ興味がないような人だ。その点、葵は俺の身分をわかっていながらもまっすぐにぶつかってきたし、藤は俺に一切の隔たりを持たない。
俺がハーレムを目標としていながら、他の女の家に遊びに行かないのは、そういう理由もあった。
「さすが、源様だ。よくわかってらっしゃる。普通に付き合うのならば、欠点も気になりませんが、妻として選ぶのなら話は別になってきます。たくさんいる
「あー……ははは」
俺はわかるわかる、と無理やりうなずく。
たった一人とか決められないから、好きな女の子全員と結婚してやろうとするのは、やはり普通ではないらしい。
「宮仕えする場合でも、堂々と天下の要になる、真に優れた人材を選ぶのは難しいものです。それに、以下に優れていると言っても、一人や二人の力で世は納めることはできません。上の者は下の者に助けられ、下の者は上の者に服することで、広い分野で融通が利きます」
どうやら、世の治め方をもって妻として良い女性を論ずるつもりらしい。
「それに対して、狭い家の中で主婦するのは一人だけです」
「『広い』国家に対して、『狭い』家内という対比だね?」
「はい、さすがです源様。たった一人に任せるということは、不十分なところがあってはいないということです。一方はいいが他方が良くない、とちぐはぐではいけない」
「そう?」
「はい、源様はそうは思わないので?」
俺の質問に、当たり前のように不思議そうに答える。
やはりこの世界の人達とは助成に対する価値観が噛み合わない。現代にいたら真っ先に処されるタイプだ。あ、その点で言えば俺もか。
「いやぁ、その、すべてを完璧にできる人なんていないから、そこまでこだわらなくても、と思ってね」
「それはそのとおりでございます。しかしそうとは言っても、許容範囲というものがあります。そういう人はなかなかいませんので、私たちは、女好きというわけでも有りませんが、たくさんの
「あ、あぁ、そんなところだよ」
変に引っかかって無駄に嫌われてしまったり、変な人だと思われるのはよろしくない、大人しく引き下がっておくことにしよう。
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