帚木

梅雨

「源様は本当に一途で良い方ね。世の貴族、中でも天皇の血筋の人間というものは元来女遊びが激しいものよ」


 源様と出会って、一月程が経ちました。雨が降り続ける季節を迎え、源様が私の家で過ごすことも多くなりました。

 今日は朝から激しい雨が降り続いているから、きっと来ないでしょう。

 別に来てほしいというわけではありませんが、私の気持ちは曇天の暗い空のように、晴れやかなものとは遠いもののように感じられます。


「葵?」

「……あっ、なに?」


 考え事に夢中になっていたからか、お母様の言葉が頭に入ってきていませんでした。

 決して源様のことを考えていっぱいになっていたわけではありません。決して。


「だから、源様は他の殿方と違って、女遊びが激しくないわねって」

「あ、あ~。それね。そうね。たしかにちょっと珍しいかも」


 源様の父上である帝様は、失礼ながらも女遊びが激しい印象があります。

 噂ではあの歳で正妻を差し置いて、他の女性との交渉が多いとか。

 その噂が本当ならば、源様は本当に血がつながっているのかすら怪しいと思えるほどに女遊びの話を聞きません。

 ……藤様との噂なんか知らない。聞きたくもない。


「正直私は心配だったのよ。葵が皇太子ではない源様と結婚することに不満を持ってるんんじゃないかって」

「そんなの――」


 たくさんありました。不満たらたらで、断ることができるのなら、拒絶していたところです。

 けれど、あんなに愛されてしまっては、そんな思いはかき消されてしまう。

 それに、彼は「次の帝になる」と宣言していました。

 お母様に伝えることはしませんが、彼が本当に帝になるのであれば、彼と一緒にいた方がいい。

 彼との結婚を拒絶しなかった理由の中には、そんな少し打算的な考えもあります。


「けどまあ、二人の様子を見るに結構うまくやれているのね」

「ま、まぁ……」


 お母様の生暖かい視線に思わず目を逸してしまう。自分の色恋の話を親が知っているというのは、なんとも気恥ずかしいものです。


「昨日だってあんな――」

「おわーっ!? お母様何を言おうとしてるの!?」


 激しくなる雨に私の女らしくない怒鳴り声はかき消された。

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