朝ちゅん
「なぁ、葵」
「どうしました?」
「お前って案外ちょろいよな」
「なっ……!?」
翌朝。脱ぎ重ねてある俺と葵の着物を、布団から体を起こして眺めながら言う。
葵はそんなことはない、と言いたげな表情浮かべているが、それとなく頭を撫でてやると嬉しそうに頬を緩める……。
「えへ……はっ!?」
「もう諦めな?」
「こ、こほん……いえ。アナタには絶対、帝の地位を得てもらいますからね」
これだけは譲れないと、断固として譲れないといった様子で葵が言う。それが葵の望みなら、必ず叶えてあげよう。
というか、考えてみれば父である帝のようにこの世界で常に女性を侍らせるには妻問婚である今の地位のままでは俺の理想のハーレムとは遠ざかる。それも踏まえると、やはり俺は次の帝にならなくてはならない。
「とりあえず、着替えましょうか」
そう言って、葵が布団から立ち上がった。昨日赤くした尻がまだほんの少し赤くなっている。
「尻がまだ赤いんだな」
「な……変態ですか!?」
脱ぎ重ねてあった俺たちの着物を取り上げていた葵が、ばっと振り返りお尻を隠す動作をする。
「ごめんごめん、見ていたらつい……もう一回する?」
「し、しませんっ!」
頬を赤らめて葵は、ご丁寧に俺の分まで持ってきてくれた。
「まったくもう……そんなに色好みでは、浮気をしないか心配です」
「…………」
着物を着ながら、はぁ、とため息を吐く葵に対して俺は何も言えなかった。
「……どうしました?」
「いや、葵いつの間に敬語を使うようになったのかなって」
不思議そうに首を傾げる葵に、俺は咄嗟に誤魔化すように話題を振る。記憶が確かならば、昨日出会った時は敬語だったはず。
「それは……アナタが夜にあんなことをするから」
「あー……」
葵が恥ずかしそうに頬を染めて目を逸らすのを見て、俺は全てを察した。
「私の方が歳上なのに……というか、アナタは恥ずかしくないんですか?私みたいな年増……」
「え」
葵が思いもしなかったことを口にしたので、俺は声が出なかった。年増、といっても確か四つほどしか違わないはず。それに。
「むしろ歳上の方が好みだったりするんだけど……」
「えぇっ!?」
俺の発言に葵が驚きを隠せず大きな声で反応してしまう。
そう、俺は無論年下もいけるがどちらかと言うのなら断然歳上の方が好きだ。十歳差までが許容範囲。前世でも……思い出すと寂しくなりそうだからやめておこう。
「そ、そうなんですね……よか……なんでもないです」
「あんまり無理しない方がいいんじゃ」
「む、無理などしていません!」
強がる葵に少々呆れながらも、彼女の立ち振る舞いは、俺に前世の葵の姿を思い出させる。思えば前世でも葵は最初の恋人だった。こちらでは結婚相手だが。
そこまで思い出してハッとする。
もしかしたら、葵の他にもこちらへ転生している子たちがいるんじゃないか。
もしかしたら、“俺を殺した相手”も……。
そうだとしたら、今回こそは本当に上手くやらないといけない。今度こそ、彼女も幸せにしてみせる。
切り捨てるなんて発想はない。距離を置くなんて発想もない。俺は俺が幸せにしたいと思った女の子は、みんな、何がなんでも幸せにしてみせる。
「こ、こほん。それで今日はどちらに向かわれるので?」
着替えが終わった葵が咳払いをして聞いてくる。そういえば、今日から数日は用事があった。
「悪いけど数日は宮殿に居ることにするよ」
「え……」
俺が言うと少しばかり寂しそうに葵が小さく声を漏らす。その顔はだれが見ても残念がっているものにしか見えない。
「数日とは、どれくらい……」
おずおずと葵が聞いてくる。
「そうだな、五、六日くらいか?」
「そんなに………?」
俺の回答に、葵の顔に涙が浮かぶ。そんなに寂しいものなのか?前世ではちゃんと前もって会えないことを伝えておけば許してくれたはずなんだが。
「私たちはここでしか会うことができません。縁が希薄になってしますのは、やっぱり寂しくあります」
葵の言葉にはっとさせられる。ここは前世とは違う、と言うことを改めて思い知らされたと言い換えてもいい。
葵の姿が、前世での彼女に酷似していたから、いつの間にか忘れてしまっていたんだ。
目の前にいる葵は、姿は同じでも、性格は似ていても、重ねた月日も、世界も違う。
「……悪い。三、いや二日後には戻るよ」
「………………まぁ、いいでしよう」
明らかに不満ありげな表情ではあったが、なんとか納得してくれたようだ。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「あ、少し待ってください」
葵に背を向けて出かけようとして、引き留められる。
「なに……んぅ?」
「ん……」
俺と葵の距離が無くなる。
「いってらっしゃい。の、接吻です」
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