元服前日

 時は経ち、俺は十二歳になった。この世界での十二歳は成人で、明日はその成人の儀の日だ。

 俺は子供でいられる最後の日、いつものように藤の元に来ていた。


「もう明日なのね、元服」

「早いものですね、五年と言うものは」


 関係を持った日と同じように、藤が後ろからを俺を抱きしめる形で話をする。彼女には本当にお世話になった。色々な意味で。


「大人になったらもう、ここには来られないね」

「そう……ですね、決まりなので」


 寂しげな藤の声に、俺も少しばかり涙腺が緩む。この世界の大人の男性は、簡単には女性の部屋には入れないのだ。例え、俺と藤のような関係であっても。


「ねぇ、最後に……最後に一回だけ、“本番”……しとく?」


 藤が頭を撫でるのをやめて、俺の耳元で囁く。撫でるのをやめた手は、俺の太ももを這うようにして意思を持って俺の元へと向かっている。

 きっとここで頷けば、藤は喜んでしてくれるだろう。

 けれど、俺は頷くことができなかった。


「……ごめん」


 俺は寸前まで迫っていた藤の白く柔らかい手を、できる限り優しく払う。


「そう……」


 後ろで、残念そうな藤の声が聞こえた。


「けど、約束するよ。また必ず会いに来る」


 これは嘘でもなんでもない。俺は本気で、彼女にまた会いに来る。彼女と出会って五年。俺がこの世界で目指すハーレムにおいて、彼女は必要不可欠な存在にまでなってしまっていた。今更彼女なしの未来など考えられない。


「ふふ……貴方って、こんなに頼もしかったかしら」

「男子、三日会わざれば刮目してみよ。ですよ」


 この世界でも三国志は存在していたらしく、以前藤が教えてくれた言葉の中にそれがあった。


「あら、三日も会わないことがあったかしら?」


 さっきとは一転、楽しそうな声を出して俺の背中を優しく触る。確かに、ほぼ毎日会っていた気がする。


「しかたないじゃないですか」


 それを思い出すとなぜか少し恥ずかしくなって、以前のような舌足らずな口調に戻ってしまう。それが余計に恥ずかしさを加速させた。


「かわいい一面もあるのね」


 藤がすかさずと言わんばかりに笑って言う。精神的にはこちらが年上のはずなのに、どうしてこうも弄ばれるのか。たまには何か反撃がしたい。


「……藤はとっても可愛いから」

「……んぅ」


 俺は振り返って、慣れた手つきで彼女を抱き寄せた。


「……男の子らしい一面も、あるみたいね」


 少しだけ体を離すと、彼女が頬を朱に染めて笑う。少しは反撃できたようだ。


「これじゃ、貴方が私だけのものじゃなくなるもの、時間の問題ね」


 少しばかり残念そうに藤が笑う。藤としては、俺がハーレムを築くのには反対なのかも知れない。


「……やっぱりしましょうか、本番」

「え?……きゃっ」


 それに対して少しばかりの罪悪感を覚えながら、今日は初めて彼女を押し倒した。

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