俺、結婚

 夜になり、早速俺は左大臣の家へと向かった。大臣の厚いもてなしと礼には正直少し滅入りはしたものの、悪い気はしない。前世じゃ絶対にあり得なかった待遇だ。二人目三人目と嫁を増やした時にもこうしてもてなしてくれたら嬉しいのだが……どうだろうか。


「源様、こちらでございます。葵、源様だ」


 部屋まで案内されて、どうぞと左大臣はその場を後にする。一瞬だけ、藤のことが頭をよぎった。


「失礼します」

「……」


 部屋に入ると、俺は無言で迎えられた。え、無言?

 部屋を見回してみると、窓に肘を置き夜空を眺めている綺麗な女性がいた。

 月の光に照らされる、うすい紫色の髪。

 彼女はどこか怒っているような、少なくとも不機嫌さを感じさせる雰囲気を纏っていた。


「あの……葵……さん?」

「……」


 話しかけてもガン無視で、相変わらず外を見るばかり。顔すら見れない。

 ずいぶん昔にもこんなことがあったような気がする。いつだったか、俺がまだハーレムにも目覚める前……そういえば、彼女の名前も葵だったし、髪の色もこんな……。


『またね……』


 死ぬ直前に聞こえた、俺を殺した人物の声が頭をよぎった。まさか、そんな。あるわけがない。

 しかし、脳裏に沸いた可能性を確かめずにはいられない。


「おい、葵!こっちを向け!」


 俺はもう強引に彼女の体をこちらへと向けさせる。

 彼女は少し驚いて、俺の顔を一瞬だけ見た後目を逸らす。


「葵……葵なのか!?」


 だがそれ以上に、重要なことがあった。


「……なんですか、源様?」


 相変わらず苛立ちを隠さない雰囲気で俺に返事をする。いやむしろ俺が声を荒げたせいでより不機嫌になった気さえする。


「お、俺だよ!葵!覚えてないか!?」

「は……?アナタと出会ったのはここが初めてですけど」


 何を言っているんだ、という様子で葵が低めの声で答える。初めて出会った、それはそのはず。なら、どうして。


 


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